番外編 ジグムント出奔3 ~俺、生き延びたいと思いました~
番外編 ジグムント出奔3
現在の俺・ジグムントはゲームの設定より優秀である。
部分的に蘇っていた前世の知識によって、兄トルストよりもそつなくこなし、幼少期の学習到達度も僅差ではあるもののジグムントに軍配が上がる。
そんな状況ではトルストの妬みがゲーム設定以上になっていても不思議はない。
このまま、流れに任せていれば、間違いなく自分は兄に殺される。
そう悟った俺は、このときより、頭脳面よりも剣術や体術の訓練に力を入れた。
兄トルストは、領主になるには体力より知力だと考え、俺を学習面で超えようと必死に勉強しているようだった。
これ以上知的な能力を発揮して兄のヘイトを稼ぐことも避けたい。
魔物の襲撃を待たずに俺を排除する方向になど動かれたら目も当てられない。
俺は今後の方針を考えた。キマイラに襲われないのが一番だが、仮に襲われたとしても助けが来るまで死なない程度の実力は身につけておきたい。
そのためには剣術と魔法だ。
ゲームではジグムントを殺したキマイラは学園の警備員や駆けつけた治安部隊、騎士団が多大な犠牲を出しながらも学園から追い出し、広場に移動させたところで、年に一度の報告業務のためたまたま王都に来ていた西の魔獣辺境伯、ドメルノ・ドレスデン伯爵が一刀の元に斬り捨てている。
この、西の魔獣辺境伯爵領はいろいろな意味でゲームのバランスブレイカーであり、ゲーム制作陣が困ったときに都合よく使われるご都合主義の塊のような存在だった。
災害級・災厄級の魔物がわき続ける西の魔物の森……
それを討伐すべく、人外の力をその身に宿す辺境伯領の人々……
伯爵の連れ合いとなる奥方は、他の貴族と違い領内の領民で魔獣の討伐力が強いものから選ばれ、それなりの貴族と養子縁組の後、伯爵の連れ合いとなる……
戦闘力を持つ領内の人々は、伯爵家の人間を含めて魔獣の討伐に忙しく、めったに領外に出てこない……
そんな超人的人々でも、討伐で殉職することはざらである。
ゲームでは魔法中心に戦っていた伯爵夫人と末の娘が、魔法の効かない災厄級の魔物にやられているなど、死と隣り合わせの地域だ。
バッドエンドのいくつかには、この西の地を抜け出した魔獣による全滅エンドがあったりするなど、規格外の地域なのだ。
スチル集めのためゲームを姉からやらされていたときは気にしなかったが、現在この世界の住人となって初めて分かったことに、あまり情報が出てきていないため、王都に住む一般の人は西の魔獣の脅威も、ドレスデン伯爵家の異常な戦闘力もほとんど認識していない。
むしろ、東のオウスティン辺境伯の方が高評価を受けている。
しかし、ゲームの知識を持つ俺から見ると、オウスティン辺境伯の軍など、本気になったドメルノ・ドレスデン魔獣辺境伯一人で壊滅させることも可能に思える。
妻と末娘を失ったドメルノ・ドレスデン伯爵が災厄級の魔物をバッサリと斬り捨てているスチル絵は、これが乙女ゲームかと疑いたくなるほどの迫力だった。
俺もドメルノ・ドレスデン伯爵ほどではなくても、何とかキマイラに殺されない程度の力はつけたいものである。
次話は15時投稿予定です。
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