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Ephemeral note~夢を見る世界  作者: 瑞月風花
異世界編

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42/50

ディアトーラというところ……3


 ひとしきり泣いてしまったということもあり、変な感情の起伏はなくなっている。だけど、泣いてしまったということで、さらにルディの顔を見て話しにくくなったのは確かだ。


 いろ葉は黙ってルディについて行き、その背後から先ほどの教会裏ではなく、正面へと戻った。

ルディの案内で連れてこられた教会とはなんだか不思議な雰囲気を持つ場所だった。閑かで静かで……。懐かしい匂いがして。いろ葉の思い浮かべたのは、自分の祖父母宅だった。いろ葉が中学生の時に二人とも亡くなってしまったため、祖父母宅は一年に一度行くか行かないかの場所だったのだが、誰もいないその場所にある空気と同じものが流れているようだった。


 清浄という言葉が似合うのかな?


 館に比べると、簡素な木の扉。それを押し開くと木製の長椅子が等間隔で二列で並べてあり、ちょうど正面の台座には白磁の女神さまが佇んでいた。

「あの女神さまがトーラと言われているんだ」

「トーラ?」

いろ葉はその矛盾にすぐに気がついた。トーラは魔女のはずだ。

「そう。トーラ」

いろ葉の疑問に気付いたルディは微笑みながら続ける。

「隣国リディアスでは魔女なんだけど、ディアトーラでは昔から魔女信仰……というか元々トーラを崇める習慣があってね」

リディアスではトーラを魔女とし、討伐対象として位置づけている。しかし、最近は科学的根拠がない魔女や魔術に対して懐疑的な意見も多数出てきている。おかげで、元来魔女信仰のあるディアトーラも安泰なのだそうだ。

「曾お祖母様の時代までは本当にうちも大変だったんだけどね」 


 確かに大変そう。

 いろ葉はなんとなくそんな感想を抱いた。国の(まつりごと)なんて興味もないし、携わったことのないいろ葉でも、大変だろうな、という見地にはたどり着く。

「えっと……良かったですね」

だけど、やっと見つけた返答はそれだけしかなかった。興味がないとかそう言うのではなくて、それしか思いつかなかったのだ。深く追求してもきっといろ葉にはその苦労が分からない。

「うん、良かった。おかげでこの教会もあり続けられる」

ルディは柔らかく微笑みながらいろ葉に視線を戻したが、いろ葉はルディの視線を避けるようにして俯く。

「そうそう、女神さまの掌……そろそろ時間かな?」

そう促されて視線を上げたいろ葉は感嘆の声を漏らした。ステンドグラスを通して太陽の光が女神さまの掌に集まってくる。女神さまの掌の中が青く輝きだしたのだ。それは光を深く吸い込んだ水のように。光で満たされた掌に優しい眼差しを落とす白磁の女神さまが、愛おしそうに見つめている。

 まるで、大丈夫と言ってくれているような。ワカバがここでも大丈夫だと言ってくれているような。

「きれい……」

「きれいでしょ? 太陽や月の光の角度が関係しているんだけど、ほらあの女神さまの頭上にある窓のステンドグラスから射し込む光を受け止めてるんだ。女神さまが人の願いを掬い上げている姿なんだって」

「なんか素敵な気がする」

「でしょ?」

いろ葉の答えを聞いて、ルディは屈託なく笑った。ルディのその笑顔を見ていると、なんだかよく分からない安心感がいろ葉に生まれる。


 いろ葉の目の前にある女神像はそんなに大きなものではない。台座を併せてもいろ葉の背丈より少し高いくらいだ。それなのに、その光の海を掌に持つ姿は神々しく、寛大で、優しさに満ちていた。その姿に見とれていると今度はルディの声が静かにいろ葉の頭上から落ちてきた。

「僕の名前は曾お祖母様の弟であられるルオディック様からとってるんだ」

その声にルディを見上げたいろ葉は、ルディのその瞳が女神さまの持つ深く青い光にそっくりであることに気がついた。

「ルオディック様は僕によく似ていたそうなんだ。そして、彼がこの『今』ある世界を望み、今のディアトーラは存在する。曾お祖母様がよく言っていた言葉なんだけど、……」


 ルディの瞳の色は深く蒼い……深海の海の色。


 ワカバが大切にしている色。


 制服のポケットに手を突っ込むと、冷たい色が指に触れた。


 蒼い石。



「なんとなくね、ルオディック様はワカバ様がいる世界を望んだんじゃないかなと思うんだ。ワカバ様がどんな背景を持つ魔女さまかは分からないけれど、少なくとも、ワカバ様の存在できる世界はここだけだから」

 ワカバが大切にしているもの。

ルディの声が静かに広がる。しかし、ルディの最後の言葉へまで考え及ぶ前に、ルディが言葉を紡いだ。

 まるで、今はいろ葉に気づかせたくないように。

 思わず言ってしまったことを、掻き消すように、ルディがいろ葉に問いかけた。

「イロハは海って見たことがある?」

ルディの問いにいろ葉が頷くと、溜息をつくようなルディの声が続いた。

「いいなぁ。僕もいつか見てみたい」

視線をあげた先にあったルディは真っ直ぐ女神さまを見つめて、続けた。

「女神さまの紡ぐ光の海の色はルオディック様の瞳と同じ色なんだ。だから、ここはとても優しく、時に切なく、輝いて見える」

だとすれば、その彼の瞳の色は、ルディの瞳の色と同じ色をしていたということになる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女神像と光の描写が秀逸で、心癒される情景が目に浮かぶようでした。 いろ葉は、まだまだ戸惑いの中に居るのでしょうが、ワカバへの想いも強くなっている様にも見受けられます。 この世界で彼女が体験…
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