閑話休題
住宅街にあるいろ葉の家の天上は深夜ともなると静けさにひっそりとその身を落とし、耳を澄ませば星の囁きもわずかに聞こえてくるようになる。だが、それでもワカバの知る夜の闇にはほど遠く、星の数も比べものにならないくらいに少ない。
ワカバは屋根の上で手を伸ばして星を繋いでみる。あの辺りに後三つはあって、あっちには五つ。あの辺りには赤い星があって、こっちには青白い星がある。足りないものは多い。
時輪の森にはここよりもずっと多くの星があり、それぞれの記す道は無数にあった。そして、光は光を呑み込もうとして、阻まれて、流れていく。流れゆくのは、歴史だ。
あの星のどこかにまだワカバの大切な時間が、ある。きっとあの闇に隠れてしまいながらも、小さな息づかいで。
ただ、目印になる大きな光が目立つここの方が、光の繋ぎ方さえ知っていれば迷子になりにくい。
時を呑み込んだのは、力のないいろ葉ではない。
この世界を創り出した、もっと先にあるトーラだ。それなのに、どうしていろ葉を狙うのだろう。
どうして、いろ葉を使ったのだろう。
どうして、ワカバの世界は呑まれようとしているのだろう。
どうして、ラルーはこの世界の存在を今まで知らせてくれなかったのだろう。
あの時、ラルーはどうして微笑むだけだったのだろう。
ワカバという存在を失って、時が止まった『キラがいる世界』を思い浮かべた。それはワカバにとってとても大切な世界であり、失いたくないものなのだ。
それだけがワカバの正義。
ワカバという魔女にとって、それだけが唯一の望みだったはずなのに。
いろ葉をこの世界を思えば思うほど、道が分からなくなる。
ワカバはもう一度、自分が『ワカバ』であることを確認した。




