#034 『光束ねて』
バウムは俺の事について調べたいといい、この後も同行するようになった。
情報を見せられて分かったが、やはりというか当然というか、あれは日本語ではなかった。
あれを見て異世界に来てしまったんだと改めて俺は実感した。
何故か言葉も文字も理解できるあたり、この魔獣化している体と関係があるのだろう。
景色だけを見るとそこまで不自然ではないので地球と同じ感覚で勘違いをしてしまう。
太陽もあるし、夜が来る。
ただ、時計がないので正確には分からないけれど一日が24時間ではない気がする。
追われていることを考えれば時間くらいは知りたい。
そう思う所だったが野生動物3匹の旅には意味はないか。
傍から見れば、兎、犬が仲良く歩いており、その上を梟が迂回しながら飛んでいる。
なんとも平和な絵だった。
あと、目的地の町は森を抜けてすぐと言っていたが、案外遠かった。
飛べる梟にとってはたいした距離ではないのだろうが犬にはかなり遠い道のりだった。
「なんだわん公。お主まだ飛べないのか」
「いやいや、だから翼が無いから飛べないんだって」
「ウム。だがウサギは飛べておるぞ」
「ピエー」
ふと見るとさっきまで一緒に少し後ろで道中の草を啄みながらピョコピョコついてきていたエクエアが飛んでいる。
それも結構な速度で。
「えぇ!? 俺だけ!? 俺がおかしいの?」
「ウム。お主がおかしい」
「ピエー」
そういえばエクレアは超音波を出して推進力を得ていた。
それを応用すれば飛べたとて不思議ではない。
不思議ではないが、微妙に納得できない俺がいた。
(なんでだよ。そういえば猫ですら飛んできたな……どうなってんだよこの世界)
そういうわけで飛べない俺が激しく足を引っ張り、目的地に付く前に日が落ちてしまった。
「野宿か……」
「ウム。仕方ないの」
ほぼ野生動物の俺たちに宿が必要かと言われれば、必要ない気もする。
たが、人間の感覚で言えば、大自然の中で囲いもなく外で寝るのは不安だし、違和感があった。
人の住んでいない歩道もなにもない荒れ地に明かりなど皆無で夜は星と月明かりのみ。
雲が上を通ろうならば、あたりは正にまっくら闇だった。
幸い自分の周りの灯りは自前のちょうちんが明るいのでいいが、他の奴らの事もある。
バウムは夜目がきくから問題ないと言うが、エクレアはタダでさえ小さいのにさらに身を竦め小さくなって震えている。
怖いのか、寒いのか分からないけれど。
焚き火でも出来ればいいのだが。
俺にもあの猫みたいに火を出せる力があれば……
(火? もしかして……)
俺はふと思いつき、枯れ枝をと葉を口にくわえて集めた。
そして、ちょうちんの光を一点に集中するイメージで枯れ葉に当てる。
「やった! いけそう」
俺は昔、理科の実験でやった虫眼鏡で太陽の光を集めて紙を燃やした経験を思い出していた。
エクレアが超音波に指向性を持たせて飛べるという芸当を見てヒントを得た。
ならば、光に指向性を持たせて分散しないように真っ直ぐ飛ばせばレーザー光みたいにできるのでは?
そう思ったのだ。
思ったとおり、俺は光をある程度コントロール出来る。
「もっと、もっと光を束ねて一点に集めるんだ」
俺は細く一点に光を集めて高密度エネルギーで熱を作り出し、枯れ葉を燃やす事に成功した。
「よし! 燃えたぞ」
「ピエエ!」
「ウム。少しは能力を使いこなしてきたようだの」
文化的な暮らしとは程遠いけれど、ひとまず明かりと夜の寒さの心配は無くなったのだった。
もし『面白い』『続きが気になる』と思ったらブックマークと、広告下にある【☆☆☆☆☆】マークを選んで応援してね!




