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ニワトリだって恋をする  作者: のな
真実編
66/78

66羽 混戦

一部残酷と思われる描写があります ご注意ください

 大ホールに飛び込んだチキが見たものは、部屋中を埋め尽くすかのように大きな蛇が大暴れし、時にその牙で人を襲い、時にその体で人を締め付ける姿だった。

 だが、何も人間だけがやられているわけではない。


「撃てー!」


 大ホールの二階バルコニー部分に身を隠しながら戦う弓兵が、その合図と共に姿を現し、蛇に向けて矢を放つ。

 何本もの矢が蛇の表面ではじかれるが、それでも何本かはその体に刺さっていた。


「何がおきてるの…?」


 蛇より下を見れば、そこでは騎士とテレジアに似た者、それから魅了されているらしき者達が剣を交えている。

 

「この蛇は…テレジアか?」


 義祖父ロランの呟きに、チキははっとしてもう一度蛇を見上げた。

 チキ以上に体が普通ではない大きさに膨れ上がっている。それに、チキの目にはひどく苦しんでいるようにも見えた。

 

「とにかくこれを何とかせんといかんか」


「では、私とジェームズ殿でけが人は何とかいたしましょう」

 

 リチャードの言葉に、ジェームズの表情が「俺も!?」となったが、ロランは見ないふりをした。

 バーデは巻き込まれてしまった哀れな乗合馬車の御者の肩を同情するようにポンポンと叩き、ロラン、チキと続いて剣を構え、大ホールを駆け抜けた。


___________


「さすがに人数が少なすぎてきついな!」


 騎士団長ライルがぼやきながらも魅了された仲間達を気絶させていく。その剣はロランから習っただけあって危なげなく、舞うように敵を倒していくのだが、敵の数と元々味方というのがやはり壁となり、形勢は不利である。


「ぼやくぐらいならもう少し敵を減らしてください」


「元々は敵でないってところが厳しいと思わんか」


 ユリウスは思わずライルの背を蹴りたくなったが、そんな暇を与えず魅了された騎士達は襲い掛かってくる。

 操られていても実力があるだけに手加減ができなくなりつつあって、いつ大けがをさせてしまうかと先程からひやひやしている。



「あ・さ・で・す・よ~!」


 

 突然明るい少女の声が響いたかと思うと、ふわりと男達の頭上に白い髪をなびかせた少女が現れ、魅了された者達を蹴り飛ばしていく。

 

「チキ!?」


 ユリウスは目の前の男を蹴倒し、ぴょいっと飛んで降りてくるチキをその両腕で抱きしめた。


「無事かっ」


「ハイ。ユリウスも大丈夫? 怪我してませんか?」


 腕の中のチキはユリウスの体をぺたぺたと触って確認するが、ユリウスよりもよっぽどチキの方がケガだらけである。

 頬にうっすらと切り傷があり、バーデの上着からのぞく首や鎖骨辺りにもいくつか剣で裂かれたような切り傷と血の痕が見える。


「ケガをしたのか…」


 そっと頬に触れると、ピリリと走った痛みにチキが眉をピクリと跳ね上げさせる。


「平気です。それよりもここを何とかしなくちゃ」


「ぜひそうしてくれ」


 ライルから呆れたような声がしてユリウスは意識を戦場に戻した。

 



 よく見れば、ホールの中にはロランとバーデが加わっている。そして、倒れた者達がこれ以上危険な目に合わないようにと運ぶ為、こそこそと動く男が一人と、闇の中を縫うようにして動く怪しい執事が一人駆けまわっていた。


 かつての名将ロランが加わったことで騎士や兵の士気が自然と上がり、形勢不利であった男達が押し返しだすと、蛇が大きく威嚇の声を上げた。


「ユリウス、エマ達は…?」


 姿が見えない仲間達を心配して声をかけつつ、チキは目の前の操られた兵士の剣を弾き飛ばし、剣を奪って沈めた。


「エマは7番とかいう女に噛まれた」


「7番…それ、テレジアの子供です」


「「子供!?」」


 ユリウスとライルの声が重なり、チキは何があったかを(かて)の部分だけ誤魔化しながら話し、ついでにリチャードたちと立てた仮設も告げた。

 二人は無言のまま騎士や兵士を倒し、テレジアによく似た女や男を前にしてライルが大きく息を吐いた。


「国を離れても魅了が効いているのではなく、子供達が同行していたということだな」


 ライルは納得したように肯いた。


「テレジアは死ぬ前に三国を滅ぼす気か?」


 ユリウスは呟く。


 アストール、セオドア、ヴィート。この三国で騒動は起きている。特にセオドアはテレジアが現れてからの政治機能が著しく低下しているため、本当ならば砂漠の国ヴィートへ侵攻するなどできないはずであろうに、今回は全軍を向かわせている。相打ちさせるのが目的としか思えない。


「三国って、ヴィートか?」


 バーデが己のケガを庇いつつも何とか兵士を倒し、少し後ろへと下がった。


「ヴィートから救援要請があった。セオドアに攻められているとな」


「はあ!?」


 バーデが驚くのも無理はない。寝耳に水な話だ。


「だがうちから救援は出せん。この状態だしな。で、このままだとヴィートが勝っても負けてもアストールはヴィートに協力しなかったことを責められ、和平はここで途切れるかもしれんわけだ」


「大使が来てたでしょう! パーティーに」


「半数が魅了にやられてこの状況を伝える者がいない」


 なんてこったと呟くバーデの前に、テレジアの子供が踏み込んでくる。

 バーデは慌てて距離をとり、そこへすかさずチキが入ると、剣を振った。


「国を滅ぼすのが命を削ってまでしたいことだと思えない」


 チキは相手と剣を交えると、相手の顔を見てはっとする。

 テレジアそっくりの顔に、少しずつ鱗が浮かび上がっているのだ。まるで、蛇になっていくかのように。


 女は苦笑し、チキを見る。


「命を削ってしたいことは三国の滅びじゃないわ」


 そう告げる間にも瞬く間に鱗は全身に広がり続け、その眼も爬虫類のように縦の瞳孔へと変わった。


「私達の望みは…人間の消滅よ」


 次の瞬間、女は銀色に輝いて一匹の蛇となり、チキに飛び掛かってきた。


 ザシュッ


 蛇は空中でユリウスに斬られ体が二つに分かれた状態でしばらく床で蠢いていたが、そのままピクリとも動かなくなった。


 キシャアアアアアアアアア~!


 悲鳴のような威嚇の声を巨大な蛇が挙げたかと思うと、鞭のように唸る蛇の尾がチキ達に襲いかかる。だが、それと同時に他の子供達も蛇へと姿を変えて飛んできたのだ。


 子蛇を避ければ親蛇の尾に打たれて大けがを負い、親蛇を避ければ子蛇に噛まれる状況に、チキ達は絶体絶命のピンチを迎えた!




「何でも思い通りになると思ったら大間違いよ!」


 


 その時チラリと映りこんだ少女の姿にチキ達の行動は決まった。

 



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