39羽 準備中 ※
性的描写あり 苦手な方は後半読み飛ばしてください
なんだかんだと迎えたパーティー当日。
チキはドレスに身を包み、目立つ髪を隠すために栗色の髪のかつらをつけた。
「準備ばんたーん」
今日はお嬢様姿でも少年お嬢様という設定なので話し方はあえて変えない。というか、やはりお嬢様言葉は面倒なので変えずに済むならこれでいたいというのが本音だ。
チキは城のメイドに手伝ってもらって完成した姿を姿見で眺め、くるりとまわる。
既製品のドレスにしてはやけにぴったりくるドレスだ。
いつもならフランツの用意したピンクとフリルの多いドレスが、今日は髪の色に合わせてなのか、フリルはついているものの、色合いがブラウンでシックである。惜しむらくはあと少し胸があればというところか。
(寄せて上げてってしたけどなぁ…)
胸の谷間が見えそうな、広く開いたデコルテが殿方を惑わすのに重要だとメイド達に張り切られ、コルセットにより寄せて上げてと作られた盛り上がりはそれなりに形になっているが、これでもかっとコルセットを締め上げたメイドさん達の方がよほど大きな胸をしていたので小さく見える。
胸をつんつん突き、ムニムニと揉んでみたが、一朝一夕で大きくなるものでもないだろう。だが、もまれると大きくなるので揉んでもらいなさいとメイドさん達が言っていたので、誰かに揉んでもらうのがいいのかもしれない。
コンコン
「はぁ~い」
ノックをされて返事を返せば、扉の前に控えていたメイドがすっと扉を開いた。
「邪魔するぞ」
姿を現したのは正装に身を包んだ騎士団長ライルと、やはり正装に身を包んだユリウス、それから第5小隊隊長バーデだ。
チキはきらびやかな太陽の神と月の神のごときライルとユリウスを見た後、一応正装しているバーデを見てう~んと首を傾げる。
栗毛に栗色の瞳、顔には髭があり、山賊のような男が、正装のおかげか今日は普通の人に見える。
騎士先輩の話によると、彼の野性味あふれる姿は花街では人気なのだとか言う話だったが、見たところ少しましになったというくらいにしか思えない。
「まし?」
首を傾げつつバーデに尋ねれば、バーデにべしっと額を叩かれた。
「かっこいいと言え」
「お世辞で?」
「お世辞と言わなきゃ素直に受け取るわっ」
「じゃあ、カッコイイデスヨ、オヤツください」
「最後が本音だろうがっ」
笑えるコントに苦笑しながら、ライルがバーデを後ろにひかせる。
「チキ、やることはわかっているな」
チキは真面目な表情を作って頷く。
今日の仕事はパーティーに参加するセオドアの要人の動きを見張ること。
セオドアはこの平和宣言30周年記念パーティーに合わせて使者を送ってきた。それも国の要人を連れて。
彼等の話では砂漠の国家ヴィートと、セオドアの和平交渉を取り持ってほしいということだったが、セオドアは今もヴィートとは戦争寸前の緊張状態が続き、小競り合いも絶えない。そして、ヴィート側からの平和への働きかけもすべて突っぱねている状態だ。
それなのに、当事者同士の話し合いを飛ばして、他国に仲介に入ってもらっての和平交渉とはおかしな話である。
「もう少ししたらあいつらも完成する、それまで待っていてくれ」
チキは「はっ」とライルに敬礼し、ライルは頷くと何か言いたげなバーデを促して二人部屋の外へと出て行った。
気をきかせたのか、扉の前にいたメイドもいなくなり、チキはユリウスと二人きりだ。
「ユリウス」
腕を伸ばし、抱き着こうとしてはっととどまる。
メイド達の話では、チキは化粧をしているので、むやみやたらに男性の服に顔を近づけてはいけないらしい。
「チキ? 抱きしめさせてはくれないのか?」
ユリウスはチキが立ち止ったことに疑問を感じて尋ねれば、チキはわたわたとその場で足踏みする。
気持ち的には飛びついてその胸にすり寄り、できればそのさわやかな匂いを胸いっぱいに吸い込んで至福の時を味わいたいのだが、それをすれば恐ろしいことが起きるのである。
「ユリウスッ、チキは…ユリウスを押し倒すと顔がはがれるのです」
ちょっと思い違いをしているうえにお嬢様モードが不完全だったため、本音が駄々漏れた。
「押しっ…顔?…」
何をどう取ってよいものか慌てるユリウス。
「メイドさんが殿方にすり寄ると顔がはがれますからご注意ください、と」
チキははっとしてお嬢様モードを立て直す。
「あぁ…。化粧か。それならチキ、おいで」
ユリウスはチキの手を取ってソファに座り、きょとんとするチキを膝の上に横抱きに座らせた。
「顔を服に当てないように、頭だけ寄せればいい」
チキはふんふんと頷き、素直に従う。令嬢のパーティーモードでのいちゃつき方法というのを習ったことがないので、これが「いざという時殿方にお任せする」ということなのだと勝手に思う。
ことりと頭をユリウスの胸に当ててその香りを吸い込むと、チキは至福の時を満喫する。
「そのドレス、とてもよく似合う」
「お義父様の下さるドレスとは少し違うんです」
「気に入らなかったか?」
おや?とチキはユリウスを見つめる。
どうやら、このドレスはチキが潜入とはいえパーティーに参加することを知ってユリウスが作らせたものらしい。
既製品だとばかり思っていたのだが、そういうことならば体にぴたりと合った理由も納得できる。
「ありがとうございます。とても気に入りました」
にっこりとほほ笑むチキを見下ろし、ユリウスは狼狽したように口元を隠してしばらく黙りこんだ。
「ユリウス?」
ユリウスの顔を覗き込むと、ユリウスは軽く笑みを浮かべ、チキの頬に手を添える。
「顔がはがれますよ…」
「化粧がはがれるというんだ。だが、チキには少し濃いな」
ユリウスはチキの頬を撫で、チキの頤を持ち上げると、親指でチキの少し赤いルージュの唇をなぞった。
顔を誤魔化すためとはいえ、まだまだ幼いチキにこのルージュは少し濃い。
「どうかしてるな、俺は」
ユリウスは自嘲するように笑みを浮かべると、不思議そうに見上げるチキに口角を上げて微笑み、唇を重ねた。
「…っ…んっ…ふぅっ」
唇を貪るかのようなキスにチキは驚いた後、きゅっとユリウスの服を掴む。
その瞳は熱で潤み、扇情的にユリウスの目に映る。
「煽るな」
何が?とは聞けず、口腔に舌が滑り込んでくる。
「ふ…は…」
教えられるように舌を吸われ、絡み合わせて思考がぼんやりとしてきたところで唇は離れた。
「薄くなったな」
ユリウスは言うとチキの唇を見る。
赤いルージュがユリウスの唇に移り、色が薄くなってしまっている。
「ユリウスも口紅してるみたい」
ぼんやりとチキはユリウスの唇を見つめたかと思うと、ソファの上に膝を立て、ユリウスに覆いかぶさるようにして、下から見上げてくるユリウスにお返しの嘴攻撃、ならぬ唇攻撃を繰り返した。
ちゅっちゅっと拙いながらも口づけを繰り返し、もう一度二人は見詰め合うと、時間が来るまで、何かを惜しむように深く口づけをかわした。




