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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
37/78

37羽 お仕事です

「どぉぉぉこいったあんのがきぃぃぃ!」


 叫ぶ男に、ギルバートはやれやれと首を竦める。


「口が悪いですよ先輩」


 気持ちはわからないでもない。

 騎士団に所属して数日。第五小隊は外回りを主とする隊で、数人でチームを組んで時折町に降りるのだが、どの隊も町に降りるとなぜかチキを見失うのである。

 そのせいか、本来ならば1チームに新人一人なのだが、最近では必ずチキのいるチームには新入りがもう一人就くようになった。

 今日はギルバート、というわけである。


「なんで毎回毎回いなくなるんだっ。一瞬振り返っただけだったろ!?」


 そう、チキがいなくなるのは一瞬だ。

 それゆえ騎士としてのプライドが傷つけられるのか、見失わずに帰ったチームは尊敬の目で見られるという妙な現象が起きている。


「上ですよ」


 比較的チキの行動を読んでいるギルバートは、そういうと屋根の上を指さした。

 

「ああん?」


 口の悪い騎士は家の屋根を見て、そこに腰掛け足をぶらぶらしているチキを見ると、大声で叫ぶ。


「くぉらチキ~! 降りてんこんかー! 今日という今日はぜってー泣かす!」


「あ」


 ギルバートがあることに気が付いて声を上げた瞬間、口の悪い騎士の腹がぎゅるぎゅるぎゅぎゅぎゅ~と盛大に鳴った。ただし、腹ペコの為ではない。腹下しの為だ。


「うおふぅっ」


 騎士は腹と尻を押さえると、「先に帰ってろ!」と叫んでトイレへと駆け込んでいった。


______________________


 チキは屋根の上から口の悪い先輩が走り去っていくのを見ておやぁ?と首を傾げると、ギルバートの横に飛び降りた。


「ひょっとしてー」


「えぇ、言ってはいけない言葉を言ってしまいました」


 初めはチキ達も気のせいだと思っていたのだが、この騎士団に所属して「泣かす!」と声高にチキに宣言した者は、なぜかすぐにトイレに駆け込む事態になっているのである。

 症状があるキーワードに反応して起きるモノだったため、魔道士であるログに、それは呪いだと言われて第五騎士団は大騒ぎになった。 

 それこそ呪いスキル持ちのギルバートの仕業だとさんざん言われたが、ギルバートはまだ呪いというものがどういうものかも教わっていないため、使い方がわからず疑いはすぐに晴れた。

 では誰がかけた呪いか…。


 チキ達の間ではすでに呪いの主は確定している。

 チキに関わりがあり、それなりに愛情を持って接してくれる人。そして、騎士団にも精通し、多く使われる言葉を知っている人物だ。

 

 ユリウスも当てはまったが、彼は呪いスキル持ちではないので、後はあの人しかいない。


「リチャード相変わらずすごいね~」


「リチャード様ですからね」


 大公爵デルフォード家の執事リチャードである。

 チキはちらりと隣に立つギルバートを見上げ、きっと同じように育っていくのではないかと思っている。


 リチャードの教育は骨の髄まで、だ。

 むかし、ギルバートが紹介された頃、初めはどこか態度の悪い悪ガキだったギルバートが、翌日見事に矯正されていたのには驚きを通り越して恐怖したことがある。しかもその態度はよっぽどのことがない限り崩れない徹底ぶりだ。


 気を付けよう。


 今は離れたところにいるのに、なぜかさらなる恐怖を感じるチキ達であった。



 

 そういうわけで、先輩騎士を置いて城に戻ったチキとギルバートは、何やら第五騎士団の訓練所が騒がしいことに気が付いて人の輪の中に駆け込んだ。


「何かあったのですか?」


 ギルバートが尋ねれば、騎士達がちらりと振り返り、一緒についていった同僚がいないのを見て「またか」という顔をする。

 そんな余裕があるくらいなのでどうやら問題が起きた訳ではないらしい。


「今度城でパーティーがあるだろ」


 今度、と言っても誰それの誕生日とか、生誕祭とか、いろいろな節目にパーティーがあるのでどれのことかとチキは首を傾げてみせる。


「次の奴な。平和宣言30周年の」


 平和宣言というのは、名将ロランが活躍し、終結させた砂漠の国ヴィートとアストール国の終戦記念日だ。

 当時、戦場にて不可侵条約を結び、それをもって戦争を終結としたことから平和宣言と言われている。


「なら、おっきいパーティだね」


「ロラン様も参加だな」


 チキとギルバートが頷きあっていると、騎士が続ける。


「城内警備は大抵第一と第二が受け持つんだが、今回はどうも合同になりそうなんだ」


「合同?」


「大隊で動くってことですか。何のために?」


 普段の騎士団は小隊で動いている。だが、合同と言われれば、大隊となり、指揮系統も変わる。大隊は第一から第三に分かれ、それぞれバランスよくまとめられるため、小隊の仲間もばらけて所属することになるのである。


「セオドアだよ」


 ギルバートの目が真剣なものに変わる。

 セオドアの名はリチャードやロランからも度々上がっていたのだ。それも、きな臭い国として。

 おそらく、その国が何らかの動きをしたために警戒の意味も込めて隊を大きくまとめて動くのだろう。


「新入りどもはこっちこいー! と、チキ達も帰ったな」


 バーデが呼びかけ、チキは人垣を抜けてバーデの前に立った。同様にエマ、ラインヴァルト、ログ、ギルバートも集まる。


「お前ら五人も本来は組み分けするんだが、今回は特別任務だ」



「特別任務って隊長、任務が失敗しますよ」

「こいつらに何かできるわけありませんて」

「行方不明になる奴ですよっ」


 先輩騎士達の言い様にチキはい~っと歯をむき出し、さらに無理だと言葉を重ねられた。


「見目のいいのがいるんだよ。潜入組としてな」


「「潜入っ!」」


 ざわりと騎士達がざわめいた後、全員が示し合わせたように掌を立て、横に振った。


「「「むりむりむりむり」」」


 思わずがっくりと肩を落とすバーデだったが、自分も無理だろと思っていたのであえてそこは反論しない。


「団長の命令だ」


 一蹴すると、騎士達から


「団長は知らないから~っ」

「絶対騒ぎ起こしますってっ」

「あぁ…終わった…」


 呟く声に、不安げな表情のログを除く4人は


(絶対やってやる)


と出してはいけないやる気を出したのだった…。

 

 

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