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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
36/78

36羽 謎のお言葉

カイル視点です 飛ばしてもOKです

 面白すぎる…。


 第一小隊副隊長カイルは凝固したユリウスを見て必死に笑いをこらえた。それこそ腹筋を総動員して耐えに耐え、ようやく落ち着いた頃に各隊の隊長副隊長が集まり、歓迎会の続行について話し合いが始まった。


「失神者が多すぎるな。特に第四は」


 第五小隊の席に一番近いのは第四小隊だ。

 チキ達が食堂に現れた時から、その小さく愛らしい見た目が女ではないかと議論を呼び、注目を浴びていたせいもあって、虫料理の試練もどうなることかと皆が注目していたのが仇になった。

 よもや原材料を生のまま食べる強者が現れるとは誰一人思わなかったのだ。そして、それを間近で見たために第四小隊の被害が大きかった。


 一番被害が大きそうな第五については、もともと荒くれの集まりだ。職にもあり付けず、ギルドでも煙たがられるような風貌の彼等は、虫を食べる生活と無縁ではないため、被害は少なかったのだろう。

 まぁ、生で食べる者は少ないだろうが。


「デルフォードの坊ちゃんは肝が据わっているというべきか、それともあの将軍にしてあの孫ありというべきか」


 第二小隊のアドルフは悪いことではないと笑う。

 

 悪いことではない。

 ・・・あれが男なら。


 カイルはチキの義祖父、大公爵ロランよりあの娘が魔法生物であると聞いている。そして、彼女はユリウスに溺愛された少女だとも知っている。

 ニワトリとしてならばありなのだが、ユリウスの溺愛する女性としては無いだろう。

 現に、ユリウスの心はどこかに飛んでいていまだ戻っていない。

 それこそ男ならかろうじて可なのだが。


「戦時中なら生で食べることもあったがなぁ。ああも豪快にはさすがに」


 そもそも外であのミミズのような虫を探してもホイホイと見つかるものでもない。あのようにパスタのごとく食べられたのは調理用に集められていたからだと言える。

 そのせいで気持ち悪さが増したのだが。


「新入り達の方はどうなんだ? 倒れたやつは」


 肝心なのは歓迎会であれらを食べねばならない新入りの方だ。

 第五小隊隊長のバーデの意見に各隊が問題ないと告げる。


「それなら続行か。気を失ったやつは叩き起こすか外に放り出すかして」


 どうやらこのまま続けられそうだと意見がまとまりかけた時、食堂の扉が勢いよく開いて山賊が一人叫んだ。


「毒でも盛られたか~!」


 惨状を見てそう思うのは仕方がないが、大声でわめきすぎだった。

 

 近くを通っていたのであろう文官達が血相を変えて食堂に駆け込み、悲鳴を上げた。

 まぁ、普通に考えて騎士が倒れていたら国防の危機だから騒ぐよな…。


「て、あの男は誰だっ! すぐに黙らせろ!」


 バーデが苛立たしげに叫べば、すいっと彼の横に立ったのは第四小隊隊長シャーンだ。

 黒髪に黒い瞳、小麦色の肌という珍しい風貌は砂漠の国家、ヴィートの出身だからだ。

 長身で寡黙な彼が傍に立つと、皆驚いて一瞬ひるむ。

 例にもれず、バーデも少し驚いたようである。


「ログ・ウーラ。バーデのところの新入りだ」


「あれが!?」


 バーデはショックを受けた後、ずんずんとその新入りに近づいていく。


「山賊風の風貌で肉弾戦を得意とする魔道士。ついたあだ名が筋肉魔道士」


 ログの離れた場所ではシャーンの説明が続いていた。


「シャーン様、バーデはもうおりませんよ」


 説明を続けるシャーンに、慌ててカイルが止めに入れば、シャーンはしばし沈黙した後に再び後ろに下がった。

 相変わらずよくわからない人だ。


 バーデが拳骨一つと文官への謝罪一つで何とか事なきをえると、カイルはもう一人の良くわからない状態になっている自分の上官を見た。


「えぇと、ユリウス?」


 ちゃんと話し合いを聞いているのかと目の前で手を振るが、反応がない。

 まさか気絶したとかそういうことではあるまいなと慌てて肩を揺さぶれば、はっと我に返ったようである。


「あぁ、すまん」


「続行か中止かですが」


 話し合っていた内容を告げれば、ユリウスは目を大きく見開いた。

 何を見たのかとカイルが振り返れば…


「うげっ」


 カイルはログのリバースの瞬間を見てしまって口元を抑える。

 

 バーデが怒鳴り散らし、最終隊長が全員ログに罰として拳骨をくらわせたが、気のせいかユリウスの拳骨が非常に痛い音がしたように思う。

 

 結構本気で殴ったんじゃないか?


 ユリウスの表情は普通に見えて、何やら機嫌が悪い。だが、その機嫌が悪い理由が思いつかないでいると、なぜかカイルの隣にシャーンが立って呟く。


「嫉妬…」


「え? 何に対して?」


 驚いて思わず敬語が抜けたことでカイルの背に冷や汗が流れた。

 

 シャーンは砂漠の国家ヴィートの星読み(・・・)と呼ばれる一族の出だ。この国で言うなら巫女や神官長に当たるだろう。そう言った人はやはり常に近寄りがたい雰囲気を纏っていて、シャーンも例外ではない。それゆえか、敬語が抜けてしまうと妙に悪いことをした気分に駆られるのだ。


「ニワトリ」


「にっ!?」


 まさかわかるのだろうかとカイルが目に見えて焦り出すと、シャーンはカイルの頭を子供に対するように撫でてぽつりと一言。


「時間が短い」


「は?」


「早く捕まえるといい」


 相変わらずよくわから無いことを言って去って行った。

 残されたカイルは、いつの間に来たのか、隣に立っていたユリウスと目を合わせ、二人で首を傾げたのだった。




 


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