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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
35/78

35羽 5人目

歓迎会の大騒ぎ部分の詳細です

前半きちゃないので飛ばしていただいても大丈夫です。

「遅れましたっ」


 歓迎会が始まり、失神者が続出してすぐのこと、バターンっと勢いよく扉を開け、騎士団の新入り歓迎会に飛び込んできたのは第5小隊隊長バーデと並ぶ山賊風の男だ。

 栗毛に同じ色の瞳、もさもさと口の周りに髭を生やした隊長のバーデよりも体格の良い男は、食堂で死屍累々となっている人々を見て大声を上げた。


「毒でも盛られたか~!」


 その声は食堂の外をたまたま通りかかった文官を驚かせ、ほんの少し騒ぎになったことは言うまでもない。


_____________


「先程はお騒がせした。ログ・ウーラという」

 

 歓迎会が始まって10分後。周りに失神者がたくさんいる中で、男は告げた。

 食堂の第五小隊の席にドカリと座った男に手を差し出されて、チキはちゅるちゅると啜っていた虫麺スープを置き、握手を交わした。


「チキです」


 気を失って机に突っ伏しているエマを除き、ギルバートが同じように自己紹介し、ラインヴァルトが久しぶりと挨拶を交わすと、ログは今にもお開きになりそうな昼食歓迎会で、目の前に並んだ料理に取り掛かった。

 周りでは、一部の人間が食べないわけにはいかぬと必死に食事を続けている。

 隊長格は失神者の数を数えて会を取りやめるか話し合っているところだ。


「いやはや、ここに来る前に城門で捕まってしまってな。何度言っても魔道士だと信じてもらえなかったのだ」

 

 ログが遅れた訳を話し始めると、なるほどとチキは頷く。

 ログの着ている服は騎士の制服ではなく、自前の物で、服自体は魔道士の好むローブやマントなのだが、中身がどう見てもローブとは無線そうな歴戦の勇士である。

 先ほど握手した腕も、筋肉に覆われていて、線の細い人々ばかりが集まる魔道士とはかけ離れているのだ。

 おそらく城門の門番は彼を見て、ヘタな変装をした山賊が来たと思ったことだろう。


「で、騎士団が毒を盛られたわけでないというのはよくわかったのだが」


 話を変え、ログは頭を撫でさする。

 彼の後頭部には、先ほど大音声で叫び、喚き散らしたことにより、第五小隊隊長バーデから拳骨を食らってたんこぶができていた。


「何があったんだ?」


 いまだげっそりとテーブルに突っ伏す者達を見て首を傾げるログに、ラインヴァルトが料理を指し示す。


「恒例の歓迎料理らしい。その原材料を生で喰った奴がいてな」


 チキは指差されて巨大芋虫の肉巻きロールに齧り付きながら笑う。


「原材料?」


 目の前のテーブルの上にあった原材料は全てチキの腹に入ってしまっていたため、ギルバートが他のテーブルから今ログが口にしているパイの中に入っているクモの一種の入った箱を置いた。


 ログはごくりとパイを飲み込んだかと思うと、だんだんと顔を真っ青にし、ギルバートとラインヴァルト、ついでに何かを感じ取ったチキが避難したところでリバースした。


「吐くんじゃねぇよ! てか、うちの隊の新人はこんなんばっかか~!」


 瞬間を見てしまったバーデが叫ぶ横で、ログにつられた者達がリバースし、大騒ぎが最高潮に達したところですぐさま歓迎会はお開きになったのだった。


_________________



「理不尽だ…」


 ログの頭にはたんこぶがいくつかでき、ぷっくりと膨れていた。

 それもそのはず、ログはリバースの後バーデに散々怒鳴られ、つられてリバースしてしまった騎士達を含む先輩騎士達からも叱られ、最終的に各隊長の拳骨を食らったのだ。

 

 理由はもちろんリバース。なんと、あの歓迎会でリバースしたものは過去に一人もいないという。

 その輝かしき記録に泥を塗り、さらには我慢していた人々を巻き添えにしたのだから拳骨の一つや二つや計5つ以上は仕方がない。


「まぁ、あの状況で耐えてた奴らの努力を無にしたんだから仕方ないだろうなぁ」

 

 あんな悪夢のような悲惨な惨状の中、第一小隊と第二小隊の騎士達は、貴族出身者が多いためか誰一人としてリバースしなかったことは誇れると言えよう。

 いつになく真っ青にはなっていたので意地だったのかもしれないが…。



 5人は寮に戻り、各々のベッドに腰掛け、ギルバートは腕を組んでうんうんと頷いて嘆くログを見やった。

 ログはたんこぶをさすろうとして触れるのに痛みを感じ、手を引くが、やはり気になって手を伸ばすということを先ほどから繰り返している。


「料理はおいしかったよ。生の方が好きだけど」


 チキは他のテーブルからもらったオヤツ代わりのちっさな虫をぱりぱり音を立てながら食べていた。これには全員が微妙な表情を浮かべるが、チキの中では虫は食品に値するのでその表情こそを不思議に思い、首を傾げる。


「うううううぅ、虫の幻が見えます…」


「あ、おはようエマ」


 気を失ったエマはギルバートに担がれて戻ってきていたのだが、ようやく目が覚めたらしく、まだ少し青い顔をしながらも体を起こした。


「まだ起きない方がいいと思うが」


 ラインヴァルトが忠告するが、エマは主が起きているのにと意地で起き上がり、その主を見てふぅぅ~っと再びベッドに倒れこむ。どうやらチキの持つオヤツを見てしまったらしい。

 

「なさけないなエマ。それでもロラン様の弟子なのか?」


「うるさいですよギルバート。ところでそちらの方はどなたですか?」


 今気が付いたばかりのエマは、じっと様子をうかがっていた山賊…もとい、ログに顔を向けて尋ねた。


「あっ、そのっ、いやっ、私はログ・ウーラと言いまして」


 びしぃっと背筋を伸ばし、面接でもするのかというほどかしこまったログに、全員が唖然とする。


(なぜ畏まる…)


「魔道士ギルド出身の32歳、独身ですっっ」


(その情報いるのか?)


 ラインヴァルトが変なものを見るようにログの焦る姿を映して疑問を浮かべる。


「はぁ、それはご丁寧に。私はエマ・リュンナと申します15です」


「なんと15歳! 17歳差…」


(ロリコンか…)


 ギルバートが呆れたように考えれば、そこへチキが特攻をかける。


「ログはロリコンなんだね。ギルバートは熟女好きだし、仲間だ~」


 ギルバートはその瞬間、のんびりおやつを食べるチキの頭にアイアンクローを仕掛けていた。

 ニワトリもびっくりの驚く速さだった。


「だ・れ・が仲間ですか」


「いたたたたたたたたたっ」

 

 チキの特攻は失敗したらしい。しかもいつもの地雷を踏んだ。


「そうですよ。ログは年齢差を言っただけですよチキ様。ギルバートの熟女好きと一緒にしちゃダメです。それに、ここは騎士寮。男に恋をする不毛な輩がいるわけないじゃないですか」


 見た目は明らかに女だが、性別を知らぬ者には女っぽい男として認識されるエマの言葉に、騎士団が事実上女人禁制であることを思い出したログは、一気に冷や汗を噴きだし、から笑いした。


「ははははははっ、そうだともっ。騎士団にいるのは男なのだから歳の差を言っただけで私の趣味嗜好とは何の関係もないぞ」


 チキはギルバートと目を合わせ


(「絶対メロメロだよね」)


(「間違いなく一目惚れでしょうね」)


 小さく囁き合った言葉はログ自身の笑いでかき消され、二人はとりあえず笑みを浮かべてログとエマを見た。


 エマは、から笑いするログを不思議そうに見つめて首を傾げ、ログにちらと見つめられてはにこりと微笑み、彼の顔を真っ赤にさせてさらに首を傾げていた。

 そんな様子をチキとギルバートはにやにやと見つめている。


 ラインヴァルトは全員を見回して、前途多難すぎる自分の未来に大きくため息をついたのだった。

 


 

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