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ニワトリだって恋をする  作者: のな
騎士編
33/78

33羽 常備薬は胃薬で

バーデ視点です 飛ばしても大丈夫です。

 騎士団入隊試験の結果発表。

 それは、第五小隊隊長バーデの胃に穴を開けそうな結果となった。


 第一小隊から第五小隊までの隊長格が召集され、その日の朝議にて結果が配られる。

 今回採用されたのは15人。総勢200名近い申請者の中からたった15人だ。選ばれた者達はそれなりの実力者で人格者と言える。

 …言えて欲しい。


 バーデは唸り、目の前に配られた新入りの配置分け表を持つ手を震わせた。


「腹でも下したか、バーデ」


 騎士団内でも最年長、第二小隊長アドルフが何事かとばかりに目を丸くしながら声をかける。

 バーデは叫びだしたいのを我慢し、胃を押さえた。


「ちょっと気になることがありましてね。この配置」


「納得いきません」


 やはり、とバーデは自分の口を噤む。

 騎士団長に対し、異を唱えたのはやはりユリウスである。

 チキの振り分けられたのが変人の多い第五小隊で、自分の元に来なかった事に不満と不安を抱いたのだろう。


 それもそのはず、ユリウスの第一小隊は貴族からなる小隊だ。

 チキはデルフォードの名を持ち、貴族の中でも最高ランクに位置する娘。入隊するならば貴族中心で、ある程度フェミニスト揃いな第一小隊が妥当で安全だ。


 それに比べ、第五隊ははっきり言って荒くれ共の集まりだ。

 隊長の自分が山賊のような風体なのだ、それに付き従う者達も実力はあっても粗野で乱暴で山賊騎士団と呼ばれるような男達ばかり。しかも皆どこか癖のある変人ばかりとくれば、女でなくとも貴族ならば絶対に忌避するような危険な隊だ。ユリウスの反対ももっともだと思う。


 何を間違ってウチに入れようってんだ。


 絶対女に見えると嘲笑され、小突き回されるのが目に見えているというのに。


「納得しろ。おじ上から了承はもらっている」


 騎士団長であり、王の弟であるライル・デル・アストールは、黄金色の髪をかきあげ、その碧眼を鋭く細めて、反対するユリウスを見据えると告げた。


「貴族と市民を共にすると小競り合いばかり起きると言ったのはロラン様ですが」


 元々は貴族と市民上がりの騎士は同じ隊に配置されていた。だが、ことあるごとに反発し、差別が起きるので二つを分けたのは確かにデルフォード大公爵が将であった頃だ。


「この者なら問題ないと聞いている。デルフォード侯爵の元で貴族としてより町人として過ごした者だ。第一より第五の方が適していると判断した」


 あのお嬢ちゃんだ、確かに貴族の嫌味な攻撃より、荒くれ共に小突かれる方があっているかもしれない。

 バーデが納得しかかっていると、自分の肩を横からつついてきたものがあった。


「デルフォード大公爵の血縁でもみえるのですか?」


 こそっと声をかけてきたのは、金の髪がくりんくりんにねじれた『クリクリ坊や』と第五隊に呼ばれている第三小隊の隊長カールだ。21歳と若いが、剣の腕はおそらくバーデよりもあるだろう。


「うちになー、孫がいる」


「孫?」


 カールが確認のために配置分けの表を見てあぁ、と頷く。


「このチキって子ですね。15歳って若いなー」


 お前も若いだろ、とはおじさん気分が増すので言わずにおいたが、なぜかストレスが溜まった。


「大公爵の血縁が第五とは、おかしな配置だな。貴族ならば第一だろう?」


 第二のアドルフはもしくはうちだなと呟くが、そのことで睨みあっているライル団長とユリウスは黙ってろとばかりに周りを睨む。


 こえぇ・・・


「おじ上の見解ではこの者をお前の隊に入れればその良さが失われるということだ。他も然り」


「そのような」


「ここは騎士団だユリウス。騎士が騎士を庇護する気か? 守るべきは民と国だぞ」


 珍しく聞き分けのないユリウスに業を煮やしたのであろう、ライル団長が厳しい表情で訊ねれば、ユリウスはぐっと言葉に詰まった。

 

「籠にでも入れて大切にしたいんだろうがなぁ」


 ぼそっとバーデは呟く。

 

 人前でも脱げるあの破天荒なお嬢様が籠に入れられて大人しくするわけはない。

 それに、実技試験を見た限り、あれは第一隊のようなお上品な剣を使う者達の中では浮いてしまうだろう。そうなると、協調を大事にする第一よりも、個性を伸ばして補い合う第五が合っているとバーデも思う。

 

 ついにバーデも納得してしまった。


 だが、歓迎はできん!


「納得したのなら話は終わりだ」


 ライルは大人しくなったユリウスから視線を離し、彼等を観察していたバーデに目を向けた。

 バーデは油断していたため、どきりとして思わず姿勢を正す。


「バーデ、今回はサービスだ」


「えぇと、何がです?」


 ライルが配置分け表を指で叩き、バーデはもう一度それを見下ろす。


「常々使える奴が欲しいと言っていたろう。成績優秀者二人と治癒士候補が入っている。喜べ」


 それは絶対あの小娘のお守りですよね? そんだけ優秀な奴つけても暴走するような小娘ってことですよね?


 バーデが視線だけで問うと、ライルはふいっと目を逸らした。

 明らかにロランから何か聞いている態度である。いや、聞いているだろう。何しろ含みたっぷりの配置分けだ、バーデの聞きたくないあれやこれやを聞いて考慮した結果がこのメンツなのだ。


「くれぐれも頼むということだ」


 バーデは同じセリフを言いたげに睨んでくるユリウスを見ないようにして、軽く手を上げた。


「ガンバリマス」


 棒読みになったのは仕方がない。


 なんでこの俺が今になって大貴族やら同僚やらのプレッシャーを受けなきゃならんのだ!


 バーデは叫びたいのを我慢して、胃の辺りをぎゅっと抑えると、配置分け表をぎゅっと握った。


 第五小隊入隊者五名。見知らぬ最後の一人が人格者であるよう祈るバーデは、この日より胃薬という名の常備薬を持つようになったのだった。




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