30羽 そばに・・・ ※
少しだけ性的描写ありです R13以上でしょうか?
苦手な方は避けてください
「あ~、そこのでれでれの人、そろそろ戻ってきてくれないかな?」
フランツの言葉にロランがぶふっと吹き出し、ユリウスが睨むのを男達が視線を逸らして躱した。
「チキはこちらに来なさい。エマ共々叱ってあげたいのを我慢しているところだからね」
ユリウスと離れたがらない素振りを見せたチキに、義父フランツの静かな怒りが伝わり、チキは「ぴっ」と声を上げて急いでフランツの横に腰掛ける。
(うおっ、あのユリウスが落ち込んでるっ)
(落ち込んでますねぇ)
チキが離れたことで静かに落ち込むユリウスを見て、カイルとバーデがひそひそと呟き、ユリウスに睨まれると、素早く座ってお茶を飲み誤魔化した。
「さて、チキ。お前は騎士になりたいんだな?」
皆と同様ソファに腰を下ろしたロランの質問に、チキはだらだらと冷や汗を流しながらチロリとギルバートを見れば、彼は首を横に振り、エマを見れば、これまた遠慮なく首を横に振ってロランの失笑をかった。
「そうそうわしを誤魔化せると思うでない。で、チキ、どうなんだ?」
何かしらの方法でばれたらしいと把握したチキは、愛らしいドレスに身を包んでいながらも、少年のような表情で、意志の強い瞳をまっすぐにロランに向けた。
「私はユリウス様を支えられる騎士になりたいのです、お爺様」
「その必要はないっ」
ロランが口を開くよりも早くユリウスに反対され、チキは驚いてユリウスに視線を移した。
どこか辛そうな表情をするユリウスは、反対されたことで涙目になるチキの頬に手を添えてゆっくりと撫でる。
「チキに何かあったらどうするんだ。ただでさえ体が弱く今までその存在を隠されていたのだぞ」
(まだその問題があったか…)
ロランはここまでユリウスに真実を伝えてなかったことを反省し、今こそとばかりに口を開いた。
「ユリウス、チキは」
「チキの体に弱い所なんてないよ! そんなに心配なら隅々まで調べればいい!」
チキは立ち上がると、おもむろにドレスを脱ぎ始め、全員がぎょっとし、エマが悲鳴を上げた。
「ち、ちちちちチキ様! その調べ方に意味はありません!」
「全員後ろを向けい!」
ロランの叫びに男達がくるりと背を向け、チキはバサッとドレスを脱ぎ捨てると、シュミーズと膝丈のドロワーズ姿でユリウスに迫った。
「淑女のなさることではありませんよっ、チキ様」
エマが慌ててドレスを拾い上げて駆け寄ると、チキはエマを押しのける。
「チキはユリウスのモノだから平気。お肌は夫のみに見せるべしって教わったもの。だからユリウスがチキを調べてっ。そうしたら弱くないってわかるからっ! 騎士になっていいってわかるからっ!」
「いや、それはあってますけどあってません!」
チキの説得をエマに任せた男性陣は、エマの混乱する台詞を聞いてユリウスに希望を託す。
「チキ、気持ちは分かったから服を着てくれっ」
どうやらユリウスも困惑している、というかかなり慌てているような声音である。
「チキはっ、ユリウスの傍にっ」
今度は下着であるシュミーズにまで手をかけたのを見て、ユリウスは慌ててチキを腕の中にがっちりと閉じ込めた。だが、今回はチキも抵抗する。
ものすごい駄々をこねているように思えるが、ロランから見るとチキは本能に従っているように思える。
(魔法生物は本能で知っているか…)
「落ち着いてくださいませチキ様! 服はぬいじゃだめですってば!」
「ちゃんと見せるのー!」
「よせっ!!」
チキ、エマ、ユリウスの声だけで何が起きているかわかる男達は、このままだと収拾がつかないなと全員が思ったが、ふいに暴れる音が消えた。
「ふんむ~っ」
チキの声がくぐもり、エマが「きゃあ」と声を上げる。
見たいが見れないもどかしさに男達が焦れる中、ロランとフランツは何事が起きているのかと『家族』ということで振り返っていた。
「ほお」
ロランが感心したように声を上げ、フランツがかぱっと口を開けたまま、その場に崩れ落ちるのをロランが咄嗟に支えてソファに座らせる。
チキは、大きく目を見開き、唇に押し当てられた甘い感触に暴れるのをやめてゆっくりと目を閉じる。
体をがちりとホールドされ、頭もしっかりと固定された状態で、チキを黙らせる為の事だとは分かるが、重なったその唇は熱く、チキを蕩かせる。
そして、先程まで声を上げていたチキの唇を割ってぬるりと舌が口内へ侵入し、歯列をなぞり、舌同士が絡むと、チキはいよいよ体の力が入らなくなり、ユリウスにくたりと身を任せた。
「ごほんっ」
ロランが見かねて咳払いするまでやまなかった荒々しくも甘く深い口づけに、チキが喘いだのは言うまでもない。
名残惜しげに唇が離れると、チキはコクリと唾液を飲み込み、口元を親指できゅっと拭ったユリウスに眩暈がするほど惹かれてピタリと顔をその胸に寄せ、息を吐いた。
「チキ…チキは…」
「わかったから少し黙っていろ。…悪いが服を着せてやってくれるか」
エマは顔を真っ赤にしながらもコクコクと頷き、くたんくたんに力の抜けたチキに四苦八苦しながら服を着せると、ユリウスがそんなチキを横抱きに抱き上げ、ロランを睨んだ。
「私は彼女が騎士になるのは反対です」
チキがギュッと抗議するようにユリウスの胸元を掴むと、一度彼女を見下ろしてユリウスは顔を上げる。
「ですが、チキの意思を尊重します。あなたが彼女を政治の道具にせず、蔑みの対象にさせないと誓えるならば」
ロランは苦笑する。
「それこそわしの望むところよ。女騎士が誕生すれば確かに政治の道具とみなされる事もあろう。だが、デルフォードの名に懸けてチキとエマををそのような陰謀には巻き込ませぬ」
ぐったりとするフランツも挙手する。
「私も誓いますよ。二人を貴族のごたごたから守ります。女騎士を侮るものは許しません」
「及ばずながら私も力になりましょう。チキ様とエマのお心が踏みにじられることがなきよう取り計らいますよ」
最後に告げたリチャードの言葉に、何をする気だとロランは内心青ざめたが、その恐怖は必死で抑えてユリウスに頷いて見せた。
ユリウスは腕の中にある破天荒で幼く、ひどく愛しい存在を見下ろすと、そっと額に口づけて微笑む。
「騎士団に入れば俺は手を出すことができない。それでも傍に来るか?」
チキはユリウスの首に腕を回し、体が融けて混ざれば気持ちが伝わるのにと思いながら、肩に額を乗せて頷いた。
「傍にいさせて」
「わかった。体は心配だが、騎士になれるというなら傍に来い」
「はい!」
チキは目をきらりと輝かせ、ユリウスは頷いた。
一件落着する二人の傍で、男達は全員一致で同じことを思っていた。
(体が弱いのはもうユリウスの中で決定してるんだな)
と・・・・。
バーデ「あんだけラブラブでまだ無自覚なのか?」
カイル「妹のように思ってるとか言い出しそうです」
ロラン「今度こそ大丈夫じゃないか?」
リチャード「そううまくいきますかねぇ。経験が薄すぎですよ彼は」
ギルバート「商売女性しか知らないんでしたっけ」
フランツ「!! 一生自覚しなければいいんですっ」
フランツ以外全員「・・・・ありそうだ」




