狭い狭い喫煙室
「お疲れ様です」
河村 浩一は社内の喫煙室に入ると声を掛けられた。
喫煙など無関係に思える人物から。
新入社員の村橋 さくらが一人、煙草とライターを手に円筒型のスタンド灰皿の前に立っている。
「えっ? 村橋さん、煙草喫うの?」
「……はい」
一言だけ返事をし、さくらが煙草に火を点けた。なんとも辿々しく煙草を喫っている。
浩一はその様子を見ながら、自分の煙草をポケットから取り出す。
――どうしたもんかな。
火を点けながら、浩一は迷っている。
(たしかこの娘、高卒だから18とか19だよな。でもオレが『未成年はなんとかかんとか』って偉そうに説教するのもなあ……)
27才の浩一は、高校二年生の頃から煙草を喫いはじめた。そんな喫煙歴10年の自分がさくらの喫煙を咎めることには抵抗がある。
「河村さん」
結局何も言えず、ぼんやりしていた浩一はさくらの声に我に返った。
「河村さんは何を喫ってるんですか?」
「え? ああ、セブンスター。オレはずっとこれ」
「……セブンスター」
相手が男なら浩一は「試しに喫ってみるか?」と一本渡すかも知れないが、さくら相手ではそうもいかない。
「村橋さん、今どき紙巻き煙草を喫ってんの珍しいね。オレも嫁さんから『禁煙出来ないならせめて加熱式にしろ。家が臭くなる』ってうるさく言われてんだよ」
「……はい。一目惚れでしたから」
「……?」
浩一は話が噛み合っているような噛み合っていないような違和感を覚えた。
「仕事戻ります」
そう言うとさくらは灰皿に煙草を捨てた。まだ半分以上残っていた。
「うん。お疲れさん。まあ課長とか部長には見られないようにしときなよ」
扉を開け、喫煙室を出ていくさくらの背中に浩一は声を掛けた。
――――
喫煙室を出たさくらは大きく息を吐く。口の中に残る煙草の苦みに顔を顰める。
気持ちわる。頭もなんかふらふらするし。なんでこんなの喫ってんだろ?
それにしても。それにしても――――
ホントに鈍い男性。
さくらは「帰りにセブンスターを買いに行こう」と思う。
さくらは扉の向こうにいる浩一を想う。
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