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SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第2部

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22 さあ、決着をつけに行こう

 ドレッド級戦艦(1/2)に乗り移る。

 目の前には俺の片割れである変形(モーフィング)したドラゴン戦艦。周囲にはSサイズとは言えスーパーロボットたち。ならば俺も期待にこたえねばなるまい。

 俺は人間の脳をエミュレートした存在だ。だから俺が乗り移った相手も人型でなければその能力を十全に発揮できないのだ。と、理論武装を完成させる。


 俺は自分の感覚としては大きく伸びをした。


 不要な部分の電源ケーブルや光ファイバーがブチブチと引きちぎれる。

 真ん中に本体ブロック。左右と下方に二つずつ、ひとつながりのパーツを接続。こちらにも二枚あるアームドベースは胸のあたりにくっつけた。

 結果として完成したのは身長200メートルに到達しようかという巨人。どこかの超時空な強攻型程度の人型だが、押し出しの迫力は十分だ。


「天下無敵のLLサイズロボット、ここに見参。ってな」


 ノリと勢いで叫んでみる。恥ずかしいので日本語で、だが。


 ドラゴン戦艦が頭部をこちらに向ける。こちらは静かな佇まい、と言えば聞こえがいいが実はろくに動けない。

 線が多すぎて動けないんだ、と揶揄された昔のアニメのスーパーロボットではないが、こちらは張りぼてだ。ドレッド級のパーツは組み換えや交換を考慮して設計された物ではあるようだが、さすがに変形は考えられていない。関節部となるパーツはアームドベースの基部ぐらいだ。

 だから今、こちらの関節がどうなっているかと言うと、ワイヤーケーブルがむき出しになったブラブラだ。ポリキャップ関節さえ存在しない。糸が切れたらグシャリと潰れる操り人形状態と言えばわかるだろうか? ここが無重力だからそれなりに格好をつけていられるだけだ。


 ドラゴン戦艦が大きく口を開けて吠えた。

 こちらを威嚇してくる。


 アレ?


『アリスさん、今あいつが吠えた、よな』

『はい』

『どこを伝わって来た?』

『……わかりません。無線にも聴覚ユニットにも信号を受信したという記録がありません。あのD3から変化した物体が吠えた、という記録だけが残っています』

『吠える、という概念そのものを送信したのか。無駄に器用なヤツだ』


 ドラゴン戦艦を変態ゲイリーが掌握しているという可能性は消えたな。あの変態は人形偏愛以外は理知的だ。吠えて威嚇するなんて獣みたいな真似はしない。


「全機に作戦を通達します」


 アケラギさんがただの脳筋じゃない事を見せつける。


「今までの戦闘から敵艦の装甲を貫通出来るのはデュレリウム製の武器のみと考えられます。よって作戦の要となるのはオオミカミです。それ以外でデュレリウム製武器を秘匿している機体があったら申告してください」

「俺のパイルもデュレリウム製だ」

「拙者の小太刀もオオミカミの薙刀を削り出した際の端材で出来ているでござる」

「私も一発だけ、デュレリウムの砲弾を持っているよ」

「おい、そういう貴重品を消耗品として使うな」

「お守りとして一発だけ所持しているんだけど、ここで使わなかったらどこで使うの、って感じ」


「作戦の第一段階では、デュレリウム製武器を持たない機体が散開して牽制攻撃をかけます。敵の注意が分散したタイミングでデュレリウム製近接武器で突貫。これは敵の撃破が目的ではありません。装甲を貫通できたらすぐに後退してください。幸い敵の異常な防御力は外部からの攻撃に対してのみ有効である事が確認されています。装甲の内側に入り込んだ攻撃は普通に効きます。……魔王機は任意のタイミングで狙撃してください」

「傷口が開いたらそこへ集中攻撃で吹き飛ばせばいいんだな」

「はい。……サガラは危険だから後退しない?」

「無理だな。あいつは俺を狙っている。俺がさがったら多分追ってくるぞ」

「あなたは修羅じゃない。無理はしないで。危険だと思ったらすぐに逃げる事」

「俺にも事情がある。あれの処分は神から与えられた俺の使命だ」


 ま、こちらは張りぼてだ。せいぜいヘイトを稼いで肉壁でもするさ。


「サガラは俺たちの指揮下にない。無理矢理後退させる人手も惜しい。好きにさせるさ。全機、作戦開始」

「了解」


 生き残りの修羅機体たちが散開し、ドラゴン戦艦を取り囲む。

 散発的な撃ち合いが始まる。修羅たちは装甲を破った後の集中攻撃のために火力を温存しているし、ドラゴン戦艦は近づいて来ない修羅を脅威とみなしていない。


 俺も完全自動操作で撃てる武器を幾つか発射してみる。どうせ効きはしないが賑やかしだ。

 反撃の火線が飛んでくる。

 まさか一撃で破壊されたりはしないだろう。図体がデカイ以上それなりのHPはあるはず、と期待する。


 期待以上だった。


 ドラゴン戦艦の攻撃はこちらの装甲の上で無駄な火花を散らす。損害はゼロ。

 これは、無敵フィールド(仮)の効果がこちらにも残っている?

 これはアレのフラグだろうか? 無敵の防御力を持つ敵を倒せるのは敵自身が持つ武器だけだ、的な? 最強の盾を壊すには同材質な最強の拳をぶつければ良い、とか。


 試してみよう。

 近づいて行ってぶん殴ってやる。


 無理だった。

 五体がバラバラにならない様にゆっくりと接近しようとするが、ドラゴン戦艦は俺のまわりを周回するように移動する。追いつけない。

 だが、敵の注意は十分に引きつけた。


 一発の砲弾がドラゴン戦艦に着弾。装甲を貫通して爆発する。

 魔王機の虎の子の一撃だ。こんなに早く撃つのか? と思ったが、考えてみれば理にかなっている。これで敵は接近して来ない修羅機体も脅威と認識しなければならなくなった。


 敵の対空砲火が激しくなる。だがその対象は修羅の全機体だ。

 三つの機体が砲火をかいくぐって接近する。

 一機は攻撃を失敗したようだ。それでも大薙刀がドラゴンの装甲をえぐり、パイルバンカーが穴を穿つ。


「大将の戦果はともかく、突貫の旦那のは傷が小さすぎるぜよ」

「まだ、これからだ」


 パイルバンカーの修羅は離れぎわに吸着爆弾を撒いたようだった。その大半は無駄に終わるが、穴の中にちょうど飛び込んだ物もあった。内側からの爆発が傷口を拡げる。


 ドラゴン戦艦はまるで苦痛を感じているかのようにのたくった。

 苦痛? そんな訳はない。

 あれは傷口に攻撃を集中されないための動きだ。これ以上の近接攻撃を受けないための動きでもある。

 時間稼ぎ以上の意味はないが、稼ぐ時間に意味はあった。


「今更、こいつらが来る?」

「かまうな、単に障害物が増えただけだ」


 生き残りのスケイルたちが来援した。単体での戦闘能力は修羅たちにはるかに及ばないがその数は脅威だ。

 と、思いきやスケイルたちは修羅の横を素通りする。


「貼りつくだと?」

「修復している?」


 スケイルたちはその名の通り(スケイル)となってドラゴン戦艦の損傷部位を覆っていく。

 装甲と同じ判定なのか、貼りついたスケイルには通常の攻撃が通らない。


 戦況不利、か。

 ヘイトを稼いだ程度では勝たせてもらえないらしい。やはり、悪のドラゴンを倒すのは神に選ばれし勇者の役目だな。


『アリスさん、ヤツの戦闘指揮所が今どこにあるか特定できるか?』

『頭部付近のどこかだと思われますが、変形が著しく完全な特定は困難です』


 普通に考えれば頭部にあるか胴体の中央にあるか、どちらかだよな。

 せっかくだから両方狙おう。


 俺はアイツを殴りたい。だが、機動力が足りないせいで近づくことが出来ない。

 だから殴れない?

 そんな事、ある訳ないだろう。

 俺にはまだあの技が有るじゃないか。巨大ロボットの伝統芸とでもいうべきあの技が。


 俺は両腕をドラゴン戦艦に向けた。

 肘から先の部分にあるロケットエンジンを全力で動かす。

 そんな事をすれば腕がちぎれる。それこそが望むところだ。

 やはりここはあのセリフで送り出す。


「唸れ、鉄拳‼︎」

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