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SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第2部

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10 超人乱舞

 久々に「残酷な描写あり」がアップを始めました。ご注意を。

 追跡して来た車は文字どおり一捻りで片付いた。

 俺たちは爆発物を所持していると思われる敵の別働隊を追う。


 俺が敵の現在位置の地名を書き出し、それを頼りに車を走らせる。

 周囲の一般車両はこちらの金色の車体を見ると、慌てて道を譲ってくれる。


 ま、ロボットアームをむき出しにした改造車になんか、誰も関わりたいとは思わないだろう。


「目標の動きが変わったな」


 俺の書いた地名を見て、トキザネは言った。


「そうなのか?」

「ああ。元々の目的地がどこだったかはわからないが、今はこちらに向かって来ている」

「正面対決が望みか?」

「そうらしい」

「そうだね。もう肉眼で確認できるよ」


 レギンスの言葉にそんなに近いのかとびっくりした。

 慌てて外を見て、ちょっとした間違いに気づく。


 ここは円筒型のスペースコロニーの中だ。地平線なんて物は存在しない。逆に遠くの地面は上にせり上がって見える。

 コロニー内にいる限り、常に山の上にいるような物だ。遠方の目標の確認はたやすい。

 地名(の文字)しか解らない俺にはどの車が目標なのか判別不能だったが。


「ナビゲートはもう要らないかな?」

「ああ。だが、ヤツらの動きはしっかり見ておいてくれ。このまま馬上試合よろしく真正面からのぶつかり合いになるとは思えない」

「正解だ。動き出したぞ」


 動画の中でチキロキの配送車の屋根が吹き飛ぶ。

 こちらの車のボンネットが外れたのはギミックだが、あっちの屋根は単なる力技だ。強引にもぎ取られた屋根が道路を転がり、後続の車を巻き込んで事故を誘発する。

 これまでチラチラとしか見えなかった敵の姿が明らかになる。


「敵は3人。普通の容姿の運転手を入れると4人。身体にブースターを括り付けて、大型の火器を担いでいる」


 宙間歩兵って呼ばれていたか?

 彼らは大きかった。3人とも身長2メートルを超えている。皮膚が深緑色の甲殻になっていて、等身大の機動戦士か特撮怪人に見えない事もない。



【リュンガルド共和国、宙間歩兵】

 真空中での活動に特化した強化人間、キャンス族を中心に構成されている強襲部隊。

 無補給、真空中で10日程度は生存可能であり、その特性から普通ありえないと判断される状況下での奇襲攻撃を得意とする。トラップなどと呼称される事も多い。

 本人たちは太陽系最強部隊であると名乗る。



 アルシエ様とやらのネットワークに繋がっているせいか、彼らの情報が流れてきた。

 この擬似インターネット、魂由来の超常現象なのかダッチワイフボディ由来の機械的能力なのか未だに判断に迷う。便利に使えさえすればどちらでも良いが。あと、安全ならばね。


「来るぞ!」


 緑の巨人たちがブースターに点火した。

 バズーカ砲のような物を担いだ巨体が空に舞い上がる。

 コロニーの円筒の内側をショートカットだ。3人は瞬く間に接近してくる。


 ロケット弾が連射される。

 未来世界の超科学兵器ではない。20世紀レベルの科学力で作り出せるような火器。

 しかしながら、威力は十分だ。

 上空からの一方的な攻撃に、トキザネは舌打ちしてハンドルを切った。


 金色に輝く車体はまたしてもあり得ない挙動を見せる。

 四輪独立操舵ぐらいのレベルではない。4つの車輪がそれぞれ360度どの方向にも向く事ができるからこそ可能な変態的な動作。

 稲妻型の軌跡を描いてロケット弾の弾幕をかわしきる。


「奴らだってこの重力下では長時間は飛んでいられない。地上に降りてきてからが勝負だ」


 この車に対空火器は無いらしい。


 宙間歩兵たちは編隊を組み、ロケット砲をもう一斉射する。

 今度の標的は、前方の道路。

 路面に穴があき、瓦礫が散乱する。

 トキザネはブレーキを踏まざるを得ない。


 速度が落ちたこちらに敵が肉迫。至近距離からロケット弾を発射。


 やられる、と思った。


 ボンネットがあった所から腕が飛び出し、その攻撃をガード。ロボットアームの手の部分が吹き飛ぶが、なんとか防ぎきった。


 今度は左右から来た。

 速度がさらに落ち、停止状態を近いこちらの車体を挟み込むように襲ってくる。


「ここまでだな」


 おい、トキザネ。そんなに簡単に諦めるなよ。


 サラリーマン侍は安全カバーを叩き割り、非常用と大書きしてあるスイッチを押した。


 Gがかかる。


 変形した座席ごと射出された、と気づいた時には遥か下で金色の車が爆発していた。

 俺の身体を包み込んだソレはエアバッグのように膨らんで落下の衝撃を吸収。元の一見ただのシートに戻って荒れた路面に転がった。


「やれやれ、俺は非戦闘員のはずなんだけどな」


 どう見ても一万年前の戦い並みに生命の危機にさらされている。

 俺は身体の埃を払って立ち上がる。


「すまんな。可能な限り身の安全は保障する」

「あんまり可能に見えないのが難点だ」


 トキザネたちは俺を守るように集まる。

 宙間歩兵はそれをさらに取り囲む位置に着地、ロケット砲の砲口をこちらに向ける。

 こちら側で武器を持っているのはトキザネのみ。それもただの日本刀だ。


 大丈夫なのか?


 そう思ったのは俺だけではなかったようだ。

 ブースターの熱で陽炎をまとった緑の巨人が口を開く。


「勝負はついたのでアル。降伏せよ。そうすれば生命だけは助けてやるのでアル」

「これは明らかな不正規戦だろう? そちらに私たちを捕虜にする余裕があるとは思えないが?」

「単にお前たちを殴り倒して立ち去るだけでアル。ロケット弾で灰にされるよりはマシでアル」

「そしてサガラだけは連れて行く、か?」

「地球の遺産の回収は行なうのでアル」


 トキザネは日本刀の鯉口を切った。

 よく通る声を響かせる。


「諸君らはアズクモ・コロニーの主権を侵害している。ただちに武装を解除して投降せよ。そうすれば真っ当な裁判を受ける権利を得られるだろう」

「この場に存在する権利は火力によってのみ保証されるでアル」


 力こそ正義、と言いたいようだ。

 正当ではないが、今この場では正しい意見だ。


 しかし、トキザネたち3人はまったく怯みさえしていなかった。


「ハッタリはよせ。その武器はもう弾切れのはずだ」

「撃った数を憶えていたでアルか? これは貴公のような小賢しい輩に対応した特別製でアル。普通より装弾数が1発多いでアル」

「1発だけか? ならばまったく問題ないな」

「言ったでアルな。その言葉、後悔しないと良いのでアル」


 アルアルうるさい。

 アルアル歩兵はトキザネに向かって最後の(?)ロケット弾を発射。

 そのコースだと俺まで巻き込むだろうとツッコミを入れたい。こいつは回収対象まで残骸にする気か?


 サラリーマン侍が遂に抜刀した。

 居合いのように抜き放ち、刀の腹でロケット弾の側面をそっと押す。

 進路をそらされたロケットは俺たちのはるか後方でガードレールに激突。そこで炎の花を咲かせた。


「初速の遅いロケット弾など、この距離では役に立たない」


 今の爆風でか、綺麗に整えられた七三分けが解けていた。

 いや、これは本当にトキザネか?

 生真面目そうな顔立ちはもはや面影しか残っていない。精悍な野生的な表情を浮かべている。

 それだけでは無い。

 それどころでも無い。

 筋肉が盛り上がっている。服の上からでもはっきり分かるほど体型が変わっていた。


 ?


 俺が浮かべた疑問符に反応して、例の検索機能が働き出す。



【変幻のトキザネ】

 姿かたちを自在に変えられる強化人間モーフィ族出身。

 ただし彼は性格上、その能力を本来の用途である潜入捜査に使用する事はめったにない。自分の気分を盛り上げる為か、他者に対する演出としての使用がほとんどである。

 彼が持つ日本刀は「切り捨て御免」の証。

 彼がこの刀で人を斬り殺しても罪に問われる事はない。



 殺人許可持ちとか、こいつはOOナンバーか? 御免状ならカブキぐらいにしておけよ。


 今のトキザネの姿はもはやサラリーマン侍とは呼べなくなっていた。

 印象としては野武士と呼んだ方が近い。

 イメチェンした野武士は抜き身の刀を肩に乗せた。


「第52代目帯刀者、変幻のトキザネ。アズクモ・コロニーの守護者として推して参る」


 予備動作なしの神速の踏み込みがあった。

 裂帛の気合いがあった。

 緑の甲殻などには何の意味もなかった。


 気が付いた時には宙間歩兵の一人が袈裟がけにズレて、その場に崩れていった。


 野武士化トキザネ、こいつ怖い。

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