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SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第2部

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9 カーウォーズ

 俺たちは道場を出て、乗ってきた車に乗り込んだ。

 今回のドライバーはトキザネ、助手席が俺だ。


「で、どっちに走ればいい?」


 どっちだろう? 聞かれても俺も困る。

 観察対象の座標を確認する方法でもあるのだろうか?


「トキザネ、能力はあってもサガラは神眼の初心者よ。全部できるとは思わない方が良い」

「そうかも知れないが、ここで間抜け面を晒している訳にもいかん。……何か特徴のある建物が見えないか?」

「駄目だ。ただの住宅街にしか見えない。いや、今、一段高いところにある大きな道路に登った」

「幹線道路のどれかか? それだけではな」


 このコロニーの面積って、大雑把に計算して1000平方キロぐらいはあるよな。

 ちなみに、東京都全体の面積が2000平方キロ強。山地などを除外した居住可能面積だけを比較するとその差はさらに縮まる。

 それだけの広さの大都市、というか一地方の物流を支える幹線道路なんていったい何本あるんだ? っていう話だ。


「まって、その道路はコロニーの円筒に対して縦方向? 横方向?」


 今まで空気だったピグニー、レギンス君が声をあげる。

 この問いになら俺も答えられる。


「縦だ」

「じゃあ、そこの明るさはどう?」

「ここよりはやや暗いな」


 スペースコロニーの中にも昼夜の別はある。

 このコロニーでは内部のすべてを一斉に暗くするのではなく、円筒中央の人工太陽の発光部分を回転させる事で一つのコロニーの中で時差を作り出している。そうする事で1日三交代、24時間勤務のローテーションを無理なく実現しているのだ。


「今が夜明けか夕方のあたりか。だいぶ絞られて来たがまだ広すぎる。対象の車の特徴は?」

「昔ならライトバンと呼んでいたタイプ、小規模な荷物の配送用だ。青と白の二色に塗り分けられている。車体中央に何か文字が書かれているが、俺には読めない」


 漢字なら良かったんだが。

 あちこちの文字を無節操に使いまくるあたり、このコロニーの住人はやっぱり日本人の子孫か。

 だが、皆にはこれだけの説明でも得心がいったらしい。


「チキロキね」

「あそこの支店は北側エリア周辺に限定されていたはず」


 トキザネが車を発車させる。


「トキもあそこのお弁当以外もちゃんと食べなさいよ」

「美味いからいいんだ」


 どうやら大手の弁当屋だったらしい。名前の印象からするとコンビニかも知れんが。

 昨日聞いた所によると、コロニーの「北側」と呼ばれているのが俺の入ってきた港湾ブロックのある方向。「南側」が移動用機関ブロックのある方向らしい。


「チキロキを悪事に利用しようなんて許せない」

「北へ向かうのはいいけど、車だけ盗まれてて現在位置は南、なんて事は無いでしょうね?」

「それは無い。チキロキの営業範囲外で活動するなら業務用の車を盗む理由がない。あの国ならウチに草ぐらい入れているだろうしな」

「ではトキはその車が盗まれた訳では無いと思うの?」

「当然だ。何年も前に正規ルートで入国して、チキロキの従業員になっているやつが居たんだろう。宙間歩兵は目立つからな。手引きするやつの二人や三人居ないと発見されないわけがない」


 トキザネとアケラギさんが会話している間にレギンスは無線でどこかと連絡をとっていた。

 それらの会話をぼんやりと聞きながら、俺は追跡対象の動画を眺めていた。


 俺が自分の事を少しだけ特殊な部分のある「人間」と考えるから、活躍できないんだな。

 自分の事をロボットだと思えば、可能な行動の範囲は格段に広がる。


 ダウンロードされる動画を人間の精神をエミュレートしている部分でただ消費して捨てるのではなく、空き領域に一時的に保存する。

 スロー再生でじっくりと見直す。

 地名を表示しているらしい標識を発見。動画を停止して拡大表示する。完全には読めないが打つ手はある。


 ダッシュボードにあった紙とペンを手にとる。

 無線機を見るとわら半紙と鉛筆でもおかしくなさそうな技術力だが、これは電子ペーパーとタッチペンだった。相変わらずここの技術水準がよく分からない。

 俺は電子ペーパーに標識の文字を書き写した。


「今しがたここを通過した」

「でかした!」


 トキザネが何か操作すると車体の色が地味なグレーから輝く金色に変化した。そして増速する。

 まさかスーパーモード?

 な、訳ないな。

 覆面パトカーが頭の上にパトライトをポンと載っけた状態なのだろう。


「トキ!」

「兄貴!」


 緊迫した声が二つ響く。

 その理由は俺にもわかった。

 俺たちは今、法定速度を大幅に上回るスピードを出しているはずだ。それなのについて来る車がいる。


「ヤツらの狙いはサガラか! 最初から狙っていたな」

「どういう事?」

「私たちが追っているのが別働隊。そいつらが派手な騒ぎを起こしたら私たちはどうした? 誰か一人を護衛に残して出動するか、サガラをどこか安全な所まで護送してから行動を開始するか、どちらにしても多少の隙は出来ただろう。そこを襲撃するつもりだったと見た」

「たとえそうなっていてもサガラを渡すつもりは無いけどね」

「当然だ」

「で、どうするの?」

「対人襲撃が目的の部隊なら後ろのやつらの方が危険度は低い。あちらを速攻で片づけて別働隊を追うぞ」

「了解」


 車体の色を変えるだけがこの車のギミックかと思ったが違った。

 今度はシートが変形し俺の身体を包み込む。一瞬、拘束されたかと思ったぐらい身体をがっちりと固定された。


 シートベルトなんか比較にもならない頑丈さ、一体どんな戦闘機動をするつもりだよ? 空でも飛ぶのか?


 スピンした。


 高速走行中に、多少はスピードを落としながらも車の前後が逆になる。

 この車の足回りはどうなっているのか? そのままバックで走り続ける。


 スモークガラスで覆われた追跡者の車と正面から向かい合い、相対速度の差で急接近する。


 こちらのボンネットが弾けた。


 この車は覆面パトカーだと思っていたが、実はボンドカーだったらしい。でなければバットモービル。ひょっとしてひょっとしたらバルキリーかも。


 ボンネットの中はエンジンルームではなかった。

 そこにあったのは腕だ。

 人型宇宙機の腕をそのまま流用したと思われる二本の腕がそこに隠れていた。


 二台の車の鼻づらがゴツンとぶつかる。

 こちらの腕が相手の車をつかみ、その前輪を持ち上げる。さすがに車全体を持ち上げるほどのパワーは無いようだ。

 だが、そのままひねるようにひっくり返した。


 ハリウッド映画でよく聞かれるような轟音。


 追跡者の車は屋根をそりに変えて路面を滑り、ガードレールにぶつかって跳ね返った。

 あれでは乗っている者は無事では済まないだろう。よくてムチ打ち、悪ければ首の骨を折っている。


 トキザネは車をもう一度スピンさせて通常の走行姿勢に復帰する。

 そのまま何事もなかったように走り続ける。エンジンルームがあるはずの場所にきちんと折りたたまれた腕だけが今の非常識バトルの名残となっていた。

 レギンスが無線で後始末を頼んでいるのが聞こえてきた。


「呆れた」


 俺はようやく感想を口に出せた。


「ひとつ聞きたいんだが、この車のエンジンはいったいどこにあるんだ? と言うか、そこら辺を走っている車のボンネットの中は別に空洞じゃないよな?」

「普通の車はボンネットの中にエンジンがある。それは間違いない。こいつの場合はそのスペースが惜しかったので足回りにロボのローラーダッシュ機構を流用している」

「?」

「こいつのホイールは普通のものに偽装しているが中身はモーターだ。エンジンなしでも単独で勝手に回る。ただ、ロボのものを無理やり流用したので操作が難しくてな」

「そうそう、ギアがないから低速域だとすぐに回りすぎちゃうのよね。車庫入れに何度失敗したことか」

「……」


 とりあえず、こいつが日本では公道を走れない車なのはよく分かりました。


 この車(キングオブハート)の撮影は許可を得た私道でのみ行って下さい。

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