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SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第2部

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20/36

8 結局、騒動からは逃れられない

 ここはインターネットが使えないレトロフューチャーな未来世界であることが判明した。

 この衝撃の事実の前に俺はただ呆然と立ちつくすのみであった。


 だって、巨大掲示板も投稿動画もなしだぞ。

 出先で仕事の予定を確認する事も出来なければ、鉄道の乗り継ぎも出かける前に調べておかなければならないんだぜ。

 これで喜ぶのは時刻表トリックの復活を祝福する推理マニアぐらいだろう。

 俺はSFファンなのでサイバーパンクの消滅を悲しむ。


 以上の地の文は半分は冗談だが、残りは本音だ。


 宇宙を飛び回り人型ロボットを制御できる技術力があれば、インターネットぐらい簡単に開発可能だと思うが……

 単なる発想の問題なのか、それとも「アルシエ様」の規制が入っているのか?


 多脳者のモイネ殿なら超常能力で擬似的なインターネットが使える様だが、あの方法は自分でやる気にはなれない。

 10000年を生きた情報生命体(?)との直結なんて恐ろしすぎる。相手がその気になったら俺の制御なんて一瞬で奪われそうだ。


 そうそう、アルシエ様と接触したとおぼしきアリスさんは未だに目を覚まさない。

 ハードの中で情報の活発な動きがあるのは間違いないが、再起動はまだ先のようだ。





 朝っぱらから余計な問答で気力を消耗してしまった。

 とりあえず、本日はアケラギさんのお任せでコロニー内の社会見学という事にした。帰りに図書館に寄って子供向けの本を借り文字の勉強に役立てよう、というのだけが俺の希望だ。


 無線機(けっしてケイタイでは無い)で女子寮の外に待機していたトキザネ、レギンスの二人を呼びよせ、俺たちは外へ出た。


 このコロニーの中での移動は無公害の自動車的な乗り物と、真空のコロニーの外壁部分を走るモノレール的な列車の二本立てになっている。

 男性組二人はその自動車で寮の前に乗り付けてきた。

 こちらの世界の自動車に自動操縦装置はない。それどころかカーナビも無いようだ。

 行き先を任されたと主張し、アケラギさんが喜々としてハンドルを握る。





「ヤアッ」

「タッ」

「トオゥ」


 人体がマットに叩きつけられる音が響く。


 確かに行き先はお任せとは言ったけど、まさかこんな所に連れて来られるとはね。

 そこは道場だった。

 未来世界の格闘術や対人捕縛術、それらに興味がないとは言わないけれど、優先順位はかなり低いな。

 俺をここに連れて来た本人はトレーニングウエアに着替えて暴れまわっている。他を圧倒する腕力による無双状態。鬼な外見は伊達では無いという事か。

 ちょっと意外だったのが、彼女を含む3人が通り一遍以上の敬意を払って扱われている事。そのあおりでか、俺にも憧れや羨望の眼差しが向けられてくる。


「すまんな。アイツにはどうにも常識が無くて困る」


 声をかけて来たのはトキザネ。生真面目そうな外見と日本刀とのギャップが相変わらずヒドイ。

 そういえば、ちょっとマイナーだがサイボーグな刑事(コップ)の映画の3作目にこんな感じの日本製殺人アンドロイドが出てきた気がする。あの映画は子供向けすぎて期待ハズレだったな……


「構わない。ここへ来ただけでも勉強できた事は幾つもある。それより、気になったんだが俺の事は一般にはどう発表されているんだ?」

「私たちが魍魎期の遺産を回収して来た事、それに対して共和国がインネンを付けてきた事は発表している。遺産の詳細に関しては発表していない。遺産の外見データぐらいは外交ルートには流れているが」


 そこまで言ってトキザネは俺から目をそらした。

 横で聞いていたレギンスも真っ赤になってうつむいている。いったいナニを思い出した?


「あの映像が流出しているのか?」

「すまん」

「あれは俺の不注意だ。気にするな」


 そのままスルーしてもらった方がありがたい。変に反応されるとこっちの羞恥心まで刺激される。


「そう言ってもらえると助かる。……ちょうどいい機会だ。私からもあなたに尋ねたい。サガラ、あなたはいったい何者だ? あなたの目的は何だ?」

「それを調べるように上から言われているのか? 正面から尋ねるのはあまり上手いやり方では無いと思うが」

「私に上司などいない」


 ちょっとびっくりした。


「そうなのか? てっきりアズクモ・コロニーに仕える軍人か警官、公務員のポジションだと思っていたが」

「コロニーに仕える、と言うのは間違っていない。それが私の家系の役割だし、私の背負ったお役目だ。モイネ殿からあなたが危険だから監視してくれと頼まれればそれを拒否するほど頑迷ではないが、だからと言ってただ言われた通りにしていれば良いという立場でも無い」

「よく分からないが、もしモイネ殿が悪事を働いていたらそれを裁く事もあり得る、という事か?」

「万が一の時にはそれも出来る」


 独立した捜査権を持ったお目付役のような物だろうか?

 古いスペオペならキャプテン・フューチャーかグレーレンズマンを家業でやっているような物?

 ファンタジーRPGの勇者、の方が近いかも知れない。


「意外に大物だったんだ」

「私を何だと思っていた?」


 モブの雑魚兵士その1、ぐらいかな。

 もうちょい格上としてもイベントNPC(使い捨て)ぐらい。

 口には出さないが。

 そのあたりは曖昧に誤魔化して、でも彼の質問にまともに答えるのはこれもまた難しい。


「とりあえず、俺に生きる目的なんて物はないぞ。昔はあったかも知れないが、それは時の流れの中で失われた。今の俺はふらふら生きているだけの根無し草だ」

「そうか。……そうだな」

「俺が何者か、という問いには見くびっていた詫びに少しサービスして答えよう。俺は神が思いあがった人間に天罰を与えるために派遣した魔物、それが使命を果たしたあとも意味もなく生き延びてしまった姿だ」

「魔物」


 トキザネは目を細めた。

 生真面目そうな外見だが、そうすると意外に迫力がある。

 そういえば、彼は常にすり足で歩いている気がする。腰に差した日本刀は伊達では無いらしい。


「別に警戒は要らない。今の俺の力なんてタカの知れた物だし、前の時も相手方が勝手に自滅した形だ。放っておけば俺は無害だ」

「魔物を自称する者が無害と主張するのか?」

「神の使いたる天使、などと名乗るほど傲慢にはなれないのでな」


 トキザネの右手が今にも刀の柄にかかりそうだ。


「サガラよ、あなたの言う神とは何者だ?」


 アレが何者かなど俺の方が知りたい。


「神の声をきいた、などと言っても信用されないだろうしな。あえて言うなら俺にこのような形での生を強いた何者か、だ」

「このようなとは、人の心を持ちながら機械の身体である事か? あなたは死にたいのか?」

「DNAもホルモンも本物は何ひとつ無いこの身だが、エミュレートされた人としての本能が俺に生きろと命じる。ついでに、ある男との約束もある。自分から死のうとは思わない」

「男と、か」


 あ、今なにか誤解された気がする。

 でも、その誤解のおかげでトキザネの殺気がいくぶん和らいだ。結果はOK?

 いやいや、俺の精神的ダメージは結構でかい。


「約束はあくまでついでだ」

「……」


 トキザネが何か言った。俺がまだ知らない言葉だ。

 だが、俺の心はその言葉を正確に翻訳した。

 ツンデレ、と。


 やめてくれ。俺のHPはもう0だ。


 さっさと話題を変えよう。

 逃げ場を探して俺の視線が宙をさまよった。


 エロガキなレギンスは頼れない。


 アケラギの姉御は対戦相手の男を袈裟固めに極めている。

 男は苦しみながらも嬉しそうだ。


 他には何か無いのか、何か!


「‼︎」


 何か、があった。

 逃げ場を探す俺の意識が、何かの電波を受信してしまった。


 モイネ殿と一緒にサイコロ型宇宙戦艦を見た時と同じだ。

 ただし今度の受信は一瞬、内容は「危険」の一言のみ。


「サガラ、どうした⁉︎」

「……危険?」


 トキザネがまとう空気が一変した。いつでも抜刀出来る体勢で周囲を警戒。

 レギンスも俺をかばうように立ち、アケラギさんも技を解いて立ちあがった。


「いや、違うな。ここじゃない」


 俺はつぶやく。

 今の「危険」はこの場での非常警報ではなかった。どちらかと言うと「危険物を発見」というニュアンスだった。


「何に気づいた?」

「モイネ殿の使っていた能力、少しだけ発動した」

「巫女の神眼か。何を見た?」

「わからない。警戒警報だけが流れていた」

「追跡できるか?」


 この後におよんで、俺はためらった。

 アリスさんは未だに目を覚ましていない。ハッキングへの恐怖があった。

 だが、警戒警報を伝えてしまった時点で結論は出たも同然だった。


「やってみよう」


 意識を集中すると危険を知らせたラインが、まぁ見える。

 そこに慎重にアクセス。

 ヤバイと思ったらすぐ切るぞ。人助けなんて考えず、さっさと切るからな。


 最初に流れて来たのは「危険物所持」という概念。それも、これは爆発物?

 続いて、前回同様の動画が流れてくる。


「車だ。荷物の運搬用」


 宅配便かな? と俺はちらりと思った。


「青い制服を着た男が運転している。その後ろに、緑色の鎧を身に着けた男が隠れている。……いや、鎧じゃないな。身体の皮膚がそのまま甲殻になっている感じ」

「リュンガルド共和国の宙間歩兵。入り込んでやがったか!」


 その国って、外のサイコロ戦艦の所属元だよな。


「先日、接近してきたのが陽動で、その間に侵入されたのか?」

「かも知れない」


 いつの間にか俺たちは周囲の注目の的になっていた。

 アケラギさんはトレーニングウエアの上から上着を羽織って行動準備を完了している。


「放ってはおけない。サガラ、一緒に来てくれるか?」

「俺の戦闘能力なんて、外骨格なしでは一般人にも劣るぞ」

「だが、君の協力なしでは宙間歩兵を見つけられない。今から多脳者たちに連絡をとっても、既に危険信号が出ている以上手遅れになる可能性が高い」


 話しながらトキザネたちは上着を裏表逆にして着なおしていた。今まで平服だった物がそれだけで軍服調に変化する。

 軍人は軍服を着ること。

 戦闘員と非戦闘員の区別を明確にする国際法規はこの時代まで残っているようだ。


「まったく俺もお人好しだな。俺もその服を着た方が良いのか?」

「多脳者は文民扱いだ。たとえ軍事作戦に協力していても多脳者を意図的に攻撃することは禁止されている」


 このままで良いようだ。俺としてはもう少しヒラヒラしない服が欲しいけれど。


 コロニー国家同士の争いに介入なんてわざわざやりたくは無いが……

 いや、訂正しよう。

 どうせ一度なくした生命だ。身の危険を案じて引きこもるより、思いっきり楽しんで生きてやろう。

 スペースコロニーに侵入して来た敵を迎撃する、これ以上無い主人公的な活躍ではないか。


 緑色の侵入者なら身長18メートルの単眼の巨人が良かった、とまでは言わないがね。

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