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SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第2部

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5 俺のチートが終了していない件

 巨大脳みそに気圧されたが、俺はなんとか唇を噛んで踏み止まる。


「俺が何者であるのか、か。モイネ殿、その質問に円滑に答えるためにも、まずそちらが俺をどの様な存在だと考えているのかお聞きしたい」

「言葉遊びをするつもりはないぞえ。妾は質問をはぐらかされる事に慣れてはおらぬ。サガラよ、そなたが自分を何者であると定義しているか聞かせてくれや」


 ごまかすつもりがなくとも、俺にとっての自分の定義とはちょっと難しい問題だ。

 俺はいったい何者なのだろう? TS転生ロボ娘でいいのか?


「一つの事実として言うなら、俺はかつて生きていた人間の人格データをコピーされたAIであり、そのAIを搭載したアンドロイドだ」

「それだけかえ?」

「それ以外の何かが必要か?」

「足りぬ。まったく足りぬ」


 モイネ殿のロボットは足を踏み鳴らした。


「サガラよ、そなたは自分が何年ぐらい宇宙を漂っていたか知っておるか?」

「だいたい11000年ぐらいだったはずだな」

「その数字をそなたが認識していること自体が驚きじゃ。いつの時代に作られた物であれ、普通はその1/10の時間も持ちはせん。1/100でも危ないぐらいじゃ」

「……」

「そもそも、真空に暴露し強い放射線を浴び続けていたのじゃぞ。100歩譲って内部構造は無事だとしても、人工皮膚はひび割れ髪は色落ちしてパサパサになっているはずじゃ。それがなんじゃ、その製造したてのようなお肌とツヤツヤの髪は。そなたが色ボケの若いのが寄ってくるような姿をしておるのはおかしい。そなたは妾以上に醜い姿をさらしていなければならないのじゃ」


 彼女より醜い姿って、それはちょっと難しくないか?

 タイムトラベルな筋肉殺人機械のスケルトン状態だって彼女よりは美しいと思う。


「何か言うたか?」

「いえ、何も」


 思っただけです。

 俺はブンブンと首を横に振った。


「とりあえず、美容に関する話題は余談だよな」

「何を言うておる。大事な事じゃ」

「重要なのか⁉︎」


 この脳みそ婆さん、あんまりボケないでくれ。話が進まないだろうが。


「と、に、か、く。俺の稼働時間がおかしいという件については、俺はこのボディの開発者でも製作者でもないので回答できない。それが異常かどうかも含めて俺には判断不能だ」

「新陳代謝もないただの有機物が宇宙空間に放置されてどうなるかも判断できぬと?」

「……」


 確かにその辺りは俺も変だと思っていたからな。

 俺も少しは真剣に考えてみた。

 俺に関して普通ではあり得ない現象が起こっているとなると、やはりあの『神』か『神』から与えられたチート能力関係が最有力だ。


 仮説その1。

 例の『アカシックゲート』の閉鎖が不完全で、未だに俺に影響を与え続けている。

『神』の予定では俺はあの後すぐにあの世に帰還しているはずだったので、ゲートの閉鎖はいい加減でも問題ないと判断されたのかも知れない。


 仮説その2。

『ゲート』そのものは既に無いが、最後の戦いの時に俺はこの身体に能力を使いまくっている。そのために「現在の状態を維持し続ける」呪いのような物がかかっているのかも知れない。


 仮説1でも2でもあまり違いはないな。

 他人に話せる事ではないし、納得させるのは完全に不可能だろう。


「確かに俺も自分が特別な存在だという自覚はある。だが、それは今となっては俺の中だけで完結していることだ。証明は不可能。話すほどの価値はない」

「そなたの存在そのものが証明になると思うがのう」

「その程度では俺の経験すべての証明にはまったく足りぬな」

「だから何も話さぬと? あまりこういう事は言いたくないのじゃが、あまりにも非協力的だとそなたの扱いをただの宇宙を漂流していた拾得物にかえる事になるぞえ。実際、そなたが人に分類出来るかどうか、かなり疑問のようじゃし」


 そう来たか、と思いつつ、俺はちょっと脱線した感動をしていた。

 自分が人間であるかどうか悩むアンドロイドって、俺も直接見たことはない8(マン)とか新造人間とか兄弟ロボットとか、古来アニメ特撮系の主人公には定番のキャラ立ちだよな。

 俺は今、彼らに並んでいる。

 間違っても主人公(ヒーロー)じゃ無いけど。


 頑張って日曜朝に進出だ。


 というボケは横に置くとして、ここは少しは譲歩しておくべきだろう。

 こちらからの情報を小出しにして、あちらの情報をなるべく集めたい。


「俺はかつて特殊な能力を持っているのでは無いかと疑われ、俺にこの身体を与えた研究所ごと廃棄処分にされかかった。というか、された。宇宙を漂っていたのはそういう訳だ」

「研究所ごと、な。当時はびこっていたという魑魅魍魎どもをそこまで恐れさすとはたいした物じゃ」

「魑魅魍魎?」

「その時代なら、人が人間に擬態した異星生物に支配されていたと伝えられておるが、違うのかえ?」

「あの触手ども、そういう風評を立てられて革命されたのか? あいつらだって俺と同等以上には人間だったと思うが」

「興味深い話じゃな」


 当時の世相について解説してくれとか言われてもできないから。

 21世紀の出来事なら少しは話せるが、俺が冥界の神に導かれて死者の国から蘇ってきた、なんて事は秘密にしておいたほうが無難だろう。


「で、特殊な能力とはどんなものじゃ?」

「半分以上は誤解のようなものだ。誤解でない部分も今はもう使えないしな」

「それで?」

「きっかけは俺が俺の知るはずのないことを口走った事だったな。うかつだったよ」


 どこまで話せるだろうか?

 と、思った時だった。俺は何かを感じてあたりを見回した。

 なんだか周囲がざわついているような気がした。だが、取り囲む人型宇宙機たちもトキザネたちも何の動きも見せていない。


 モイネ殿が面白そうに身を乗り出した。


「ほう。こういう力かえ。そなたも妾と同じような能力を持っているようじゃな」


 ちょっと違いそうだ。

 俺もアカシックゲートの力が復活したかと勘違いしかけたが、今感知しているのは普通の電磁波のようだ。

 あたりを飛び交う電波の情報量がいきなり増大したのを、異常として理解したようだ。


 考えてみればこれもチートのうちだろうか?

 今の俺には普通の人間にはない電波やその他の放射線を直接認識する力がある。また、ダッチワイフボディや汎用関節ユニットの記憶装置と情報のやり取りをすることもできる。絶対に消えない写真記憶能力を持っているのと同じだ。

 俺は本格的にロボットやアンドロイドに近い存在になってしまったようだ。


 俺は涙も流せるし、熱い友情もわかるから良い。


 一呼吸置いて、警報音が鳴り響く。

 モイネ殿の機体が腕を一振りすると音は消えた。それから彼女は俺の知らない言葉で何かを説明した。


 トキザネたちが動揺している様子はない。

 非常事態だが緊急事態ではない、という辺りだろうか?


「何があったか知らないが、俺に関わっている暇があるのか?」

「いつもの示威行為じゃ。心配してもらうほどの事ではないぞえ。ほれ、そなたにも見えるであろう」


 モイネ殿の視線が俺の肩越しに背後に向かって伸びた、ような気がした。

 彼女は分厚い隔壁も透過して何かを見ている。


「残念ながら俺はそんなに便利に出来てない。この目は普通の人間に見える程度のものしか見えないし、知らない電気信号を解読するのも無理だ」

「そんなはずはない。それだけの力があれば間違いなく可能じゃ。出来ぬと思えばできぬ。出来ると思えばできる」


 彼女がさっきから言っている俺の力とはいったい何だ? 俺に秘められた超能力があるとでもいうのか?

 いや、ないとも言えないか。

 あの『アカシックゲート』の能力のほんの一部でも残っていたら超人と呼ばれるぐらいの超能力者になれそうだ。


 俺は試しに宙を飛び交うデジタル信号の一塊に注意を向けてみる。

 意味が分かる。

 これは動画だ。


「ほれ、出来たではないか」


 モイネ殿には俺の能力の使用状況までわかるらしい。

 俺よりはるかに年季が入っているからだろうか? 伊達に巨大な脳はしていないようだ。


 これはリアルタイム映像なのだろうか?

 映っているのは外にいた時も観測した立方体型の宇宙船だ。軌道を変えてこちらへの接近コースに入っている。


「リュンガルド共和国のドレッド級戦闘艦じゃ」

「ド級戦艦か。過去の戦闘艦をすべて時代遅れにするような画期的な性能でもあるのか?」

「別に、ない。アルシエ様の加護になるべく頼らずに宇宙を旅しようという心意気は買うがのう。動かすだけで大量の資源を浪費する、それだけの船じゃ」


 動画が変わる。

 人型宇宙機たちがワイヤー上を滑って各太陽電池パネルに展開、迎え撃つ準備を整えている。だが、手にしている武器は例のハルバード、もしくはそれに類する格闘戦武器だ。


「なんてアナログな。飛び道具はないのか?」

「アルシエ様のご意向で人間の生存に必須な施設の破壊は禁止されているのじゃ」

「流れ弾対策で射撃は禁止? 敵船に乗り込んでの白兵戦が主戦術?」

「そうなるのう」


 人型ロボットが必要になるはずだ。納得した。

 まさか、頭部を破壊された機体は失格になる、とかのルールはないよな?


「しかし、この対応で本当に大丈夫なのか? 相手方もその約束事を守るという保証は? あの配置では太陽電池ごと破壊する気になられたら、一瞬で壊滅しそうだが」

「保証はないが、今回は大丈夫じゃろう。かかっている物がそれほど大きくないからのう。そなたの情報が連中に知れたらどうなるか分からんが」

「?」

「連中が要求しているのは先刻回収した漂流物の引き渡し、つまりそなたじゃ」

「って、いったい何の権利があってそんな要求を……」

「あやつらは地球の遺産はすべて自分たちのものだと主張しているからのう」


 要するに力を持った強欲脳筋集団か。

 と、俺は一瞬納得しかけた。


 でも、何か今、聞き捨てならないセリフがあった気がする。


 地球の、遺産?

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