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SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第2部

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3 既知との遭遇

 ここから先は本気で動く。

 そう決心した以上、まずやるべき事は情報の収集だ。


 まずは自分の身体から。


 さっきはいきなり動いたが、10000年以上の時を経てこの身体がまともに動くのは奇跡だ。

 このダッチワイフボディは本来民生品。タイマー付きと揶揄される某会社の製品ではないが、民生品なんて物は数年ごとに壊れてナンボだ。

 少なくとも10000年間メンテナンスフリーで動きます、なんて無茶なメーカー保証はあり得まい。


 俺は日輪機体に抱き抱えられたまま、指の関節ひとつひとつから動作確認をしていった。


 驚いた事に、すべての箇所が問題なく動く。

 31世紀頃の技術力は俺の想像を絶しているようだ。

 唯一、体内の水の残量が不足していると表示が出ていた。現状だと大気のある所へ入っても口からの発声が困難であるらしい。

 唾液がゼロって事だな。

 それ以外にも数種類の分泌物が使用不能なようだが、そちらは使う予定がないのでスルーする。

 そんな物を使う予定は無いったら無い。

 絶対にない。


 一方、外骨格側も本体と大差ない状況だ。

 関節のほとんどは正常に動く。

 正常作動しない物はおそらくガンマ線バーストを浴びたパーツの残りだろう。

 宇宙空間用バーニアの推進剤やプラズマトーチの燃料は完全にゼロ。多少は残っていたはずだが、10000年という時間経過には耐えられなかったのだろう。

 使える物は外骨格の怪力とワイヤーガン。嬉しい誤算として、探査用ニードルがあと2本残っていた。


 巨大ロボットが相手では豆鉄砲にもならないけどな。


 呼びかけてみるが、アリスさんはまだ反応しない。

 アリスさんのいる領域で、活発な情報処理が行われている事は観測できる。

 サイバー空間で激しいバトルが行われているのか、それとも多大な負荷を抱え込んだのか。俺にはそれを知る術がない。

 俺に出来るのは彼女の無事を祈ることだけ。

 あとは、外部との連絡に可能な限りフィルターを入れて自分の身を守る事か。


 ま、彼女の事だから、いい場面でちゃっかり復活して来そうな気もする。


 自分の状況が確認できたら今度は外だ。


 スペースコロニー型宇宙船に目を向ける。

 太陽光を取り入れるミラーを持たない密閉型だ。ちゃんと測ってみると円筒の直径はおよそ7キロ、全長は40キロぐらい。独立戦争を仕掛けた某国家のコロニーより少し大きい。

 端部に推進器を持つが、慣性制御のようなオーバーテクノロジーを使用している形跡は無いので加速性能は大したものではあるまい。住民の事を考えずにコロニーの内壁を滑り台に変えたいと言うなら別だが。


 なぜこんなものが造られたのか、その意図はまったくの不明。

 スペースコロニーなんて物を移動させる必要がどこにある?

 恒星間航行用の世代宇宙船かとも思ったが、その仮説は太陽電池パネルに否定される。あの船は太陽から遠く離れるようには出来ていない。


 そう、コロニーの周辺宙域には多数の太陽電池パネルが浮かんでいる。

 パネルたちはそれぞれワイヤーで連結され、ゆっくりとした回転によりお互いの位置関係を保っている。その様子はどこかの魔法少女アニメの魔法陣のようにも見える。

 ワイヤーは回転の中心軸からコロニーに向かっても伸びていて、両者を繋いでいる。


 そのワイヤーの上を何かが移動している。

 あれも人型宇宙機だ。

 足の裏にワイヤーを掴めるタイプのローラーダッシュ機構を装備しているらしい。ああやって推進剤の消費を節約しているようだ。

 やっぱり機動な戦士より最低野郎か。


 他には何かあるか?

 太陽電池パネル群から少し離れて、宇宙船がもう一隻いる。こいつの役目は見当がつけられない。

 ゴツゴツしたちょっと歪な立方体型をしていて、その一辺は100メートルを優に超える。

 偏見かも知れないが、なんとなく悪役っぽい奴だと思う。





 俺を抱えている日輪機体が加速をやめる。

 音質の悪い無線の向こうで、男の声が何かしゃべっている。

 正確な意味は解らないけれど、雰囲気からするとこれはカウントダウン?


 日輪機は右手を伸ばし、何かをつかんだ。

 これもワイヤーだ。


『一本釣りかよ⁉︎』


 コロニー側が流したワイヤーをつかんで、それに運動量を吸収してもらっている。

 おそらくコロニー側では今頃、ワイヤーを懸命に巻き取っているのだろう。

 古いSF作品なら牽引ビームとか便利な超技術が出てくる場面だが、ここではやはりそういう訳には行かないらしい。


 他の2機も同じように一本釣りされているのが見えた。


 その時だった。

 俺の目にある物が飛び込んできた。


 いや、訂正しよう。

 それはさっきから俺の目の前にあった。ずっと見えていた。

 ただ、そこにあるのがあまりにも自然に感じられたため気にならなかっただけだ。


 日輪機体の胸に文字が書かれていた。多分、コックピットのハッチ関係の物。


「非常用、開・閉」


 漢字だ。

 21世紀の日本で見慣れた物とは少し違うが、中国の簡体字よりはよほど読みやすい。そのレベルで漢字。


 100世紀以上の時を経ても漢字文化はまだ生き残っていたのか。

 いかん、体内に水分が残っていたら涙が流れていたかも。

 これで「ヲカエリナサイ」とかの文字で出迎えられたら本気で泣いちゃうぞ。もちろん、最後の「イ」は左右反転の鏡文字でな。


 俺は別に人類を破滅から救うような大活躍をして帰って来た訳じゃない、と自己ツッコミ。


 しかし、人型宇宙機たちに対して敵意というか、闘志を維持するのが難しくなってきた。





 三機の人型宇宙機はバーニアを吹かして速度を微調整、コロニーの宇宙港ブロックに入って行く。


 なんだか、はじめての経験のような気が全くしないが、それこそ気のせいだ。別にコッソリ潜入しようとしている訳じゃない。


 人型宇宙機数機に出迎えられる。

 出迎えというより俺に対する警戒かな、とも思う。


 見ていると人型機体のボディ部分はほぼ共通規格。

 手足は必要に応じて付け替えるのか数種類あり。

 頭部はまったくのフリーダムであるようだ。


 その中の一つ、額に「愛」の一文字を掲げている機体を見て俺は確信した。

 こいつらは日本人の子孫だ。そうでなくともヲタク・カルチャーの継承者だ。

 人型宇宙機を使っているのも、機能性より「趣味」が主な理由に違いない。


 蒼髪美少年の転生者はいないと思うが。





 無重力の中、壁だか天井だか解らないところに「着地」し、足をそこへ吸着させてそのまま奥へ歩いていく。

 エアロックらしき場所を通過し、風が感じられる部屋に入る。


 奥の壁は隔壁かな?


 本来はもっと広い部屋なのを、隔壁をおろして俺の行動範囲を狭めている気がする。

 俺の外骨格で生身の人間を殴りつけたら大惨事なので妥当な扱いだと言えるだろう。


 3機の宇宙機が停止したのを確認し、俺は日輪機の腕の中から抜け出した。

 宇宙機たちと同じ床に立ち、外骨格の足の裏のマグネットを作動させる。


 さあ、あちらはどう出る?


 これだけの手間をかけて俺を回収したんだ。問答無用で俺をスクラップとして解体する、何てことは無いと思うが。


 最初に動いたのは、今にも「メインカメラがやられそう」なガンもどき君だった。

 機体前面の外装が大きく開く。

 コックピットはかなり小さい。だが、狭いとは感じない。

 乗っているのは子供か?

 一瞬だけそう思った。

 違うな。10000年前の事件でも顔をあわせた対G仕様の強化人間、ピグニー族だ。身体は小さいがあれで大人だ。

 同じピグニーでも違いはあるのか、今度の彼は東洋風の顔立ちをしていた。

 小人の若者は慣れた動きで床に降り立った。


 次にハッチが開いたのは日輪機体。

 同じ大きさのはずなのに、こちらのコックピットはやたらと狭く感じる。搭乗者はピグニーじゃ無い。

 人の上に立つ者の貫禄を感じさせる若い男だ。おそらくはチームの小隊長。

 だが、イロイロとツッコミ所の多い残念さんでもある。

 髪の色が真紅なのは、まあいい。東洋風の顔立ちと赤い髪はミスマッチだが、それは慣れの問題かも知れない。

 しかし、その髪を真面目なサラリーマン風に七三に分けているのはどういう事だ? つい今さっきまであの狭いコックピットにいて高重力に耐えたりしているのに髪が乱れないなんて、未来の整髪料はそんなに優秀なのか? それともアレは形状記憶能力付きのヅラか?

 そしてもう一つ。コックピットから出る時に取り出した物、アッチは日本刀?

 鞘に収まったままなので抜いたら別の道具という可能性もあるが、一見すると日本刀としか見えない代物だ。

 赤い髪のサラリーマン侍?

 サラリーマンも侍も日本を象徴するものかも知れないが、その二つを混ぜてはダメでしょう。


 サラリーマン侍は俺の前に降り立ち、赤い顔をして目をそらした。


 今の俺の恰好はビキニアーマー級。

 コイツが結構ウブなのか、それとも女性が肌を晒すのがタブーな文化なのか?


 見るとピグニー君の方も俺から必死で目をそらしている。今にも前かがみになりそうだ。


 こういう反応をされるとちょっと困る。こっちまで恥ずかしくなりそうだ。

 外骨格をもう一段変形させたほうが良いだろうか? 腕にしているパーツを全部使えばワンピースっぽく出来ると思うが。


 バシッ、バシン。


 いい音が2回響いた。


 男どもが頭をおさえる。


 いつの間にか三日月機のパイロットも降りて来ていた。

 姉御、な感じのたくましい女性だ。彼女は丸めた何かで男たちの頭をはたくと、大声で何かを命じた。


 日輪機のパイロットの方が位が上に感じていたが、それは間違いだったかも知れない。

 二人の男は一も二もなくクルリと俺に背を向けた。


 三日月機のパイロットは大柄な女性だった。

 今の俺は外骨格のおかげで高下駄を履いているような状態だが、それでも彼女の方が背が高い。生前の男の俺でもかなわないぐらい筋肉を見事に鍛え上げている。今の俺と違って胸も大きい。ただし、その胸の半分は脂肪ではなく筋肉で出来ているようだった。

 ちなみに、彼女が着ているのはパイロットスーツらしい色気のないつなぎの服だ。肌の露出はほぼ無い。


 彼女は俺に何か話しかけ、微笑みを浮かべる。

 世話好きな表情。

 ダッチワイフボディの10代の小娘の外見が役に立っている?

 この身体がトラブル以外の何かを初めて運んできた気がする。


 そして俺は見た。彼女の額に小さなふたつのツノが生えているのを。


 なんだかとって喰われそう。


 いや、あのツノにも何か理由があるのだろう。脳に直結の端末になっているとか。

 しかし、彼女の体躯とあわさると「どこのお山の童子さんですか?」と問いかけたくなるような、完璧な鬼っぷりだ。


 彼女に対して微笑み返したつもりだが、その笑みはひきつっていたかも知れない。


 それにしても、巨大ロボットに乗った侍・小人・鬼の三人組かよ。

 ちょとキャラが濃すぎないか?


 ま、転生TSロボ娘の俺より濃いかどうかは知らないけどな。

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