表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF世界に転生したと思ったら身体がなかった  作者: 井上欣久
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/36

10 消滅の危機⁉︎ 恐怖の夜想曲

 俺はあの触手男リチャードたちの居場所、第1リングに足を踏み入れた。

 与圧されていくエアロックの中で、俺は自分自身をチェックする。

《アカシックゲート》はレベル1もそろそろ打ち止めのようだ。会議室の様子が解らなくなってきた。

 身にまとった汎用関節ユニットは、その3割ほどが機能を停止していた。大量のガンマ線を浴びたためだろうか? デッドウェイトにしかならないそれらを投棄する。

 失われていくチート能力のかわりになりそうなのがこの装備だ。本体に直結してあれば自分の体のように自由に動かせるのがありがたい。


 あとは先ほどのおかしな声だが…、生身の脳がなくとも幻聴を聞くことはあるのだろうか?


「聞こえていますか、コタロー」


 どうやら幻聴でも幽霊でもなかったようだ。

 汎用関節ユニットの中にスピーカー付きの物があったらしい。声はそこから出ていた。


「アリスさん、ずっとそこにいたのかい?」

「はい。コタローの所は満杯だったので、関節ユニットの空き領域におじゃまさせてもらいました」

 ソフトだけで避難できるのは俺だけじゃない、って事だ。

 それならそうと早く言ってくれればいいのに。と、思ったが話も聞かずに真空中に移動したのは俺だったか。自業自得だな。

「本当ならもうしばらく隠れている予定だったのですが、コタローがこの筐体に対する外部からの干渉を禁じてくれたようなのでこうして話が出来ます」

 リチャードたちの命令を聞かなくてすむ、という事か。

「じゃあ、結構早いうちにそこに入っていた?」

「はい。ベリアルが宇宙港内に入ってきた時には既に」

 そうなるよな。俺が外部からの干渉を禁じた後だと、アリスさんが中に入るのも不可能になる。

 そんな大事な事も話せていなかったとは、俺のコミュニケーション能力にはかなり問題があるようだ。


 天井のランプが青くかわり、与圧終了を告げる。

 俺は針のランチャーを用意し、身を低くして待ち伏せを警戒した。

 扉が自動で開く。

 誰もいない。ただの廊下だ。


 どこか遠くから、女性の声が響いてくる。

「もう終わり。もう終わり。もう、終わってしまったのよ…」

 身を切るような悲痛な叫び。

 俺は自分が幽霊船にでも迷いこんだような錯覚を覚えた。アンデッドは俺のほうなのだが。


 廊下の先から誰かが歩いてくる。

 リングの内側にいるので、最初に見えるのは足だ。何者だろうか? そしてどんな武器を持っているだろうか? 未来の世界の純然たる戦闘用装備が相手だと、チート能力なしでは太刀打ちできない可能性が高い。

 はたして、やって来たのはあのリチャードだった。一見すると非武装に見える。

 相変わらずの整形しているとしか思えない美男面だ。だが今は、疲れはてたような、すべてを諦めたような、そんな顔をしている。

 さて、ぶん殴りに行こうか。

 俺は拳を固めた。

「我々を破滅させた気分はどうかね?」

 やつれはてた美男の言葉に、俺は拳を握りしめたまま首をかしげた。

「まだ、破滅させていないと思うが?」

「気づいていないのかね? ま、それが普通か。君が全知全能でないと知って嬉しいよ」

「ずいぶんと持ち上げてくれるな。全知に近い力を与えられても、俺みたいな無能ではまったく活かす事が出来なかったぜ。そうでなければ、もう少しマシな結末が用意出来たはずだが」

「与えられた、ねぇ。そろそろ本当のことを教えてもらえんか? 君が何者なのかを」

 このまま会話を続けるべきかどうか、俺は考えを巡らせる。

 時間稼ぎをされている気がしなくもないが、リチャードの憔悴した様子は演技には見えない。彼が破滅に近い位置にいるのは間違いないだろう。

 あと少しだけ、話してみよう。

「ただの死者、というのも嘘ではないぞ。それでは納得しないだろうが。あえて言うなら、『神の使い』…では偉すぎるか。『神の使いっ走り』、いや『神の道具』だな」

「神、だと⁉︎」

「本人はそう名乗っていた。さすがに造物主レベルの超越者とは思わないが、死者の魂に語りかけ現実を書き換えるなどというトンデモ能力を与える事が出来る者なら、神の一柱を名乗るのになんら不足はないと思うね」

「神、なのか」

 無味乾燥な廊下に乾いた笑いが響いた。

「あいつは魂の採取装置がお気に召さなかったようだぞ。冥界の秩序を乱すとか、そういう理由じゃないのか?」

「確かなことは君にも分からぬ、か」

「まあな。親切に細かく説明してくれるヤツじゃない。…今度はそちらの番だ。すでに破滅しているとは、どういう意味だ?」

「言葉通りだよ。我々が何を破壊して来たか憶えているかね? まず君の本体であった物を壊し、君のその身体を壊そうとし、君を呼び寄せた物、君が存在した場所を破壊した」

「まるで病原体あつかいだな」

「違うと主張するのかね? 君は現にハードウエアの限界を超えて存在出来ることを証明した。私の前に立っているのがその証拠だ。君という存在の生存限界がわからない以上、その周辺も含めてすべて処分するしかない」

 なるほどな。

 俺が病原体なら、俺がここにいるのはものすごくマズイな。

「理解できたよ。…おめでとう」

「何?」

「オットーたちを切り捨てようとしたお前が、今度は捨てられる側にまわったと言う事だろう。自業自得だな」

「オットー? 命の短い黒ん坊とこの私の生命を秤にかけるのか⁉︎」

 リチャードが怒り出す。

 俺の方は、ヤツが怒り出した事に怒りを覚えるのだがね。

「そうだな。お前なんぞと比べるのは、あいつに失礼だったな。あの男の方が人間としてはお前よりずうっと上だ。比較の対象にもならない」

「だからこの私に神の罰を与えると⁉︎」

 …。

「勘違いするな。神など関係ない。アレはもう手をひいた」

「⁉︎」

「魂の採取装置さえ破壊されれば、後のことはどうでもいいってよ。お前たちなど神の目からは処分するにも値しない小物らしいぞ」

「‼︎」

「お前たちを破滅させたのはこの俺だ。人間である俺の意思が、俺の怒りがお前たちを滅ぼしたのだ。それだけは死んでも憶えておけ」


 問答はここまでだ。

 どうせ、自爆装置が何かが動き始めているのだろう。こんな所に長居は無用だ。さっさと脱出する。

 だがその前に、最初の目的通りこいつをぶん殴る。

 俺は前に踏み込んだ。固め続けていた拳をリチャードの顔面めがけて振り抜く。


 ⁉︎


 命中した。手ごたえはあった。しかし、それは異様な手ごたえだった。人間を殴った感触ではなかった。竹か何かを殴ったようなしなやかな弾力。

 殴られたというのにリチャードはほぼノーダメージのようだ。逆にニヤリと笑う。

 こいつも機械の身体に換装しているのか?

 そうではなかった。俺がこいつにどんなあだ名を付けたか忘れるべきではなかった。

 触手男(リチャード)の身につけている物がすべてちぎれて飛んだ。その下から出て来たのは人間の肉体ではなかった。全てが触手。

 人体のふりをしていた触手の束がほどけて、俺に絡みついてくる。

 凄い力だ。外骨格を装着した俺でさえ抑え込まれる。宇宙の真空にさらされて脆くなっていたのか、俺の服まで破れてくる。

 ためらいながらも下着を装着しておいた過去の俺、GJだ。

「我が共生体に私の体のすべてを喰わせた。これが私の生命の力だ」

 顔のすぐそばで話すな、唾がとぶ。

 見たところ肺も無くなっているのに一体どうやって声を出しているのやら。興味はあるが、あまり詳しく知りたくは無いな。

「B兵器のリチャージが完了するまであとわずか。共に逝くまで、私につき合ってもらおうか」

 舐めるな! 腕力が通じなくとも、まだ手はある。

 俺は背中のバーニアに点火。俺を捕まえている触手ごと加速する。

 ここは低重力だ。どんなに力があろうと足で踏ん張るのは不可能。

 このまま廊下の突き当たりに叩きつけてやるぜ。


 …。


 しまった。ここはドーナツ型の宇宙ステーションの中。つまりこの廊下をいくら進んでも『突き当たり』などという物は存在しない。

 俺はアホか?

 単なる経験不足からくる凡ミスだと主張したい。

 バーニアによる移動速度により遠心力が増加。リチャードの足にあたる触手の踏ん張りが効くようになる。更に2本の触手が左右の壁に突っ張る。

 俺は完全に移動を止められてしまった。

「どうしたのかね? そろそろ人知を超えたあの力の出番ではないのかね?」

 うるさい! こっちにも事情があるんだよ!

 俺は口に出してはいなかった。が、何か感じる物はあったらしい。

「そう言えば、先ほど『神は手をひいた』と言っていたな。ひょっとして、ブラックホールの軌道をねじ曲げるような大技はもう使えないのかね?」

「たとえそうだとしても、それを証明することは誰にも出来ないな。つまり、お前たちが処分される対象である事に変化は無い」

「認めよう。だから、共に逝こうではないか」

 確かにこいつらを道連れにするなら、死に方としては悪くない。先刻からの会話を振りかえって見ると、こいつはオットーたちの脱出に気付いていない様なので尚更だ。俺は一瞬、生きることを諦めかけた。


「私は死にたくありません。助けてください、コタロー」

 俺の耳元で囁く声。

 アリスさん?

「私の身体は壊れましたが、他のアリスシリーズと会えれば私はネットワークの中に帰ることが出来ます。それまでは、私は死にたくありません」

 そうだったな。

 オットーとの約束もあるが、俺は文字通りアリスさんの命を背負っているんだった。そう簡単には諦められない。

 だいたいな…

「変態性倒錯者との触手プレイ中に死亡なんて、恥ずかしすぎて冥界に帰ることも出来ないな」

「性、倒、錯?」

「今のお前の姿がそれ以外の何かに見えると思っているのか?」

「…」


 よし、触手が緩んだ。

 反撃開始だ。

 楽屋落ちなタイトルでごめんなさい。

 次話「11 果てしなき終わり」で完結予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ