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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなでケイドロ大会をする天狗のはなし
9/77

6月23日 天狗、婦警に捕まる。

長くなったので分割!

終わりかと見せかけて、これとあともう一話ありますよ。




 6月23日 昼



 野外活動に、怪我はつきものである。うろな高校教師、田中倫子は障害物の陰から飛び出してきた参加者を避けようとして、無理な体勢で地面に倒れた。

 周りにいた参加者が『ケイサツ』『ドロボウ』問わず集まってくる。平太郎は一声「タイム!」と叫び、田中の元へと駆け寄った。


「大丈夫であろうか。頭などは打っていまいか?」


「え、ええ。足を挫いたみたいですけれど、他は大丈夫よ」


 救護テントに運ぶべきだと判断した平太郎は、周りを見渡して高原直澄を見つけ、助けを依頼した。


「高原殿!済まないが、田中殿を救護テントまで運んではくれまいか」


「もちろん構いませんよ。じゃ田中先生、力抜いて下さいねっ、と」


 そう言って田中を抱え上げる高原。一般的に言う、お姫様抱っこという形になってる。突然の出来事に慌てる田中だが、おかまいなしに高原は歩く。


「ちょっと、直澄君!?肩を貸してくれるだけで…」


「ダメです」


「こ、この格好は少し恥ずかしいのだけれど」


「ダメです」


 多くの参加者が見守る中、救護テントに向かって颯爽と歩く姿はまるで姫を抱える王子様のようだった、とこの時グラウンド上にいたうろな高校生の向日葵ひなたは思ったと言う。普段の真面目な田中先生が見せる羞恥の表情に、何か見てはいけないものを見たような感じがした、と後に述べることとなる。


 テントに歩いていった高原を見て、「うむ」と頷いた平太郎が「それでは、再開だ!」と告げると、参加者達はいっせいにあちらこちらへ走りだした。

 

 友人である向日葵ひなたと同じ感想を、救護テントにいる鍋島サツキも抱いた。まさか子供達が参加者の多くを占めるこのケイドロ大会でここまで見せつけられるとは思っても見なかったのだ。


「田中先生が恋する乙女の表情になってるにゃ。一体なんだって言うんだにゃ!

 リア充爆発しろにゃ!アタシも参加すれば良かったにゃー」


「な、鍋島さん!彼は負傷した私を助けてくれただけです!

 へ、へ、変なことを言うものではありません!」


 だが、田中の顔が赤く染まっていることは誰の目から見ても明らかであった。田中の不運は、大会に参加している女子高生達全員に、ばっちりその姿を目撃されてしまった事であろう。

 牢屋テントには2年の文芸部長が。『牢屋』の見張り番として1年の日出と四季が。さきほど倒れた現場には2年の向日葵が。そして救護テントに2年の歩く拡声器とまで言われている鍋島が。

 田中先生お姫様抱っこ事件は瞬く間にうろな高校に広まるに違いない。救護テントで救急箱をガサゴソやっていた猫塚が言う。


「湿布を貼っておけば大丈夫だと思うわ。高原君、だったかしら。先生を

 こっちの椅子におろしてあげてくれる?優しくよ」


「任せてくださいよ。男、直澄。先生を手荒に扱うような真似は絶対にしませんから」


 田中の羞恥心に対するライフは限界を突破して、もはや何も言えなくなっていた。安静にしておいた方がいいとの猫塚の言葉を受け、田中はそのまま救護テントで見学をすることにした。

 「じゃ、こっちも一人減らさないと」と高原も抜けて、見学テントへと入って行く。そして高原は清水の前で小さくガッツポーズをして、商店街グループへと入っていった。




【牢屋組】見張り・四季恋歌 日出まつり

稲荷山考人 

文芸部長・高城 

文芸部員・香月 


リタイア・田中倫子、高原直澄




   ○   ○   ○   




 日生芹香は元気に走っていた。先ほど追いかけていた南小の6年生には逃げられてしまったが、今は前を走る二人の『ドロボウ』を追いかけている。

 南小教師、小林果穂と、北小3年の山辺鈴音が揃って逃げているのだ。障害物の手前で二人が分かれ、一瞬だけどちらを追うべきかと悩んだが、


「べるべるには負けないもん!」と鈴音を追って元気にプラチナブロンドの髪を揺らす。

 芹香と鈴音は学校こそ南小と北小だが、ある日町で出会って以来、幾度と無く遊んでいる仲なのだ。主導権を握っているのは、主に芹香であり、べるべるとは、芹香が鈴音につけたアダ名である。


「うー、助けてー!」


 鈴音は、目の前にいた女子高生に助けを求める。鈴音に気づいた彼女が鈴音をかばうように間に入る。その頭上には、ちんまりとしたハムスターが乗っていた。


『お!ここから先は通さないゼ!』ビシっとポーズを決めるハムスター。


 うろな高校2年、向日葵ひなたと、その相棒ハムスターのハム太。もちろん向日葵も『ドロボウ』チームであるので芹香が名を呼べば捕まってしまうのだが、芹香の目は向日葵の頭上の可愛い生物に釘付けになった。


「うわぁ!カワイイカワイイ!ハムスターが喋ってるー!!」


『オレはハム太ってんダ!こっちはひなただゼ』


「おもしろーい!おーい、べるべる~!こっちおいでよ!

 ハムスターがしゃべってるわよ!」


 芹香の言葉に興味を惹かれた鈴音は、思わず勝負のことを忘れて向日葵の元へと戻ってくる。


『おイ!せっかく逃がしてやったの二、何で戻って来るんだヨ!』


「ほんとだ!すごーい!あ、咲夢ちゃーん!すごいよコレ!」


『なんで敵チームを呼ぶんだヨ!』ハム太がちっちゃい手でビシッと突っ込む。


 やってきた藤崎咲夢も、大はしゃぎだった。


 日生、山辺、藤崎の小学生トリオに囲まれた向日葵ひなたは、これはもうケイドロどころではないなと少女たちの頭をぽんぽんと叩く。


『仕方ねえナ。テントでおしゃべりしよーゼ。さ、捕まえてくレ』


「わかったわ。ひなたお姉ちゃんとハム太君、捕まえた!」


「じゃ私は鈴音ちゃん捕まえたー」


「えへへ、また咲夢ちゃんに捕まっちゃたね」


「よーし、『牢屋』に行くわよー!」


『おいオイ、そんなに引っ張らないでくれヨ』


「あはは、変なのー!引っ張られてるのはハム太君じゃなくて

 ひなたお姉ちゃんなのにー!」


 ほのぼのとした雰囲気でテントに向かう4人+1匹。ハム太は小学生達に大人気だ。

 牢屋テントに入ると、見学テントから「おーい、ヒナー!」と声がかけられる。さっきまでいなかった彼はうろな高校2年の草薙天兵(くさなぎ てんへい)。向日葵ひなたの幼馴染だ。


『テンちゃんじゃねーカ!どうしたんダ?』


「応援に来たんだよ。頑張ってるかなと思って」


『そりゃもう大人気だゼ!』ハム太がピシッと指を立て、小学生達が「わー」と拍手する。


「あれ?ケイドロってそんなゲームだったっけ?」


 戸惑いを見せる草薙に、向日葵は穏やかな笑顔を見せるのだった。




【牢屋組】見張り・四季恋歌 日出まつり、日生芹香 new!、藤崎咲夢 new!

稲荷山考人 

文芸部長・高城 

文芸部員・香月 

向日葵ひなた&ハム太 in

山辺鈴音 in





   ○   ○   ○




 小林果穂は教え子であるくるみ&みるくに追いかけられていた。周囲の参加者達が気をつかってくれているので、双子はちゃんとゲームを楽しめているようだ。


「かほせんせい、はやいー」

「かほせんせい、まってー」


 ああ、愛らしい。逆に捕まえてしまいたいと顔がにやける小林。そこへ、


「おおっといかん!足がすべったぁ!!」


とわざとらしく倒れ込む平太郎。「いかぁん!早く立ち上がらねば捕まってしまう!」と

うつ伏せに倒れたまま叫ぶ。天狗面の鼻が地面に突き刺さっていた。

 双子はびくりと体を震わせて、担任である小林の元へ駆け寄った。平太郎が「む?」と声をあげる。


「せんせー、てんぐこわいー」小林の右腕にしがみつくくるみ。

「たべられるー、たすけてー」小林の左腕にしがみつくみるく。


「うん、大丈夫大丈夫。ほら、見てごらんなさい。

 ちゃんと天狗を捕まえてくれるわよ」


 双子が小林の手をしっかり掴んだまま振り返ると、婦警姿の梅原がユラリと平太郎の横に立ち、彼を見下ろしている所だった。


「私の目の前で子供を怖がらせるとはいい度胸だな天狗!

 さあ、牢屋へ行こうじゃないか。覚悟はいいか」


「ま、待つのだ司殿!私は怖がらせるつもりなど…

 それに勝負は正々堂々と…、ぬうっ、鼻が抜けん!」


 梅原はコスプレ衣装についていた手錠で平太郎を後ろ手に拘束し、『牢屋』へと平太郎を連行する。途中、双子に「かっこいー」「かっこいー」と言われて胸を張る反面、平太郎は子供に怖がられたことに大きなショックを受けていた。


「何やってんだよ、アホ天狗」牢屋テントの稲荷山が言う。


「天狗たるもの、時には阿呆にならねばならんのだ」


「訳わかんねえ」


 見物テントでは商店街に人たちが梅原に喝采を浴びせていた。

「いいぞー小梅ちゃん!」「残念だったなー天狗ー!」やはり、梅原は商店街のアイドル的存在のようだ。梅原は恥ずかしがりながらも、町の人たちの声援に手を上げて応えていた。




【牢屋組】見張り・四季恋歌 日出まつり、日生芹香、藤崎咲夢

         降矢くるみ new!、降矢みるく new!、梅原司 new!

 

稲荷山考人 

文芸部長・高城 

文芸部員・香月 

向日葵ひなた&ハム太

山辺鈴音

小林果穂 in

天狗仮面 in




   ○   ○   ○




「どうやら私の勝ちだな、天狗よ。このまま時間が来るまで私が見張っててやるからな」


「不覚……」


 見物テントから、清水が真剣な表情で歩いてきた。何か連絡事項だろうかと梅原が振り返ると、清水は綺麗な角度でお辞儀をしながら、拳を作った両手を前に突き出した。


「梅原先生!どうぞ俺を捕まえて二人の愛の牢屋へと連れ去ってください!」


「し、清水!?お前、いきなり何を言って…」


「あ、マゾ清水だー」日生芹香が言う。誰が言い出したかは分からないが、南小の生徒達の中では最近、『小梅の旦那はマゾ清水~』と拍子をつけて言いながらジャンケンするのが流行っているらしい。子供たちの発想の自由さには驚かされるものがある。

 芹香は「こうやるんだよ、あいこの時はね、鬼小梅!っていいながら出すの」と友達や上級生にやりかたをレクチャーしていた。


「このアホ清水!子供たちに悪い影響を与えてどうするんだ!」


梅原の渾身の右ストレートが清水のボディに突き刺さる。「あぁ、これだよこれ」と聞こえてきそうな至福の笑顔で清水がその場に膝を落とす。


「司ちゃん、それが原因だと思うの…」小林果穂がみるく&くるみの視界をふさぎながら言う。

はっとする梅原に、周りからはニヤニヤとした視線が投げつけられていた。


「ちが、違うんだーーーー!!」


 梅原の叫び声がグラウンドにこだまする。



   ○   ○   ○



 残り時間はあとわずか。現在残っている『ドロボウ』チームはうろな駅員・芹沢洋忠、高校1年・上条達也、うろな南小6年・真島祐希と皆上竜希の4名である。

 対して、『ケイサツ』チームは高校1年・文芸部員の綾瀬浩二、うろな中学2年・芦屋梨桜、うろな北小6年・金井大作と相田慎也の4名がグラウンドを走っている。さらに、勝負をつけようと牢屋番から日出まつりが参戦した。


 そもそも、ケイドロというゲームは終盤になれば『ケイサツ』チームが有利になるゲームである。果たして、『ドロボウ』チームは逃げ切ることが出来るのだろうか。


 上条は土管の陰に身を潜めながら呟いた。「なんでこんなに必死になってんだろ、俺」


「あー、僕も今それ思った所」土管の上から警備帽を被った綾瀬浩二が飛び降りる。


「幼馴染に巻き込まれて来たけど、久しぶりにやると意外と楽しいもんだな」


「こっちは先輩に無理やり引っ張られてきたけど、同じように思うね」


「んじゃ、まあ俺はケイサツ君から走って逃げるとしますか」


「まあまあ、そう焦らず。同じ1年だろ?お近づきの印に握手でも」


そう言って手を差し出す綾瀬。上条は「へっ」と笑いながら


「その手にゃ乗らねー」と土管の陰から飛び出した。


「残念でしたー!本命は私ー!!」


「日出!?またかよチクショウ!」


 うろな高校1年のコンビプレーにより、上条捕獲。




   ○   ○   ○



 試合時間は残りわずかとなり、テントからの声援にも熱がこもってくる。賑やかなうろな中央公園の前を通った人物は何事かと公園を覗き込み、子供たちが遊んでいることを確認してにこやかに去っていく。

 参加者の顔見知りや商店街の人間などはそのまま公園に入ってきて遊びまわる参加者達に声援を送っていた。


「何か、すごい盛り上がってるな…」


 町の見回りをしていたうろな町長が公園の横を通った時、「あ、天狗が企画部に何か借りに来たって言ってたな」と思い出した。楽しそうな声に釣られて公園内に入る町長。

 商店街の人たちがテントの中から暖かく迎え入れてくれた。「おー!町長さんじゃねえか!」「ほれ、こっちこっち!」


 少しくらい、お邪魔しても問題ないか。とグラウンドを走り回る参加者を眺め、テントで見学組と言葉を交わした。


 どうやら、間もなく勝敗がつくらしい。





ケイドロ編だけで原稿用紙50枚分か…


何故こんなに長くなったのか分からない;


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