6月23日 天狗、大会を盛り上げる。
3部作2つ目!
こんなテイストでケイドロ大会は進みますが
楽しんでいただければ幸いです!
6月23日 昼
参加総勢24名、見学者多数のうろなケイドロ大会が始まった。天狗仮面・平太郎が用意した障害物の陰に隠れたり、『牢屋』とは逆のグラウンドの端で『ケイサツ』チームを待ち受ける参加者がいたり、とそれぞれの方法でケイドロを楽しむ姿勢を見せている。
そんな中、障害物の一つである2m四方のブロックに登ってグラウンドを見下ろしているのは、うろ高1年の上条達也だった。下からそれを見上げるのは、警備帽を被った同じくうろ高1年の四季恋歌である。
「ずるい!降りて来なさいよ達也!」
「戦略戦略。大きくなってから出直して来いよ小学生」
「誰が小学生じゃ!この卑怯者!」
「るせえ。大体、無理やり連れてこられた俺の身にもなれよな。
悔しかったら、登ってきて捕まえてみなー」
上条の発言に悔しがる四季。そんな四季の後ろから声が掛けられる。
「恋歌ちゃん、私が行くよっ!」修行大好き娘、日出まつりである。
日出は警備帽を手で押さえながら、助走をつけて軽々とブロックを駆け上がった。
「げ、日出!?」「ありがとう、まつりちゃん!」上条は慌ててブロックを降りようとするが、それよりも早く日出の手が上条に伸びる。
「上条君、捕まえたー!私ってば大活躍!
うろなケイドロマイスターの称号は私のものー!」
一際高いブロックの上で宣言した日出はとても目立ち、『ケイサツ』グループからは感嘆の声が聞こえてくる。
上条を『牢屋』に連行し、四季を見張り役として残した日出は、すぐさま次の獲物を探して辺りを見回した。後ろの見学テントにいる川崎と目が合う。
「お前、張り切ってんなー」
「これも修行、修行♪おじさんも参加すればいいのに」
「景品にツチノコを用意してくれりゃ参加したけどな。
ま、応援してるから頑張れ」
「まっかせなさーい!」
そういって四季とハイタッチを交わして駆け出す日出だった。
【牢屋組】見張り・四季恋歌
上条達也 in
○ ○ ○
土管の陰には、北小3年の山辺鈴音が隠れていた。見学テントの方から、「鈴音さーん、頑張ってー!」と、保護者である堂島柊子の声が聞こえてくる。一緒にいるのは、南小6年の真島祐希、皆上竜希ペアである。
「へえ、山辺さんって、最近引っ越してきたんだ」タツキが言う。
「うん、私、あんまり体が丈夫じゃなくて…親戚の家に引っ越してきたの」
「じゃ捕まりそうになったら俺とタッキーが囮になるぜ!」
そう言って、土管の横からそっと辺りを見回すユウキ。するとグラウンドを横切って、きょろきょろしながらこちらに来る金髪の少女が見えた。北小3年の日生芹香だ。
「タッキー!山辺さん!何か金色の髪の子がこっち来る!」
「セリちゃんだ!逃げなきゃ!」
「待って!僕らが先に出て行くから、そのあと山辺さんは逃げて!」
「よし、行くぜタッキー!」
掛け声と共に土管の陰から飛び出すユウキとタツキ。それを見た日生は「あ!ドロボウ!」と叫んで二人を追いかけていく。土管から離れていったことを確認して安心していると、
「鈴音ちゃん、捕まえた!」と突然後ろから肩を掴まれた。
「ひゃっ!さ、咲夢ちゃん!いつの間に!?」それは同じ北小3年の友達、藤崎咲夢だった。
「油断してるからだよ鈴音ちゃん。さ、牢屋行くよ!」
手を繋いで牢屋テントへ向かっていると、北小6年の『ケイサツ』チーム二人とすれ違った。金井大作と相田慎也だ。シンヤが「お、やるじゃん」と声をかける。
「お、藤崎に山辺か。さすが藤崎だな!こないだのバスケでは敵だったけど、
今日は味方だ。頑張ろうぜ!よーし、俺達も行くぜシンヤ!」
「頑張れー!」咲夢が手を振る。
ダイサクは腕をぶんぶん回しながら走っていった。
「咲夢ちゃん、ボスと知り合いだったの?」
「うん、この前、3年生対6年生でバスケの勝負したんだ。負けちゃったけど、
いい所までいったんだから。鈴音ちゃんこそ知ってたの?」
「転校してきて、学校の下見に行った時に会ったの。いずるは仲良く遊んだりしてる」
牢屋テントに鈴音を入れ、牢屋番の四季に挨拶する咲夢。
「お姉ちゃん、見張りありがとう!どんどん捕まえてくるね!」
「分かった!任せてね!」
「頼りにならねーぞ。このちっこいのは」
「うるさい!黙れ達也!」
見学テントから、それぞれの保護者が声を掛ける。堂島柊子は山辺に「あらあら、頑張ってね鈴音さん」と声をかけ、商店街グループから解放された藤崎祥太は娘に「頑張れよ、咲夢」と声をかける。
「うー、逃げられたら次は頑張る」と俯きながら山辺が言い、
「ありがとうおじさん!じゃ、行ってきまーす!」と咲夢が飛び出していく。
見学テントの中が一瞬、「おじさん…?」と気まずい雰囲気になったが、
小声で藤崎祥太が事情を説明していた。清水と小林が複雑そうな表情でそれを聞いていたが、子供たちはお構いなしにグラウンドを駆け回っている。
【牢屋組】見張り・四季恋歌
上条達也
山辺鈴音 in
○ ○ ○
うろな駅係員、芹沢洋忠は走っていた。面識のない者同士ならば、そうそう追いかけられることもないと高を括っていたのだが、後ろには日出まつり、ダイサク、シンヤの3名が芹沢を捕まえようと追いかけてくる。
「ひい、ひい、ボクを追いかけてもイイコトないよ~?」
「ダイサク君は右!シンヤ君は左!追い詰めるよー!」良い笑顔で走る日出。
「わかった!」「オッケーだぜ、まつり姉ちゃん!」
天狗仮面に西の山に連れていてもらった時に知り合った3人は、息を合わせて芹沢を捕まえにかかる。日出が手を伸ばそうとするが、「あれ?この人の名前なんだったっけ?」と首をかしげる。
初対面の人間が今回のように多数いれば、そうそう名前と顔を一致させることは容易ではない。しかも『ドロボウ』チームはこちらに背を向けて逃げるのだからなおさらだ。
回り込んだダイサクが「芹沢さん、捕まえたぜ!」と手を伸ばす。芹沢は抵抗することなく捕まることにした。やはり、30の体に運動は疲れる。そう思ったのだ。
「大丈夫?芹沢おじさん。すごい息切れしてるじゃん」シンヤが問う。
「だ、大丈、夫、じゃな、い、よお。ボク、もう走れない……」
『牢屋』に連行される芹沢を見て、仕事仲間の行谷が「情けないぞー!これだからオタクはー!」と野次を飛ばした。「うるさいぞお三次元!今日はもう限界まで走ったんだ!」と芹沢が返す。
牢屋テントに芹沢を入れて、四季が「順調、順調」と思っていると、雄叫びと共にまっすぐこちらに向かってくる天狗が見えた。「わわわっ!正面から来ちゃった!?」
数人の『ケイサツ』チームの手をひらりひらりと交わし、勢いをゆるめることなく四季の脇を抜けるように牢屋テントにスライディングする平太郎。
「上条君!鈴音君!芹沢殿!この天狗仮面が助けに参上した!」
そう言って滑りながら牢屋内の3人に次々とタッチしていく。
「ありがとう天狗さん!」
「別にこのままじっとしてても良かったけどな。でもま、サンキュー」
「うええぇ~…なんで休ませてくれないんだよお…」
三者三様の声をあげて再びグラウンドに散る面々。高笑いしながら、平太郎もまた走り去る。商店街のおじさん連中からは歓声が沸き、うろな駅グループからも「いいぞー!天狗!よくやったー!」と声が上がる。
平太郎は「天狗として当然のことをしたまでだ!」と高々と手を上げて再びグラウンドへ走り去った。
「やられた…。私も見張り番に立つよ。ごめんね恋歌ちゃん」
「天狗仮面、こ、怖かった…」
【牢屋組】見張り・四季恋歌 日出まつり new!
上条達也 out
山辺鈴音 out
芹沢洋忠 in 即out
○ ○ ○
うろな中学2年、芦屋梨桜はうろな南小1年生の降矢くるみ、みるくペアと稲荷山考人を追っていた。とてとてと走る双子に癒されながら、芦屋は稲荷山に声をかける。
「大人気ないよ、稲荷山君!捕まってあげなよ!」
「何となく、お前に捕まるのは嫌なんだよ」
それはそうだろう。稲荷山は妖狐で、芦屋はそれを滅するために転校してきた陰陽師なのだから。正体がばれていないとはいえ、陰陽師に捕まる、というのは例え遊びであっても嫌なものがあるのだろう。
「まってー」
「まってー」
くるみ&みるくが声を揃えて稲荷山を追う。無視して走り去るのも悪い気がするし、捕まるのも心情的によろしくない。板ばさみにされた稲荷山は「はあ…不幸だ」といつもの決まり文句を呟いてそれなりの速度で逃げ続ける。
双子はまだまだあきらめるつもりはないらしい。その微笑ましさに、横を通りかかった梅原司も「おい、稲荷山。程度を見て捕まってやるんだぞ」と声をかけ、そのまま別のターゲット目指して走り去っていった。
「きつねのおにいちゃん、まってー」
「まってよー」
「なッ!?」稲荷山の足が止まる。
「えっ?」芦屋の足も止まる。
双子の口から飛び出した意外な言葉に芦屋が反応する。
「二人とも、今、何て言ったの?」
「き、キツめ!キツめって言ったんだよな!うん、この前はスーパーで
キツイ言い方したもんな!?あの時は悪かったよ!」
「稲荷山君、こんな小さい子にキツイ言葉かけたの?」
「そ、そうなんだ。本当にあの時はごめんな!」
「いなりやまおにーちゃん、つかまえたー」
「つかまえたー」
無邪気にはしゃぐ双子。「うん、捕まっちゃったな!さあ、牢屋に行こう!」と歩き出す稲荷山。芦屋も彼の服の裾を掴みながら「稲荷山君、ちょっと幻滅したよー」と呟いている。
両手に双子、後ろに芦屋。その姿を見た救護テントの鍋島サツキは「タカトが女の子をはべらかしてるにゃ!リア充だにゃ!この世の悪だにゃ!」と騒いでいたが、稲荷山はそんな声が耳に入らないほど疲れていたという。
【牢屋組】見張り・四季恋歌 日出まつり
稲荷山考人 in
○ ○ ○
背中合わせに立つ二人の『ドロボウ』チーム高校生が敵チームを迎え撃つ。
「背中は預けたぜ、嘘八百。必ず、生きて帰るんだ」
「香月ともあろうものが堕ちたものだな。しかしながら、
私たちは捕まる訳にはいかないからね。ここは共同戦線と行こう」
独特の世界観を作り上げるうろな高校2年の文芸部長・高城と文芸部員・香月。彼らの目の前には同じくうろな高校1年の文芸部員、綾瀬浩二と、うろな商店街、ホビー高原店主、高原直澄が彼らを挟み撃ちにしていた。
「先輩達はいつもブレませんね。観念して捕まってください」
「お前さん達、去年から変わってないなー。人生、楽しいだろ」
高原は去年までうろな高校に通っていたので、文芸部の変わり者たちのことは良く知っていた。特に、嘘つき女部長、高城は有名な存在だった。
そんな高城がおもむろににやりと笑ったかと思うと、香月を後輩ケイサツの方へと突き飛ばした。
あまりに急な出来事に声の出ない香月。その顔は驚きに満ちている。先輩部員が急に倒れてきたとあって、綾瀬は慌てて香月を受け止めた。
そして綾瀬に出来た隙を突いて、文芸部長、高城は姿勢を低くして横を抜け、振り返って3人をあざけり笑う。
「ふふ。すまないな、香月。私のために、血路を拓いてくれ」
「う、裏切ったのかッ!?」香月が吼える。
「忘れたのかい?私の作戦目的を」高城が目を細める。その目は、楽しくてしょうがないといった目だった。
「くッ…、そうだったな、嘘八百。偽りこそがお前の真実。
征け。我の屍の上にお前の生きる道を示せ…ッ!」
まさに別世界、二人の迫真の寸劇に周りの者は「コレ、触れていいのかな」といった空気になっている。高城が悠々とその場を去ろうとした瞬間、婦警姿の梅原が彼女を捉えた。
「捕まえたぞ高城。お前は本当に中学時代から変わらんなぁ。
見ろ、周りの空気を。あんまり周りを混乱させてくれるな」
「ふふ、私の真の名前は高城ではないのです。だから捕まえても」「いいから行くぞ」
梅原に引かれていく文芸部長・高城。周りがあっけにとられる中、高原が冷静に「香月、お前も一緒に行こうなー」と文芸部員・香月を捕まえ、『牢屋』へと連行して行った。
警備帽を被り、一人残されたうろな高校文芸部員、綾瀬は呆然と立ち尽くしていた。
「先輩達の絶対領域が効かない…だと!?」
彼も立派にうろな高校文芸部員の資質を受け継いでいるようである。
【牢屋組】見張り・四季恋歌 日出まつり
稲荷山考人
文芸部長・高城 in
文芸部員・香月 in
グラウンドでは、あちこちで『ケイサツ』チームと『ドロボウ』チームの戦いが繰り広げられている。制限時間はまだまだ残っている。ひっそりと活躍する参加者も、派手に活躍する参加者もいるが、皆、このケイドロ大会を楽しんでくれているようだ。
うろなケイドロ大会はまだ始まったばかりである。
あと1つでケイドロ大会終了…
この1周間、準備に随分手間取ったものです。




