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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなでケイドロ大会をする天狗のはなし
6/77

6月14日 天狗、悪ノリする

あ、あれ?

平太郎?お前、そんなキャラだったか?

き、きっと何か彼なりに思惑があっての事に違いない;


天狗、暴走回…


6月14日(金)


 うろな町東の海には海の家がある。もうすぐ海開きなので、賑わうことが予想される夏のうろな町の人気スポットだ。

 海開き以外の期間中は大人500円、小人100円で軽食とフリードリンクが付いてくるので、なかなか小粋な場所であるなと平太郎は思っている。


 天狗面を人前で外す訳にもいかないので人前で食事などは出来ないが、ドリンクくらいならばストローを使って面の隙間から飲むことが出来る。


「それでは、よろしく頼む」


「23日だね?来る子にはそれとなく伝えとくよ」


「うむ、かたじけない」


 海の家に来ていたのは、ある計画の参加者を募るためであった。


 平太郎は、町内の人を集めて交流会を開こうと思いついた。町内の人間どうしの結びつきを疎かにして発展する町はない。

 商店街で声掛けをしたり、町中で遊ぶ子どもたちを誘ってみたり。小、中、高の生徒達を中心にそれなりの人数が集まりつつあるが、やはり平太郎一人では草の根作戦にも限界はあった。

 

 出来るだけ声をかけてくれると海の家の主人は言ってくれたので、礼を述べて海の家を後にする。

 



 しばらく海辺を歩いていると前方に中学生か高校生と思われる女性が見えた。

 平太郎は唐草模様のマントをはためかせ、その少女の元へと駆ける。


「そこの君!少し良いだろうか」


「はい、何でしょう……何だ貴様!?」


 少女は振り向くなり不審な態度で後退り、きつい視線を平太郎に向ける。その横に平太郎は知り合いの姿を見つけ、二人を交互に見る。」


「清水殿!息災であるか。するとこちらの少女は…生徒の方であろうか?」


「や、天狗君。今日もご苦労様。彼女は…」


「貴様、天狗仮面だな!?」少女が清水の話を遮って叫ぶ。


「いかにも!我が名は天狗仮面。清水殿、何やら噛み付かれそうな

 雰囲気なのだが、何か気に障る事をしただろうか?」


「天狗君が怪しいからじゃないか?ほら、梅原先生、怖くないですから」


「心外な。む?『梅原先生』、ということは…」


「そうだ!私は梅原司(うめはら つかさ)!うろな中学校の教師。

 そして清水の上司だ!清水!お前、こんな怪しいヤツと知り合…」


「おお!やはり清水殿の運命の人であったか!話は聞き及んでいる。

 仲睦まじい様子で何よりであるな!」


「なっ!?な、何を…」


 梅原が平太郎と清水を交互に見ながら、継ぐべき言葉を失っている。清水の眼が小動物の隙を見つけた捕食者のそれになる。


「お陰様で。近々籍を入れる予定だからヨロシク」


「おお!それは重畳(ちょうじょう)。町の皆にも知らせねばならんな」


「なっ!な、なななーーーッ!?」


 赤面した梅原が言葉にならぬ叫び声をあげながら後ろに立っていた清水に裏拳をお見舞いする。「これが愛の(こぶし)ッ!?」と言いながら倒れる清水。

 不審者にかける情けはないとばかりに平太郎にもその拳が向けられる。寸前で拳をいなし、転身を利用して距離を空ける平太郎。

 そのまま流れるように頭を下げる。腰の角度は90度。見事なお辞儀である。


「司殿。こちらが悪かったようだ。心より謝罪する」


「…はっ、いや、私こそすまない。あまりに予想外の出来事が続いて

 気が動転したのだろう。いきなり殴りかかってしまった」


「やはり婚姻などといった大切な事は本人の口から伝えるべきだな。

 こちらから知らせるなどと不躾な申し出であった」


「そこではないわーーーー!!」再び叫ぶ梅原。


「おお、見事な烈帛(れっぱく)の気合」


 梅原の2度目の叫び声はうろなの砂浜から大海原へと拡がっていった。



    ○   ○   ○



 海沿いの道路のバス停で清水の復活を待ちながら缶ジュースを傾ける二人。平太郎は持ち歩いているストローを缶に差し込んで飲んでいる。梅原が平太郎に自分達のことを説明するのには随分時間を必要とした。

 平太郎が、頑なに二人のことを特別な仲だと信じて疑わなかったからである。


「なぜ貴様はそれほどまでに私たちの仲を深いものだと思っているのだ。

 私とこいつはただの上司と部下だと言うのに」


 隣で伸びている清水を指さして梅原が言う。平太郎はその天狗面に手を当ててしばらく考え込んだのち、こう答えた。


「信頼が見える、とでも言えばいいだろうか。

 少なくとも、司殿から聞く清水殿の印象に嫌悪の感情は見受けられない」


「確かに嫌いと言うわけではないが…

 しかしこいつはバカでアホで痴漢でロリコンで大変態だ。

 いや、たまに格好良いんだが、そんなギャップはズルいというか

 真面目に仕事してると素敵だとか、あ、いや、そんな事は思ってないからな!」


「…うむ。司殿は実に分かりやすいな」


「くっ。お前、結構嫌味なヤツだな」梅原が横目で平太郎を睨む。


 思い出したように梅原が平太郎に問いかける。


「そういえば、ウチの生徒に稲荷山(いなりやま)という者がいるのだが

 お前の父上に剣術を習ったそうだな。不思議な剣筋だった」


「彼は我が弟弟子にあたるのだ。父上は我流であったから、致し方ないだろう」


「お前もそのお父上同等の腕前を持っている、と?」梅原の口角が挑戦的に上がる。


「兄弟子を名乗れる程の腕はもっているつもりだ」平太郎も仮面の奥で挑戦的に笑う。


 清水がようやく眼を覚ますと、そこには不敵に笑いあう平太郎と梅原の姿があった。いや、平太郎の顔は清水には見えていないが、漂うオーラがそう思わせたのだ。

 二人の雰囲気に何の物怖じもせずに清水は梅原に話しかける。


「そんな悪い笑みを浮かべるあなたも可愛いですよ梅原先生。

 大方、天狗君に勝負でもふっかけようとしてるんでしょう?」


「わ、私は別に…それより、やっと起きたのか清水」


「梅原先生の(こぶし)を噛みしめてました。

 そうだ、天狗君、例の件は順調か?」


「うろなケイドロ大会のことであろう?

 順調に人が集まっている。清水殿の言っていた企画に

 活かすことはできそうであろうか?」


「ああ、各校の先生方と連携はとれた。希望者を募ってくれるそうだ」


「うむ。さすが清水殿だ!幅広い層の交流!これこそが

 うろな町に必要なものだ。感謝の言葉しかない」


「おいおい、成功させてから感謝してくれよ。

 って事で梅原先生、もちろん参加しますよね?」


「はっ?私が?」


「地域交流を通して生徒たちの成長を図る。生徒の事を第一に考える

 梅原先生がその先導役として参加しない訳がないですよね?」


「いや、その、しかし……」


 急な話に戸惑う梅原。まさかここで自分に話が回ってくるとは考えていなかったのだろう。


「清水殿。司殿も忙しい身の上であろう?確かに参加予定の学生達からは

 『小梅ちゃんが走り回る姿はゼッタイ可愛い!』だとか言われているが

 あまり無理を言うのも忍びない」


 一呼吸おいて続ける平太郎。


「それに、誰にも捕まるつもりはないのでな。

 せっかくお越しいただいて、無駄に走り回るだけ、というのも

 司殿に申し訳ない」


 梅原の視線が平太郎に刺さる。


「何度も警察に捕まったという身分で言ってくれる。よかろう。

 あからさまな挑発だが、その天狗的態度、後悔させてやるぞ」


「天狗なのでそこは仕方がない。

 では、楽しみにしている!」


 平太郎は高笑いしながらその場を去ろうとしたが、清水に「待て」と止められる。

 何事かと振り返る平太郎に、清水が怪訝な顔で尋ねた。


「天狗君、何で梅原先生のことを下の名前で親しげに呼んでるんだ?」


 清水から仄暗いオーラが見える気がするが、平太郎は平然と答える。


「いずれ清水姓になるのであろう?その時に梅原殿と呼ぶ訳にもいくまい。

 今から慣れておかねばな。」


 唐草マントを翻し、高笑いして平太郎は二人の前から去った。


「待て!貴様!やはり今すぐ後悔させてくれる!

 何故こうなるんだーーーー!!」


 3度めの叫びが海原へ向けて響く。

 叫ぶ梅原の横で清水が「捕まえる…警察…コスプレ…果穂先生に依頼…」と呟いていた。悪い顔をしていたので、おそらく梅原が被害を被ることになるのだろう。


 今日もうろな町は平和である。



YLさんの清水先生&梅原先生

とにあさんの海の家

寺町さんの稲荷山くんの話題


それぞれお借りしましたー!

会話のネタをYLさんから頂きました!


来週のケイドロ大会に向けて、あれこれ下準備中です!

まだまだ参加募集中!


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