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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなで仲間を探す天狗のはなし
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10月26日 教師、山を降りる

YLさんの「教育を考える会」より、清水先生をお借りしました。

数話に渡ってお借りしてきた山篭り編の終了です。


清水先生の活躍、本編と合わせてお楽しみください。

“うろな町の教育を考える会”業務日誌

『10月26日 修行編その10 さあ、これから山ごも•••、あれ、何で俺こんなボロボロ?』

に繋がる話になります。



10月26日


 3日前とは別人のような体つきに仕上がった清水を見て、天狗仮面、琴科平太郎は「ほう」と呟く。自分達の他にも、妖狐である稲荷山や、猫夜叉である無白花、斬無斗らと共に修行を行い、自らの力を最大まで高めて放つ必殺の一撃、『雨狼名・響命斬』を会得したと言う。


「良い顔である。一武人として遜色の無い雰囲気であるな」

「清水のアニキ、これなら絶対負けませんやな!」


「いや、俺、武人じゃなくて教師なんだけど…ま、いいか。

 傘次郎君もありがとう。きっと勝ってくるよ」」


 来るときに背負っていたキャンピングセット一式を担ぎ、山を降りようとする清水に千里が近づいていく。思わず身構える清水に対して、千里はくすくすと笑いながら、


「どうして避けるのかしら?おねーさん、悲しいわ」


 とわざとらしく嘆いてみせた。


「ほとんど邪魔しかしてこなかった人が何を言いますか。

 狐君と稽古してる時に吹き矢仕掛けてきたの、あなたでしょう」


「違うわ。天狗の仕業よ、それ」


「嘘ですね」


「ええ、嘘よ」


 悪びれもせずに言い放つ千里に「本当にこの人は…」と半ば呆れる清水だった。千里がお守りを清水に手渡す。


「おねーさんからの餞別よ。困ったら明けなさいな」


「……上京する息子と、その母親みたいだな」


 千里が手渡したお守りの中には、小さな水晶の欠片が入っていた。夏の折、平太郎が山全体を覆う風を起こした際に用いていた妖具、天狗羽扇の拵えに嵌まっていた水晶の欠片である。

 持つ力を越えて放った風に、水晶は割れ、今では羽扇はただの羽扇として残るばかりである。割れた欠片にも多少は力が残っているものの、身の周りに風を巻き起こす程度にしか用いる事はできない。


 お守りを手渡した千里は、ぽんとひとつ手を合わせて清水に言った。

 

「さ、センセ。この山篭りでの記憶を消しちゃいましょう」


「またまた。本当に冗談が好きですね」


 軽く笑いながら軽口を返す清水に対して、千里は何も言わない。ただ、口の端をわずかにあげて微笑んでいるばかりである。


「……え?」


「こっちへいらっしゃいな」手招きする千里。


「い、嫌ですよ!?え、ちょっと、天狗君も何とか言ってくれよ!」


 あとずさる清水を追うように、千里が一歩その距離を詰める。うすら笑いが逆に不気味だった。天狗仮面はしばらくそれを腕組みして見ていたが、「やはり渉殿に悪い」と一言呟いて、


「千里よ。渉殿が本気で焦っている。ちゃんと説明するのだ」


「もう、これからが面白いところなのに」


 千里が頬を膨らませ、手をひらりと翻して水晶の珠を出現させる。


「山に来た時にセンセに言ったことを覚えているかしら?

 あなたは人ならざるものの領域に足を踏み入れたわ。

 でもね、センセ。どこまでいってもあなたは人間。

 そうそう私達のことを知られる訳にはいかないの」


「え、じゃあ修行の内容は?」


 清水の頭を、この三日間の日々が駆け巡る。

 それを今から消そうってのか?この人は。本当に何を考えてるんだ!?


「記憶はあいまいになるけど、身につけた技はちゃんと

 身体が覚えているから安心しなさいな。明日頑張ってね」


 千里が手を水晶にかざすと、清水の体から白い(もや)が抜けて水晶へと吸い込まれていく。


「……信じてもいいんですか?」


「さあ、どうかしら」口元を手で隠し、妖しい笑みを浮かべる千里。



 人を不安にさせてそんなに楽しいのかこの人は。あ、人じゃないのか。まったくもう。でも何だろう。多分大丈夫な気がする。それより、素直に声援をくれる方がなんだか不気味だな。いや、裏があるかもとか考え出したら負けだな、多分。

 思わせぶりな言動で何かあるぞと思わせるのがこの人の常套手段なんだよな。うん、気にしないのが一番だな。


「まあ、自分なりに精一杯頑張ってきますよ。応援ありがとうございます」


「うむ。己の全てを賭けてくるのだ。猛き一撃、明鏡止水が為す。

 曇った剣閃には何の想いもこもらぬものである」


「藤堂さんやタカさんにも似たような事言われたな。

 武術家ってのは精神論から入るのか?天狗君」


「剣道、柔道、天狗道。おしなべて道とは生きることである。

 信念のない生き様は、脆く、薄弱である」


「待て。3つ目のヤツは一般人が究めちゃマズイ道じゃないのか?」


「なに、気にならぬ!」「気にしてくれよ!」


 高笑いをする天狗仮面に、清水は思わず突っ込みを入れた。




   ○   ○   ○




 


 ―――やっぱり忘れてないんだよなあ。


 清水は山を降りながらこの三日間にあったことを反芻する。

 元の姿に戻った天狗仮面と共に闘ったこと。

 狐面の少年から幻影、幻覚のコツを聞いたこと。

 銀髪の少年、少女からタコ殴りにされたこと。


 特に最後の修行はひどかった…。本当に死ぬかと思ったもんな。でも、そのおかげで響命斬も会得できた。一回こっきりの大技だけど、確実に入れられるように流れを掴んでいかなきゃな。

 そうなると、実は天狗君のあの変な技とか、狐君に教わった相手に錯覚をさせる体裁きとかは結構有効なのかも知れないな。


 ―――あの人のことだもんなあ。何をしでかしてもおかしくないけど、何もしてこなくてもおかしくないんだよな。

 あれ?俺、千里さんに何されたっけ?ひどいことされたような気はするんだけど……


 頭がどこかぼんやりして細部が思い出せないが、何かにせかされるように清水の足は止まらなかった。


 ―――とりあえず、山降りなきゃな。…俺、山篭りしに来たんじゃなかったっけ?あれ?終わったんだっけ?ダメだ、何かボーっとする…。

 何するんだったっけ…ああ、うん、山、降りないとな……


 何も考えられず、清水はただ足を動かして西の山を後にするのだった。





   ○   ○   ○




 清水が去った西の山で、平太郎はばさりとマントをひるがえす。


「千里よ。妙な悪戯心は出しておるまいな?」


「さあ、どうかしらね」


「渉殿はこの町に必要な人間である。

 妖怪である我らの道にあまり寄るものではないからな」


「ふうん。その割には寂しそうねえ」


「……致し方あるまい。町で次にあう時には、再び天狗仮面として

 合い見えることになるであろうな」

「あっしはただの傘としてしか会えませんやな」


 妖怪と人間。それは確かに別のものである。

 しかし、分かり合える部分もあるのではないだろうか。そう平太郎は考えながら清水の去った方向を見つめているのだった。




 平太郎の横顔を眺めて微笑みながら千里はこれからのことを考える。

 この町で平太郎は天狗仮面として行動し、それなりに名を知られるようになった。

 千里もまた先日、鍋島の跡目を継ぐような形でうろなの町に住む妖怪達の取り纏めを行う役柄についた。鍋島の名が大きく、あまり良い顔をしない者もいるが、それはこれからの千里の行動次第だろう。

 普段の千里であれば、折衝や取り纏めといったものは性に合わないものである。それは千里自身も、また町の妖怪達もじゅうぶんすぎるほどに承知している。

 千里がまとめ役を申し出た時、場が騒然としたものだ。


 しかしそれも、千里が自分の目的を達成するために必要なことなのである。


「楽しむための労力を惜しんではいけないものね」


 ぼそりと呟き、「何か言ったか?」と問う平太郎に対して「なんでもないわ」とその笑みを崩さずに言うのだった。


 

YLさんの清水先生をお借りしました。

町で二人がまた会った時はよろしくお願いしますー。

…いやまあ、決闘の時にリング実況にいるんですけどね。

うちの天狗は。


コラボ作品URL

“うろな町の教育を考える会”業務日誌

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/



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