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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなで仲間を探す天狗のはなし
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10月5日 閑話 天狗、弁明する

閑話。思いついた会話だけで書いてたら地の文がものすごく減ってしまいました。

息抜き程度に短く、と思ってたのに気づけば普段の文章量なのは何故www


10月5日 夕


 天狗仮面、平太郎はうろなのショッピングモールを後にした。

 その手には、とりどりの花を使った大きな花束が抱えられ、車の助手席に座っていずこかへと向かっている。


 天塚、温泉津らとカメラを買いに来た平太郎は、二人と行動を別にした一瞬の隙に警備員らに不審者として捕縛され、事務室へと連れて行かれたのではなかったか。


 彼が花束を抱えてモールを出てきた経緯は以下のようなものである。




   ○   ○   ○




 天塚に商品と金銭を手渡し、自分は用を足そうとトイレに向かったところで、平太郎は警備員に声をかけられた。


「何件か苦情が来てるんだ。悪いんだけど、一緒に来てくれる?」


「む、しかし私は連れ人と来ているのだ。勝手に行っては彼らが困るであろう」


「じゃあ、その人たちも後で呼ぶからさ、とにかく、ほら」


 腕をとられ、半ば引きずられるように連れて行かれる平太郎を見て、モールの客達は一様にあの格好では仕方がない、というような顔をしていた。


「ま、待て!待ってくれ!天塚君と温泉津君が電器店にいるのだ!」


 不審な仮面男と知り合いとされてしまう天塚と温泉津も不憫である。



 事務室に着いた平太郎を待っていたのは、明らかに不審者への対応と思われる対応だった。対応に当たったのは比較的若い警備員だった。彼はうろな町の住人ではなく、他の町からバイトとしてこのショッピングモールに来ていたので、天狗仮面の存在を知らなかったのだ。


「キミ、名前は?」


「私は天狗仮面である!」


「いや、だから名前だってば」


「名は訳あって明かせぬ!しかし町では天狗仮面として通っている」


「状況分かってる?随分落ち付いてるけど、あんまりひどいようだと警察呼ぶよ?」


「ならばうろな署交通課の池守殿か、刑事課の立花殿を所望する。

 二人とも、私の事をよく知ってくれている者だ」


「つまり、警察の厄介になったこともあるってことね。

 で、何でお面なんか被ってんの」


「天狗仮面だからである」


「何?天狗仮面って」


「うろなの町を守る者。困っている者に手を差し伸べる者。

 それが天狗仮面である!」


「何でそんなことやってんの?」


「天狗仮面だからである!」


「……馬鹿にしてる?で、今日は何してたの?」


「私が迷惑をかけた相手に詫びをしに来たのだ」


「いや、今現在こっちが迷惑してるからね?」


「む、そうであるのか?」


「分かってよ、それくらい」


「しかし私は何もしていないのである」


「ダメだ。全然話が通用しない」


「めげてはいかんぞ。対話は大切な交友手段である」


「原因はアンタなの!分かって!」


「ところで貴殿、名をなんと言う?」


「聞けよ!何が対話だよ!お前話する気ないだろ!」


「いや、やはり話をするには相手の名を知らねば失礼であるからな」


「じゃあ教えろよお前の名前!」


「天狗仮面である!」


「そうじゃねえよ!何だよコイツ!もーっ!」


「落ち着くのだ、筒井殿」


「知ってんじゃねえか名前!あ!名札か!?

 名札見たんだなお前!じゃあ聞くなよ!」


「……新鮮な反応である。これは楽しいものであるな」


「俺で遊んでんじゃねえよ!馬鹿かお前!馬鹿なのか!?

 いや、馬鹿は俺か!?くそう、馬鹿にしやがって!」


 警備員、筒井が立ち上がり、警備帽を外して机にバシバシと叩き付けた。存外にコミカルなその動きに、平太郎は面白いものを見つけたものだと心の中でこっそり考えた。

 あまりの賑やかさに不審に思ったのだろう。ショッピングモールの関係者と思われる人間が遠慮がちに扉を開いた。

 うろなショッピングモールの営業部長、鹿島茂(かしま しげる)その人であった。

 彼は最近、部下や周りの人間から物腰が柔らかくなった、とっつきやすくなったなどと言われており、それが影響してか職場の雰囲気は前よりも和やかなものになっている。

 もちろんそれで業務成績が落ちているわけではないので、これはとても良い変化である。彼自身も、8月に営業課長から営業部長まで昇進し、より多くの人と関わるようになっている。その一端を担ったのが、平太郎の町での友人である清水という教師なのだが、平太郎がそれを知る由も無い。


 部屋を覗き見た鹿島は、天狗仮面の姿を確認するなりぎょっとした顔をした。


「一体何事ですか?」


「あ、いえ、モールの客から苦情を受けたのもので」


「私は何もしていないと言っているであろう」


「存在が不審なんだよお前は!

 いい加減警察呼ぶぞ!」


 警備員筒井が天狗仮面に向かって悪態をつくと、鹿島はふむ、と少し考えてから言った。


「通報はやめておきましょうか。

 モールに警察が来るとお客様が不安に思うかも知れません。

 代わりに、彼の身柄はこちらで引き取りましょう」


「待つのである。先刻、筒井殿にも話をしたのだが、

 私は知人と共にここに来ているのだ。彼らをいつまでも

 放っておくわけにはいかぬ」


 しかし、これに食って掛かったのが筒井である。天狗仮面の言うように天塚、温泉津の二人を店内アナウンスで呼び出したのだが、一向に天狗仮面を迎えにくる2人の姿は見られなかったからだ。


「さっきから全然誰も来る気配はないぞ!

 全部でたらめだろこんちくしょう!」


「まあまあ、警備員さん、落ち着いて。

 お連れの方が来られるまでの間でも構いませんから」


 鹿島はそういって尚も平太郎を連れ出そうとする。筒井は少し不審に思ったが、モールの関係者がそう言うのならば、雇われバイト警備員の自分には何もいう事ができない。

 平太郎は、鹿島の言動から何やら事情がある事を察知し、「うむ」と1つ頷いて鹿島と共に事務室を出る事にした。

 部屋を後にする際に、平太郎は筒井に礼を述べるのを忘れなかった。


「筒井殿。楽しい時間であった。

 機会があればまた会おう」


「るせえ、二度と来んな!」


 唐草模様のマントを翻し、最後まで筒井をからかって遊んでいた平太郎であった。




   ○   ○   ○




 別室へと案内された平太郎は、相手に切り出されるより先に、一体何の用事なのかと問うた。

 その言葉に驚いた鹿島は少々バツが悪そうにしてから、くだけた様子でしゃべりはじめた。


「なあ、あんた、本当に天狗仮面か?」


「いかにも。うろなの平和を守る天狗仮面とは私のことである」


「そうか!実は少しばかり頼みたいことがあるんだが……」


「聞かせていただこう。天狗たるもの、困っている者には

 手を差し伸べねばならん」


「噂は本当だったんだな。天狗仮面を目にするのは初めてだが、

 噂通りの男みたいだな。…見た目は多少……アレだが」


 そして鹿島は話し出した。

 自分には、最近まで入院していた妹がいること。7月の20日に退院し、二学期からは中学に通い始めたこと。妹が学校に行き始めて噂で天狗仮面の存在を聞いたこと。「会ってみたい」とせがむ妹に、つい「連れてくる」と約束してしまったこと。


「つまり、私がその妹君にお会いすれば良いのか?」


「そうだ。ああ、念のため確認なんだが7月1日の夜は何をしていた?」


「む、確かその日は南の倉庫で町にやってきた不埒な輩をこらしめた日であるな」


「……そうか」


 その日は、平太郎が悪を成敗するためにうろな町で初めて傘次郎を振るった日であったので、彼の記憶にしっかりと残っていた。

 鹿島がどこか納得したような顔で「うん、そうだよな」と呟いた。


「いや、妹が病院の屋上に天狗仮面がいたなんて言ってたんだが、

 きっと夢でも見たんだろうと思ってな。入院中も、たまに夜中の屋上に

 天狗仮面がいたのを見てたなんて言うもんだから、少し心配してたんだが」


「……うむ。まさか深夜の病院の屋上に私がいるはずもない」


 見られていたのかと内心驚いていた平太郎であったが、しれっととぼけながら、気になっていたことを聞いた。


「して、その妹君は名を何と言う?」


「ああ、言ってなかったか。萌。鹿島萌だ。

 器量充分の良く出来た妹だ。お前が妙なヤツなら

 妹には一切会わせないつもりだったんだが」


 そう言いながら、鹿島は天狗の面をまじまじと見つめた。


「見てくれ以外に悪いところはなさそうだし、

 何より萌の頼みは極力聞いてやりたい。

 念のために言っておくが、妹に手を出すんじゃないぞ?」


 平太郎は腕組みをして大きく1つ頷いた後、「承知した。茂殿」と言った。


 これに驚いたのは鹿島である。伝えてもいないのに自分の名前を呼ばれたことに、鹿島は驚きの表情をあらわにした。彼の胸の名札には「鹿島」とだけしか書かれていないからだ。


「驚いたな。それもお得意の『天狗仮面だからだ』ってやつか?」


「いや、これには種がある。貴殿の話を以前に友人から聞いていたのを

 思い出したのだ。名を清水渉と言う」


 その言葉に、鹿島の眉がぴくりと上がり、眉間に皺が寄せられる。鹿島は少し前に清水にうまくやりこめられた一件から清水の事を敵視しているのである。


「天狗仮面。悪い事は言わないから、友人は選んだ方がいいぞ。

 真面目ぶった皮を被っちゃいるが、あの手のタイプは自分の

 目的のためなら手段を選ばないからな」


「ふむ。その目的がうろなの人々のためにならぬものならば、例え友とて容赦はせん。

 しかしながら、渉殿はそれを見誤るような男ではないがな」


「……随分買ってるんだな。あの野郎の事を。

 アイツから俺の事はなんて聞いたんだ?」


「仕事の手腕は中々のものであると聞き及んでいる。

 先ほど、茂殿が渉殿に対してしたようなものと同じ評価であるな。

 どうも二人は似たもの同士であるようだな」


 鹿島はふん、と鼻をならし「同類だなんざ思われたくないがな」と吐き捨てた。


「ああ、それと末期のしすこん野郎だとも言っていたな。

 意味は分かりかねるが、愉快そうに笑って言っていたので、悪い意味ではあるまい?」


「あンの野郎!」ぎりぎりと歯軋りしながら、鹿島が拳を握り締めた。


 鹿島と清水が和解するのには、もう少し時間がかかるようである。




   ○   ○   ○




 鹿島の仕事が終わるのを待ち、共に鹿島家へと向かうことになった平太郎は従業員用の休憩室でのんびりしていた。天塚と温泉津の事を心配していた平太郎であったが、アナウンスしても来ないことから、おそらく帰ったのだろうと判断した。


 ほどなくして「今日は定時で帰っても大丈夫だろ」と言いながら鹿島が休憩室へと入ってくる。


「すまないが、少し寄り道をさせてもらう」


 そう言って二人して従業員出口から出た後、モールの店の中のひとつである花屋に鹿島は立ち寄った。「頼んでいたものを」と店員に告げると、色とりどりの花を使った大きな花束が持ってこられた。


「天狗仮面から萌に渡してやってくれないか。きっと喜ぶ」


「あいわかった。妹思いであるな」


「当然だ。俺はあいつの兄貴だからな」


 良い表情で頷く鹿島。駐車場で鹿島の車に乗り込み、願いを聞き届けるために平太郎は鹿島家へと向かった。


 うろなショッピングモールの関係者の一部ではこれより後に『鹿島さんが天狗に花束渡してお持ち帰りした』と噂が囁かれる事になるが、それが鹿島本人の耳に入る事はあるだろうか。

 いや、おそらくそんなことはないであろうし、真相が明らかにされることもまたないだろう。

 うろなショッピングモールの営業部長、鹿島茂の受難の行方は誰にも分からないのである。


YLさんの鹿島兄妹、お借りしました!


清水と鹿島は結構似たもの同士ですよね。

良いライバル関係だと思います。メッセージでもお伺いしましたが、他にもお気づきの点などありましたらお知らせ下さい。

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