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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなで仲間を探す天狗のはなし
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9月18日 天狗、妖具の元を買う

この話から、アッキさんの駄弁り部の来夏の章、『9月18日 カメ来夏』に繋がります。

是非、合わせてお読み下さい。



9月18日(水) 朝


 力を失った天狗、琴科平太郎は部屋で茶を飲んでいた。朝食の後の茶は、平太郎の欠かせない日課である。特に茶の種類にこだわりがある訳ではないので、銘柄や煎茶、番茶などのの違いにはこだわることはない。

 唯一、平太郎が飲むことを避けるのはコーヒーである。飲めない訳ではないのだが、どうにも口に合わないと常に思っている。それ故に、木造二階建てのアパートの一室にはコーヒーメーカーは無い。


「そういえば、兄貴、いつから茶を嗜むようになったんですかい?」唐傘化け姿の傘次郎が問う。


「町に降りてきてからであるな。千里に勧められたのであったか?」


「そうねえ。人の習慣を真似るように提案したのだったかしら」


「うむ。もっとも、今では好んで飲んでいると言ってよい。

 千里の淹れる茶は美味いのでな」


「あら、褒めても何も出ないわよ?」


「事実である」


 のんびりとした朝食後の一コマ。茶を飲み終えた後、平太郎はふと棚の上においてある羽扇に目をやった。父の形見の天狗羽扇。一振りで竜巻をも起こす天狗の妖具である。もっとも、今は宝玉が砕け散った為にその力を発揮させることはない。

 平太郎は考える。天狗たるもの、自らの妖具を持たねばならんのではないかと。父の遺したものではなく、自らの力だけで作り上げる妖具が必要なのではないかと。

 

 しかし、そうはいっても何を持てばよいものやらと平太郎は首を捻る。羽扇は材料を集めるのに大烏(おおがらす)の元へと赴かねばならぬし、槍や剣ではあっという間にお縄になるであろう。これ以上、うろな警察署に迷惑をかけるわけにもいかない。

 どうしたものかと思案した平太郎は、千里に聞いてみることにした。


「千里よ、私もそろそろ妖具を(こしら)えようかと思うのだが

 何を元にすれば良いだろうか」


「そうねえ。町で持っていても怪しくなくて…」「天狗を連想するようなものが良い」


「幅広い使い方をするもので…」「聞いているか?」


「面白いもの…」「その条件は不必要であるぞ!?」


 人差し指を頬に当てて、わざとらしく考え込むふりをしていた千里だったが、にやりと口の端を上げて平太郎にこう言った。「スケボーがいいわ」と。


 一度、千里が決めたことは簡単には覆らない。千里と平太郎と、傘次郎。3体の妖怪のヒエラルキーの頂点には、いつでも千里が座しているのである。

 「すけぼう、とはなんだ」と平太郎は言った。それに対して千里はこう述べた。


 助棒(すけぼう)、鎌倉時代後期、九州に置かれた長門探題にその起源を持つとされる。北条宗頼が考案した武具であり、元寇の際にはこれがたいそう活躍したと言う。

 元は物資を運ぶ為の荷台であったが、これを一人用の荷台にして馬に牽引させることによって、馬一頭につき馬上の武士に加えて荷台の武士も攻めに加わることが出来る。つまり騎馬戦において2倍の戦力を有することができるのである。古代オリエント時代の戦車(チャリオット)との相似性から、中国から伝わったものではないかという学者もいる。

 そしてこの際、馬と荷台をつなぐ為の連結棒の事が助棒と呼ばれていたが、いつしか連結された荷台そのものを助棒と呼ぶようになり、江戸時代中期には馬に牽引させていない一人用の荷台のことも同じ名で呼ぶようになったようである。

 近代においてはハンドルをつけたキックボードやセグウェイ、そしてサーフボードやスノーボードなどに進化を遂げており、今後の発展が期待されている最古にして最先端の研究部門である。



 つらつらと述べられた出鱈目の知識に、平太郎はふむ、と一つ相槌をうった。


「助棒の素晴らしさ、由緒の正しさは分かった。

 いわゆる、文明の利器というものであるな。

 しかし千里よ、いささか天狗らしからぬ物ではないか?」


「そう言うと思ったわ。これを御覧なさいな。

 現在研究されている最新のものよ」


 そう言って千里はデッキに一枚のディスクを入れた。


「これは?」「しばらく見ていなさいな」


 胡坐をかき、テレビの画面を見る平太郎。傘次郎も隣で画面をながめている。しばらくすると平太郎ががたりと膝を立てて「こ、これは!」と声をあげた。

 千里がそれを制し、映像を一旦止める。「どう?」と声をかける千里に対して、平太郎は画面から目を逸らすことなく答えた。


「助棒が宙に浮いているではないか!これは真実であるか!?」


「ええ、確かなものよ。地を駆け、海を駆け、ついに人は天空をも駆けようとしているのよ」


 画面に釘付けになりながらも、平太郎は興奮を隠せない。


「天空を自在に飛行するその姿はまさに天狗の象徴!

 そうか!現在の助棒を、妖力で浮かせればよいのだな!」


「そうよ、現在の科学技術では実用はしばらく先でしょうけれど、

 妖力を使えるあなたならば…すぐでしょうね」


「助棒はどこに売っているのだ!すぐに調達せねば!」


「落ち着きなさいな、平太郎。商店街の玩具店に売っているわ」


「ホビー高原であるな!では、行ってくる!」


 そういってきびきびと身支度をして、唐草模様のマントを翻し、玄関に並べられた5つの天狗面の手前から2つ目を被って飛び出していった。

 あとに残された傘次郎は、ジト目で千里を見ている。


「姉御…兄貴であんまり遊ぶものではありやせんぜ」


「あら、次郎ちゃん気付いてたの?」


「気付くも何も…、この資料映像、ただのSF映画じゃねえですかい。

 さっきの説明も嘘っぱちなんでやしょう?」


「失礼ねえ。2割ほどは本当よ?

 それに、おねーさん、この映画好きなのよ」


「はあ、毎度の事ながら兄貴も不憫でやすねえ。

 あっしは続きを見ていても構いやせんか?」


 くすくすと笑いながら千里が承諾し、「どうせならシリーズの一作目から見たらどう?」と言ってディスクを換え、再生ボタンを押した。画面に映ったのは、タイムマシンを使って過去へと渡った一人の青年の物語であった。




   ○   ○   ○




 平太郎はつかつかと商店街を歩き、開店と同時にホビー高原へと颯爽と入店した。


「直澄殿!頼みがある!」


「おわっ、開店一番の客が天狗仮面とか濃い一日だな」


「この店に助棒はあるだろうか!」鼻息荒く平太郎が問いかける。


「スケボー?ああ。もちろんあるよ、プレゼントか?」


「私が乗って空を駆けるのだ!」


「は?」


 いぶかしむホビー高原店主の高原直澄からスケートボードとサポーターを買い、平太郎は意気揚々と店から出ようとしたが、扉の前でふと振り返り直澄に声をかけた。


「直澄殿。その後恩師との進展はいかがであるか?」


「ああ、おかげさまで。まだぎこちない時もあるけど、そこそこ順調さ」


「渉殿も私も応援している。秋と共に二人の仲も深まればよいな」


「サンキュ、渉兄さんに続け!が今の俺の目標だよ」


「念ずれば通ず。しかし焦りも禁物である。

 直澄殿のペースで頑張るのだ!では、私はこれにて失礼する」


「おう、じゃあな」




   ○   ○   ○



 

 平太郎は商店街を後にして、買ったばかりのスケボーを持って妖具を完成させるために中央公園へと移動した。道具に自らの妖力を流し込み、馴染ませる。それが妖具の作り方である。長い年月使い続けるほど、その効果は高くなる。天狗羽扇の宝玉のように妖力の核となるものがあればもっと効率が良くなるのだが、そうそう手に入るものでもない。

 平太郎は、まずは道具の感覚を掴むことが先決だと判断したのである。


 しかしこの後、平太郎は自らの不注意によりある事件を起こしてしまうこととなる。そんな事とは知らずに、平太郎は一心不乱にスケボーの練習をするのだった。





YLさんの

「うろな町の教育を考える会」より、ホビー高原および高原直澄を

お借りしました!


※余計な豆知識※

傘次郎の見ているSF映画のタイトルは「Return to the Future」

マク博士の作ったタイムマシン、メロディアンに乗って青年ドーティは偶然過去へと飛んでしまう。未来へ戻る為に青年ドーティが過去のマク博士の力を借りて奮戦するお話。

平太郎が見たのは、Part2で青年ドーティが未来へとタイムスリップした際に町の子供が乗っていたフライボード。水の上では浮遊は出来るが進まない。



…怒られるかな?コレ。



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