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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなを力を合わせて守る妖怪たちのはなし【うろな妖怪・夏の陣】
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【うろ夏の陣・8月14日】宇宙人、笑う

8月14日(水) 夜



 同日、平太郎が赤坊主との一騎打ちを始めた頃。院部団蔵も山を歩いていた。腰にがちゃがちゃと宇宙的秘密兵器をぶら下げ、頭にはヘルメットのようなものを被っている。

 夜遅くまで勉強に励もうとする同居人の浪人生を「たまには健康的な、人として尊厳のある生活を送りたまえよ」と無理やり彼の持つ宇宙道具の一つである『睡眠強制ヒュプノパウダー』を彼の強制日課となっている青汁に混ぜ、こっそりとコーポを抜け出して来たのだった。

 その顔には不気味なほどの満面の笑みが貼り付いており、その笑顔を見たものはすべからく脳裏から離れず数日間はうなされること請け合いの団蔵スマイルであった。


「うひひ。かかってこい敵対宇宙人共。我の秘策中の秘策にかかれば、

 貴様らの接近、おそるるに足らず!うひ、うひひひひ」


 彼をこのように変えてしまっているのは、彼の頭にすっぽりとはまっているヘルメットが原因である。その名を洗脳兵器カリキュラ・マシーンと言う。

 本来は相手の頭に被せ、付属のリモコンで相手の感情を操作するという代物だが、院部はあえてそれを自分で被り、感情を喜怒哀楽の「喜」一辺倒に設定してあるのだった。


「うひひ、地球界隈では、敵対宇宙人の事をヨーカイと呼ぶというではないか。

 しかも面白おかしく陽気に過ごせば相手が嫌がると人は言う。

 手も足も出ぬヨーカイ共を屈辱的にぺちぺちと退治してくれようっひひひ!」


 どうみても変質者である。地獄から来た悪魔の使者だと彼が名乗ったとすれば、10人中8人はある特定の種類の病院から抜け出して来た患者だと思い、残りの二人は本物だと納得するだろう。

 「うひ、うひひ」と笑いながら山中を歩く院部は、2体の妖怪に出くわした。一方は傷ついた女性型の妖怪、もう一方は小柄なネズミ顔の妖怪であった。どうやら2体は対立しているらしいと見て、院部はその場へと身を進める。こういう場合に助けるべきはどちらか、決まっている。


「うひ、助けにきましたぜ、お嬢さん。

 我が来たからには、かようなげっ歯類もどきイチコロですぞ!」


 場の空気が固まる。無理もない。現れたのは妖怪ではない上に、貼りついた団蔵スマイルは1ミリたりとも崩れることはなかったのだから。院部は腰に提げた懐中電灯のようなものを取り出し、ネズミ顔に向けて光を放った。

 夜の闇の中、急に顔面を照らされたネズミ顔はたまらず目を覆って「ぎゃあ」と呻いた。


「これぞ我の宇宙道具が一つ、時限式脱毛光線銃でありますぞ。うひひゃひひ。

 この光線を浴びたが最後、きっかり百年後につるつる光る頭皮が拝める悪魔の道具!

 さあ、恐れおののいて我に土下座を」

「今の内よ!こっちに!」


 院部が得意げに道具の説明をしている途中で、女性が院部の手を引いて茂みの中へと逃げ込む。ネズミ顔はしばらく悶絶していたが、やがて視力が回復すると「逃がしちまった…、いったん戻ってこの事を伝えねえと」と院部の歩いてきた方向へ向かって駆けていった。


「た、助かったわ。私は砂女(すなめ)。あなたは?」


「うひひ、我は名は院部団蔵である」

「よ、寄らないで!」

「む?」


「い、いや、その、私、ほら、怪我してるから…

 院部さんの服が汚れると思って…」


「うひゃ!何と心優しいお嬢さん!よろしい。ならばこれを」


 そういって院部が取り出したのは板状のチョコレートのようなものだった。「これは?」と質問する砂女に対して、院部は


「どんな傷でもたちどころに治る秘薬であります。ただ、副作用として

 そこにない物がちらほら見えたりしますが。うひひひ」


 満面の団蔵スマイルでそうそう告げると、砂女は心底嫌そうな顔をして「け、けっこうよ」と受け取りを拒否した。


 この砂女が赤坊主の軍勢の者である事を、院部は知らなかった。傷ついていたのは、先刻、平太郎の巻き起こす竜巻に呑まれ、吹き飛ばされたからである。

 落ちた先で、先ほどのネズミ顔の妖怪と対峙していたのだ。砂女は赤坊主、青坊主の元へと戻り、彼らの手助けをするつもりであった。自分達を虚仮にした天狗に目にもの見せてやらねば気がすまない。

 このへんてこな生物の乱入で、なんとかこの場を切り抜けることが出来た。後は囮や捨て駒にでも使えば良い。そう思う砂女だったが、団蔵スマイルを見ると、背中を何かが這いずり回るような気味の悪さを覚えるのだった。


「うひゃひひ、どうしましたかな、お嬢さん」


 その声がもたらす生理的な嫌悪を堪えながら、砂女は「な、なんでもないの」と返す。院部は、その態度を恥じらいと捉え、院部の顔を見ようとしないのも、同じ理由であろうと考えた。

 なんとも奥ゆかしいお嬢さんではないか、と院部は気を良くして、砂女に言われるがまま、ほいほいと山の奥の方へと進むのだった。



 

出汁殻さんの院部団蔵、お借りしました。


院部くんの大活躍をこうご期待!


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