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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなを力を合わせて守る妖怪たちのはなし【うろな妖怪・夏の陣】
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【うろ夏の陣・8月12日】天狗、準備を整える


8月12日(月) 昼


 伏見の鬼がやられた。相手は役小角配下の前鬼と後鬼だと言う。平太郎は数日後に控えた妖怪同士の決戦に向け、うろな町に住む妖怪達の元を再度訪れた。


 力の無い妖怪には、当日には住処やねぐらを出ないようにと伝え回る。途中で鬼ヶ島厳蔵の住まいにも立ち寄った。


「厳蔵殿、貴殿の助けなくば、被害はもっと広がっていたであろう」


「がはは!気にするでないわ!町を想うておるのはお前さんだけではないぞ!

 確かに、お前さんとこの千里は鬼使いが荒いがのう!」


「それに関しては全面的に同意する。鬼使いだけでなく、天狗使いも荒いのだ」


「お互い苦労するのう!ま、ええわい。この騒動が終われば、また長老の所で

 酒を酌み交わそうではないか!」


「うむ。楽しみにしている」


 鬼ヶ島厳蔵はそのコネクションで町の被害が最小限になるように動いていた。双子の家の修復だけではなく、妖怪に縁のある人間達が被害に遭わないように町の外から警備部隊を派遣もしてくれていた。影の功労者である。

 そんな鬼ヶ島にも、西の山での総力戦では彼自身の力を借りることになるだろう。平太郎は、


「改めて、町を守る為に力を貸していただきたい」と頭を下げた。


 平太郎の後頭部を、スパンとはたく鬼ヶ島。「ッ!?」驚く平太郎に


「水くさいわ!この若造が!貸すとか借りるではないわい!

 儂とて、この町を守る気持ちは十二分にあるわい!」


「うむ。これは失言であった。共にうろな町を守ろうぞ」


 天狗と鬼は硬い握手を交わした。




    ○   ○   ○




 伏見の鬼兄妹の元へも立ち寄る。


「傷は良いのか。弥彦殿」


「…問題ない」


 そう言って部屋の隅に立てかけられている布包みを一見して、


「次は負けん」


と強い意志の感じられる眼差しを平太郎へと向けた。妹である葵は、何やら迷ったような、思いつめたような表情をしているが、彼女なりに決意を固めている現れだろうと平太郎は判断した。


「葵殿。貴殿のおかげで、相手を迎え撃つ準備が出来た。

 後は共に町を守る為に戦うのみである」


「…せやな。今さらウダウダ考えとってもしゃあないな、うん。

 ウチらに任しとき!あんな阿呆鬼ども、メッタメタにしたるよって!」


「うむ、それでこそ葵殿だ。西の山は広い。戦力を分散して、奴等を一歩たりとも

 町に入れぬようにせねばならぬ」


 頷き合った三人は決意を胸に秘め、それぞれの敵を打ち倒すことを誓った。

 去り際に、平太郎が思い出したように兄妹に告げる。


「忘れていた。厳蔵殿が、この騒動が終われば山の長老の元で宴会をすると

 言っていた。秘蔵の酒も出すと言っていたぞ」


「はは、ほんまに酒好き、宴好きやなあ、あのオッサンは」


「酒が足りなくなるかも知れぬ、と伝えてくれ」弥彦が不敵に笑う。


「うむ、承知した」大きく一つ頷いて、平太郎は鬼兄妹の元を去った。




   ○   ○   ○




 院部団蔵の元を訪れようとした平太郎は、彼の住まいを知らぬことに気がついた。そして知らずとも別に不都合はないのではないかとも考えた。

 しかし、伏見葵が得た情報を伝える為に千里が皆に連絡して回った時に、どこからともなく現れて何食わぬ顔で集会に参加していた。


「如何ともし難い。不思議な御仁であるな」


 しかし、決戦が西の山である以上、付近に住む彼ならばひょっこり顔を出すような気がして、なんとも不安な気持ちになる平太郎だった。




   ○   ○   ○




 双子の住む降矢邸には、家主である降矢くるみ、みるくの他にも稲荷山考人、鍋島サツキが揃っていた。平太郎は双子に先日のことを侘びた。庭先に落ちたことについてである。


「だいじょーぶ」

「おにーちゃんがてつだってくれたから」


 考人の右手と左手をそれぞれしっかりと掴み、双子は平太郎に笑いかける。


「しかし考人よ、その姿はまるで…」


「言うなよ、平太郎。それ以上は言うな」


「にゃはは、お父さんみたいだにゃー」


「サツキ、言うなって言ったろ!?」


 考人にも守るべき者が出来たかと平太郎が微笑ましい顔で見ていると


「ホントやめろ!その“お前もついに親か”みたいなその顔!」


 決戦が近いとは思えない朗らかな雰囲気だが、それがかえって頼もしく感じられる。平太郎は考人にしか頼めぬと思っていたことを口に出した。


「赤坊主と青坊主のことであるのだがな…」


「なんだよ。急に真剣になって」


「私が見境を無くしそうになったら、考人、お前が私を止めてくれ。

 父上の仇である奴等を前に、どこまで冷静でいられるか分からぬ。

 町を守ることが第一であるのでな。私怨は二の次だ」


「俺にとっても師匠の仇だよ。でも、分かった。

 言うとおり、町を大切な場所を守ることが一番大切だもんな」


「タカトが怒りに我を忘れたら、あっしがひっぱたいてやるにゃー」


「へいへい、期待してますよぉ」


「たたくのー?」

「たたくのー?」


「お前たちはいいんだよ。あーもう、ほら、変なこと言い出したじゃないか。

 あんまり悪い影響与えるようなこと言わないでくれよ」


「考人…」「にゃはー!やっぱりお父さんだにゃー!」


「おとーさん?」

「たかとおとーさん?」


「違う!だー!もう!やっぱ不幸だー!」


 変わらない日常に心強さを覚えながら、平太郎は降矢邸を去った。あの日常を守るために考人は力を発揮するに違いない。随分と頼もしくなったものだ、と少し寂しくも感じる平太郎であった。




   ○   ○   ○




 木造2階建てのアパートの前で、猫夜叉達と出会った。

 町に降りている間は、雪姫を探すためとどこかしら出歩いてその姿を探しているが、なかなか成果があがらず、若干焦りの色が見てとれた。


「もう、全然見つからないんだけど」


「無駄口を叩くな、斬無斗。強い妖気のある所に雪姫はきっといる」


「今日も無山の守りは私に任せてくれ。天狗羽扇の実戦にもなっているので

 こちらも助かっている」


「母さんから聞いてるよ。見た目で思ってたよりやるってさ。

 でもホント、その格好どうにかなんないの?」


 斬無斗がジャージにマントのいつもの服装を指さす。


「ジャージは私の魂だ。これなくば、この町では私だと言えないのでな」


「みたいだね。町での知名度もそこそこあるみたいだし。ほんと変」


 平太郎は呵々と笑い、「なに、気にならぬ!」と言いのけた。「いや、気にしようよ…」と呟きながら、猫夜叉達は町に雪姫を探しに出る。


「斬無斗殿!無白花殿!」背中に向けて平太郎が声をかける。振り返る猫夜叉達。


「うろな町は良い所だ!二人を助けてくれる者もきっといるであろう」


「いたらその時はちゃんと感謝するよぉ」

「しかし、雪姫を見つけることが最優先だ」


 手を挙げて、平太郎は2人を見送った。きっと、彼らならば大丈夫である。




   ○   ○   ○




 部屋に戻れば、千里がのんびりと本を読んでいた。


「ほう、呪術関連の本か」


「そうよ、ただ大人しくしているのにも飽きてきたの」


「確かに、今回はいやに大人しいではないか」


「おねーさんにも色々あるのよ」


「逆に不気味であるな」


「言ってなさい。しっかり楽しませてもらうから大丈夫よ」


「しかしな、千里。町を守らねば楽しむことも出来ぬのだぞ?」


「あら。町を守ってくれるのは誰かしら?」


 その問いかけに、玄関先で傘立てからがしゃがしゃと出てきた傘次郎が声を上げた。


「きまってまさぁ!うろなの町を守るのは、平太郎兄貴でさぁ!

 力を取り戻した兄貴に敵はありやせんぜ!」


「次郎、それは違うぞ」「?」


「町を守るのは、私だけではない。この町を愛するもの、皆が

 この町を守る為に戦おうとしているのだ」


 傘次郎は「おおぉ」と武者震いして、「そうでやすね!あっしも町を守る為に死力を尽くしやすぜ!」と息巻いた。


「そ、皆ができる事をやればいいのよ。おねーさんも、できる事をやってるわ。

 町がなくなれば楽しめなくなるのは事実だもの。そんなことは許さないわ」


「うむ。何をやろうとしているかは分からぬが、千里も頑張ってくれ」


「ええ。おねーさんも楽しませてもらうわ」


 千里の飄々とした態度は今に始まったものではない。そして、自分が楽しむためならば何を差し置いても動く妖怪、それが仙狸である。長い付き合いでもあるので、平太郎も深い詮索はしなかった。

 ただ、千里への信頼を寄せるだけである。千里もまた、平太郎が町を守ることに信を置いていた。


「来るがいい。うろな町は渡さぬ!」


 唐草模様のマントを翻し、傾き始めた陽を見据えて平太郎はその決意を口にした。



次回より、ついに敵軍との決戦に入ります。

長かったなぁ、ここまで来るのに。


夏の陣に参加していただいている妖怪・人外キャラをお借りしました!


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