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うろな天狗の仮面の秘密  作者: 三衣 千月
うろなを守りたい天狗の話
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6月6日 仙狸、中学校へ行く

天狗、出番なし!

家で子供たちの為にプログラム練ってるらしいです。


 6月6日 午前 



 猫塚(ねこづか)はしとしとと雨の降る中を傘をさして、うろな中学校へ向けて歩いていた。

 この町に暮らす同じ妖怪仲間に会いに行くためだ。学校の校門前で待てば、きっと彼に会えるだろう。最近、この町は妖怪にとって少し物騒な町になった。妖怪退治のスペシャリストである陰陽師がやってきたというのだ。


「陰陽師風情に遅れをとるとも思えないんだけど」


 猫塚ぽつりと呟き、うろな中学の校門前で雨の中をしばらく待った。ぽつりぽつりと登校する生徒達が増えてきた頃、目当ての妖怪を見つけることが出来た。

 彼、稲荷山考人(いなりやま たかと)は噂の陰陽師に命を狙われている妖狐であった。考人の方も猫塚を見つけたらしく、彼女の手招きに応じて門の脇へと寄ってくる。


「はあい、おねーさんが会いに来たわよ。"うろな町の3尾"君」猫塚は小声で囁いた。


千里(せんり)さん……。時と場所を考えてくれませんか」


 焦ったように小声で稲荷山は返事をする。


「ツレナイわねえ。せっかく会いに来たのに」


「ちょっかいかけに来た、の間違いでしょう?」


「ふふ、そうとも言うかしらね。さて、本題に入るけれど」


 猫塚は素早く数点の情報を確認した。陰陽師の目的、外見、名前などである。

 妖狐狩りに来たと言う話だったが、妖狐以外にも、妖怪と見れば有無を言わさずに攻撃してくるだろうと考人は言った。「一つ目のヤツも、数日前に……」「あら、そう」


「天狗にも言っといて下さい。あんまり出しゃばるんじゃねえぞって」


「あら、言わないわよ。私がしばらく天狗につきまとうけれど」


「は?」


「何も知らずに町で出くわした方が天狗の反応が楽しみだもの」


「滅せられるかも知れないんですよ!?」


 考人が驚いたように言う。猫塚は口の端をあげてくつくつと笑うばかりだ。


「陰陽師の呪詛(じゅそ)返しくらいできないと、仙狸(せんり)を名乗れないもの。

 おねーさんは芸達者なものよ。簡単なものでよければ教えるけれど?」


「……考えときます」


 話している内に登校者も増え、部外者である猫塚と話し込んでいる考人は目立ち始めていた。それもあってか考人は話を早く切り上げようとしているようだった。

 それを見ぬいた猫塚はわざと芝居がかった様子で荷物の中から包みを取り出した。周りの人間に聞こえるように少し声を大きくする。


「はい、考人君っ。今日のお弁当!

 いつも美味しいって言ってくれてありがとう」


「ちょ、勘弁してくれよ千里さん……」


「あら、この姿じゃ不満かしら?

 何なら、同級生くらいの姿に变化するけれど」


「そんな問題じゃねえって……。はぁ、不幸だ」


 稲荷山考人を心ゆくまでからかい、猫塚は颯爽とうろな中学から去ってゆく。渡した弁当を手に立ちすくむ考人と、それを遠巻きにジロジロ眺めながら登校する生徒達を見るのは痛快だった。


「でも、予想以上に力の強い陰陽師だったわね、アレは」


 中学校からしばらく離れた所で猫塚はつぶやく。校舎の窓からこちらをじっと見ていた人影、外見の特徴から言って、先ほど話していた人物だろう。遠見の術を使ってこちらを見ていたようだ。

 猫塚は"陰陽師風情"という評価を取り消し、どうすれば自分が楽しめるかを全力で考えることにした。妖怪・仙狸はそういう妖怪なのである。


「でも、わたしは平太郎が楽しませてくれるなら、それでいいわ」


 傘をくるくると回し、口角をにいっと上げながら雨の中を足音もなく歩く。

 猫塚は、平太郎が天狗の力を失った時の事を思い出していた。



   ○   ○   ○



 長い年月を生きる仙狸という妖怪にとって、数年などほんの一瞬の間でしかない。先ほど3本尾の妖狐と話していた陰陽師も、開祖の人物が朝廷であれこれやっていた時の情景が浮かんできた程だ。

 そんな季の遠くなるような年月からすれば一瞬。ほんの一瞬にも思える数年前に、平太郎は天狗の力を失った。天狗といえど不死ではない。ある出来事により父親と天狗の力を同時に失くした平太郎は数週間、その場を動かなかった。動けないほど、疲弊していたのだ。


 今、平太郎は天狗の力を取り戻す為にこの町で全身全霊をかけて人助けをしている。

 最近では、妖力を取り戻すことよりも、人助けそのものを楽しんでいる節さえある。


「いつ、本当のことを言おうかしらねえ」


 雨の中、猫塚がつぶやく。

 失意の底にいた平太郎にかけた猫塚の嘘により、平太郎は今こうして、うろな町で天狗仮面として不審者扱いされながらも町の一員として頑張っている。

 猫塚のついた嘘の真実が明らかになる時、天狗仮面、平太郎はこれまでにない苦しい選択を迫られることになるだろう。


 それを思うと、猫塚はたまらなかった。楽しみで仕方がないのだ。人としては歪んでいるかも知れないが、彼女は妖怪である。むしろ、妖怪として歪んでいるのは平太郎に他ならない。

 

 天狗仮面の同居人、猫塚千里は足元が煙る静かな雨の中を歩いていった。

 



 


寺町さんの「人間どもに不幸を!」より、稲荷山君と描写のみですが芦屋さんをお借りしています。


寺町さんの作品と設定を共有していますので、これからもリンクすることが多くなるかと思います。


なんかシリアス路線になってきたな。修正できるかな…

いや、天狗ならきっとこのシリアスな空気をぶち壊してくれる!はず。



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