7月12日 仙狸、ガールズトークをする
やりたかったんです!トーク会!by千月
7月27日(土) 夜
千里はショッピングモールの最寄り駅である、東うろな駅の駅前にいた。
彼女はここで人を待っている。キャスケット帽を被り、ネイビーのスキニーパンツとパンプス、パールホワイトのカットソーにジャケットを合わせた出で立ちであった。
普段の彼女はジーンズにロングTシャツを着るだけの横着な服装をしている。うろなのショッピングモール内の大型書店で働く時も、その服装に書店員を表すエプロンをつけるだけである。
なぜ、今日はめかし込んだ格好なのか。
彼女がこのような洒落た格好をする時は、決まって特定の友人と会うときである。例に漏れず、今日もその友人達との待ち合わせであった。
駅の改札の方から、「千里さーん」と呼ぶ声が聞こえた。千里の友人の一人である星野美里が手を振っている。
彼女はとうどう整体院に勤める整体師であり、千里の住む木造アパートの近所に住む人物でもある。こうしてプライベートで会う程には仲が良い。
「わ、千里さん、カッコイイ!」美里が服装について述べる。
「あら、美里ちゃんも似合ってるわよ。アナタの雰囲気にぴったりだわ」
美里は、ブラウンのショートカットに良く似合う明るい水色のボーダーシャツ、白デニムにスニーカーと、明るい彼女にマッチした服装であった。グラデーションのかかったストールをアイテムとして追加し、全体的に活動的なイメージに仕上がっている。
「千里さんみたいな服装が似合うようにならないかなー」
「美里ちゃんはそのままがいいわ。藤堂さんも、そう言うんじゃないかしら?」
「ちょ!なんで急に藤堂さんが出てくるんですか!」
「そうね、悪かったわ。この話は後でゆっくり聞かせてもらわなきゃね」
「もう、千里さんのいじわる!」
楽しそうに目を細めて笑う千里とからかわれた事に少しばかりの不服を表す美里。
○ ○ ○
二人は駅を離れてショッピングモールそばの小洒落た雰囲気の居酒屋へと入った。
店員の案内に対して、連れが来ているはずだと告げると、「こちらへどうぞ」と奥のテーブルへと案内された。
そこには先客が2人おり、すでにカクテルが数杯、空けられていた。
「千里さん、美里ちゃん、お先にやってるわよー」
「二人共、お仕事お疲れ様」
彼女たちもまた、猫塚が気を許せるこの町での友人達だった。
カラカラとグラスを揺らし、愉快そうに飲んでいるのは伊藤隼子である。うろな図書館に勤務する彼女は日々、職場のお局様に対するアレコレを酒で晴らすのだ。胸元にポイントの入った白のブラウスにベージュのキュロットを合わせた動きやすそうな格好である。
そしてその隣でやれやれと伊藤を見守るのが、戸津アニマルクリニックに勤務している久島宇美である。ノースリーブの水色のワンピースに編み上げサンダルと、大人しい涼しげなコーディネートである。二人は幼馴染であり、お互いの役割分担はしっかりと出来ているようだ。
「宇美ちゃん、ありがとう。もー、隼子ちゃんたら相変わらずなんだから…」
「今回は何分くらい愚痴が続くのかしらねえ」
通常ならば、伊藤の愚痴は平均30分である。今日はどうだっかと言えば、おおむねいつも通りのボリュームの愚痴をその口からこぼし、それと等価のアルコールを彼女はこぼした愚痴の代わりに流しこんだのだった。
「ねーぇ、せんりさぁーん、どうしてアタシには出会いがないんでしょー?」
「あらあら、隼子ちゃん、今日はハイペースなのね」
「えー、隼子、鎮君はどうしたのよー」
「え?なになに?隼子ちゃんてばイイ人いるの?」
「鎮はそんなんじゃなぁーい」
彼女の勤務する図書館に頻繁にやってきては彼女にちょっかいをかける高校生、日生鎮。端から見ているとまんざらでもないように思えるのだが、隼子はこれを否定する。
「だぁってほら、アイツ高校生よ?色々とダメでしょー?」
「その割には隼子、鎮君が他の子にちょっかいかけてると嫉妬するのよね」
「へーえ」「あら」美里と千里がニヤニヤと隼子を見る。彼女はキュロットからのぞく足をばたばたさせて抗議の姿勢を示した。ローファーが椅子にコツコツと当たっている。
「あ、あ、アレはぁー!そ、そう言う宇美こそどうなのよ!戸津先生とは!」
「あー、隼子ちゃん、話題そらしたー」
「もう!美里ちゃんだって藤堂先生ラブなんでしょー!?
二人ともどうなの?『先生』ってやっぱ魅力的なの?」
「あんまり相手にされてないかなー、お母さんの方から変なパスが入るのが
なんだかなーって思っちゃうけど。焦ってもしょうがないし」
戸津アニマルクリニック医師、戸津信弘。彼は仕事一筋の実直な男であり、宇美の好意に気が付いているのかいないのか、彼女の母親からの公認宣言をいともたやすくスルーしている。
「私は…避けられてるような気がする…名前で呼ばれたコトもない…」美里がうつむく。
彼女が好意を寄せるとうどう整体院の院長、藤堂義幸は、45歳の男であるが、道場を開き稽古を日課としているだけあって、見た目は30代にしか見えない。
「ダメよ美里ちゃん!弱気になっちゃ!」
「そーよぉー!あ、アレどうだったの!?夏祭りに一緒に行くーって張り切ってたじゃない!」
「あら、すごかったのよ。藤堂さんの膝の上に座ってたものね。美里ちゃん」
「えー!?ちょっとどういうこと!?」
「美里ちゃんったらダイタン!」
「違うのー!アレは、千里さんが無理やり飲ませるから…」
「あら。でも、あの後二人で花火を見られたでしょう?感謝して欲しいわ」
「そうだけどぉ、もう、千里さんのいじわる」
「千里さんも相変わらずねー」
「あー、でもでも。千里さんの話も聞きたいなぁー」
「わたし?」
「だってほら、天狗さんと同棲してるんでしょー?ぶっちゃけどうなのー?」
「そんなに気になるのかしら?普通に暮らしているけれど」
「でも、付き合ってるとかじゃないんでしょ?」
「そうねえ。昔からの付き合いだから、そんなに特別な感情はないわね。
私は、彼が楽しませてくれれば、それでいいの」
「幼馴染かぁ。いいなぁ。私も、こんな酒癖の悪い幼馴染じゃなくて
カッコイイ幼馴染が欲しかったなぁ」
「にゃんだとう?この隼子ちゃんじゃ不服だってのぉ?」
「絡まないの、隼子ちゃん。ねえ、いつから一緒なの?千里さん」
「そうねえ、300年くらい前からかしらね」
「千里さんったら、またそうやって誤魔化すんだからー!」
「この前も、彼の仮面の中身を聞いたのに力を無くした天狗なんだって言うしー」
「ふこーへーだー!うろな町の図書館としては
情報の開示をようきゅーするわ!」
「あはは、そーだそーだー!」
猫塚はにやりと笑ってその楽しそうな雰囲気を眺め、ゆっくりと人差し指を立ててこう言った。
「それじゃあ、ハンデ1本。これでどう?」
「よーし、受けてたとーう!勝ったら天狗さんの素顔の写メ見せてね千里さん!
店員さーん!『天狗殺し』、ボトルで3本!」
「またそうやって無茶な飲み方するんだからもう」
「もうだいぶ飲んでるのにね」
隼子と千里はテーブルを挟んで対峙する。運ばれてきた酒のボトルのうち、ハンディキャップにあたる一本を千里が易々と飲み干した所で、二人のグラスに『天狗殺し』が注がれる。最初の1杯くらいはと宇美と美里も自分のグラスにそれぞれ注いだ。
「アタシ達の人生の勝利とー、何よりもアタシ個人の勝利に!」隼子が仰々しく杯を掲げる。
「あーあ、もう。じゃあ、幼馴染が無茶をしないように」
「私は、藤堂さんが名前で呼んでくれることを祈ってー」
「私の周りにある、すべてのおもしろいものに」
「乾杯!」
グラスをキンッと合わせ、千里は透明度の高い液体をするりと一息に喉に流し込む。
グラスと共に上げた視線の先には吊るされた照明がチカチカと瞬いていて、とても綺麗でおもしろい、と千里は考えた。
人として、彼女たちとこうして過ごすことは、千里にとって『おもしろいこと』であり、またこの空間もとても愛おしいものであった。
○ ○ ○
帰路の途中で、千里と美里は今日も楽しかったと言い合う。
しばらく飲むうちにやはりというか、隼子が酔い潰れ、「まただよ、もう」と宇美が笑いながらこぼした。店を出て肩を貸しながら「大丈夫?歩ける?」と問う宇美に対して「あーい!どこまででもー!」と拳を高々と突き上げる隼子の姿に、美里は苦笑し、千里はころころと笑っていた。
隼子、宇美と別れ、家が近い二人は東うろなから新うろなまで電車に乗って、自宅までの道をのんびりと会話しながら歩いていた。
「で、言うのよ。『天狗面を新しく作ってくれ』って」
「剣道の面に鼻が入らないからってこと?」
「そ。どうしても剣道大会に出たいらしいのよ。藤堂さんや
考人君と勝負がしたいんだって」
「かわいい所あるのね、天狗さんって」
「作るの大変だったのよ。鼻の低い天狗面。特注品だから」
「ふふ、でも千里さん、うれしそう」
「あら、そうかしら?」
「いいなぁ。どうして藤堂さん、振り向いてくれないのかなぁ」
「うろなのオトコ達はみんな大馬鹿なのよ」
「ほーんと、そう。あーあ」コツンと、道端の石を蹴る美里。
「自分からお願いしてみてもいいんじゃないかしら?名前のこと」
「うーん、なんとなく、踏み出す勇気が出ないんだけどなぁ」
美里の住んでいる所に到着し、二人は別れの挨拶を交わす。美里が、夜道に1人は危ないのではないかと心配したが、千里は心配には及ばないと言った。
「じゃあね、美里ちゃん。また」
「おやすみなさい、千里さん」
○ ○ ○
千里は歩く。街灯に照らされた路地を。
たまに、思いついたように電信柱の陰を踏んで歩いてみたりする。
「あら、平太郎」住宅街の角で、天狗面をつけた平太郎と出くわした。
「今は天狗仮面である。町の見回りをしていたら姿が見えたものでな。
今日は楽しかったようであるな」
「ええ、とっても。面白いわ。人間も、平太郎も」
「天狗仮面、だ」
「いいじゃない。私を迎えに来てくれたんでしょう?
町のためじゃないのなら、今の貴方は平太郎よ」
「見回り中にたまたま見かけただけだと言っているではないか」
「次郎ちゃんも持たずに見回り?」
平太郎が一瞬固まり、バツが悪そうにそっぽを向いた。
「ふふ、ほんと、バカねぇ。さ、帰りましょ、平太郎」
「…うむ」
二人は月明かりの下、アパートへと向かって歩き出した。二人の妖怪は今日もうろな町でそれぞれ自分らしく生きているようである。
とにあさんの鎮くん、戸津先生、宇美ちゃん、隼子ちゃん
綺羅ケンイチさんの藤堂さん、美里ちゃん
お借りしました!キャラ崩壊、訂正などあればご連絡ください!




