8.敵(ミシェル視点)
「セザール様が何をしたって言うのよ!」
負けじとお父様を睨み返していると、重役の一人が口を挟んできた。
「アデラ・スィールとの契約を断ったばかりか、彼女の商品を侮辱した」
「あんたには聞いてないわ!」
「いや、彼の言う通りだ」
険しい表情でお父様が肯定する。
はぁ? 意味が分かんない。
「宝石商をたった一人敵に回したくらいで、どうなるって言うの? むしろガラクタを売り付けようとしたその女の立場が悪くなるだけじゃない」
私は鼻を鳴らして言ってやった。
人間の手で作られた宝石なんて、ただのガラス玉みたいなものよ。
途方もない時間をかけて、作り出された本物に敵うはずがない。
「……これを見なさい」
お父様は少し黙り込んでいたかと思うと、一枚の羊皮紙を私に差し出す。
コリューダ公爵、ベリエ公爵、クロロリス侯爵……この国の名だたる貴族の名が記されている。クンツラー伯爵家……あ、エルマの婚約者の家ね。
「彼らは、アデラのパトロンとなっている家だ」
「……え?」
「人工宝石は芸術品の一種として、貴族からも高い評価を受けている。人間が生み出した奇跡としてな」
「そ、そんな趣味のわる……」
「口を慎め、馬鹿者!」
お父様は私の言葉を遮ると、額に浮かんだ汗をハンカチで拭ってから話を続けた。
「よいか。アデラを愚弄することは、彼女と契約している貴族を敵に回すことを意味するのだ。にも拘わらず、あやつは……」
「それってかなりヤバいじゃない! どうしてセザール様にそのことを教えておかなかったの!?」
そしたら、セザール様だってアデラを馬鹿にしなかったのに!
「そのぐらい、調べていると思っていたのだ!」
「で、でも、そのアデラって女、とんでもないわ。自分の商品が馬鹿にされたって、貴族たちに泣き付いたってことでしょ?」
「……いや、彼女は誰にも話していない」
「じゃあ、誰が……」
「それもセザールだ」
私の問いかけに、お父様は遠い目をしながら答える。
「あやつめ、エルマにアデラの不満を語っていたらしい。それをエルマがクンツラー伯爵家の人間たちに言い触らしていたようだな」
「…………っ!」
「そこから貴族たちに広まったのだろう。コリューダ公爵からは抗議文も届いている」
テーブルには一通の手紙が置かれていた。
もしかしてこれが……?
私がじっと見ていると、重役の一人が「お読みになりますか?」と聞いてきた。
こんなの怖くて読めるわけがないじゃない! コリューダ公爵って王族の血を引く家よ!?
というか、もしかして王族の耳にも入ってるんじゃないの……!?




