4.帰国
帰国すると、すぐさま会長に呼び出された。
私がリディアたちを探していたことがバレたのか?
未練があると勘違いされては困る。言い訳を考えながら、彼の部屋へ向かう。
しかし私の不安は杞憂に終わった。
「君にはとある宝石商との商談を任せたい」
「私にですか?」
「うむ。アデラ・スィールという女性だ。君の祖国を中心に活動している」
名前だけなら聞いたことがある。
いくつもの商会と契約を結んでいる敏腕商人だ。
彼女が取り扱う宝石は、貴族や王族のみならず平民からの人気も高いという。
「うちでも宝石類は販売しているが、顧客の多くは貴族などの富裕層だ。しかし私は、客層を広げたいと考えているのだよ。……頼んだぞ、セザール」
「はい。私にお任せください!」
アデラとの契約を獲得出来れば、大きな利益となるだろう。
そう考えると、俄然やる気が出てくる。
私は鼻歌を歌いながら自室に戻った。
「あら、セザール様。随分とご機嫌ね」
昼間からワインを飲んでいたミシェルが、私を出迎えた。
「会長からある商談を任されたんだ」
「ほんと? 頑張ってね、応援してるわ」
「ありがとう」
差し出されたグラスを受け取ると、赤紫のワインがとくとくと注がれていく。香りを楽しんでから口に含むと、濃厚な風味が舌の上に広がった。
「エルマはまた彼の元かい?」
「ええ。今日はあちらに泊まるそうよ」
現在十歳となる娘には、既に婚約者がいる。
相手は、とある伯爵家の次男だ。将来は婿養子になることが決まっており、当人たちの仲も良好である。
「……ねえ。久しぶりに今夜、どう?」
ミシェルが目を細めながら、豊かな胸部を私に押し付けてくる。
出会ってから十年以上経つが、未だに妻の美しさは衰える気配がない。
私はごくり……と唾を飲み込み、ミシェルをソファーに押し倒した。
「んもう。今夜って言ってるじゃない」
「待てないんだ。……ダメかい?」
「ふふ。仕方ないわねぇ」
豊満な肉体を思う存分貪る。ああ、私は幸せ者だ。
そしてアデラとの商談当日。私はルシマール家の応接室で、彼女の到着を待ちわびていた。
噂によると、かなりの美人と聞く。早く顔が見たくて心を弾ませていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「セザール様。アデラ様がお見えになりました」
「ああ。通してくれ」
そう指示すると、「失礼します」とメイドがドアを開けた。
そして一人の女性が静かに入ってくる。
「…………え?」
呆けた声を出しながら、自分の目を擦る。
幻覚を見ているかと思ったのだ。
どうして君がここに……
「初めまして、セザール様。アデラ・スィールと申します」
かつての妻は柔和な笑みを浮かべ、恭しく腰を折った。




