17.愛は全てを解決しない
あの後、私はセレナを襲った暴漢として、警察へ連行された。
勿論、何度も自分はセレナの父親だと主張した。
「私は父親として娘を躾けようとしただけだ! 逮捕される謂れはない!」
「ですが、あなたは十年前に彼女を捨てて、亡命されたのですよね? 今更父親と名乗る資格はないと思いますが」
「う……」
「それに、大声を出したのを注意するのであれば、口頭でも出来たでしょう? あなたがやろうとしたことは、れっきとした暴力ですよ」
私はセレナの父親として認められず、檻の中で服役することになった。
あくまで未遂なので、罪状は軽いはずだ。そんな私の考えは甘かった。
何と数十年も服役することになったのだ。
「そんな……どうして……」
「公爵子息の奥方を殴ろうとしたんだ。それに高位貴族から、お前の厳罰を望む声が相次いだんだ」
愕然とする私に、看守が冷めた口調で言い放つ。
「司法が貴族の声に耳を傾けて、刑罰を重くしたのか? そんなこと、許されるはずが……」
「お前のような人間を野放しにしてはいけないと、裁判所も判断したのさ。それだけの話だよ」
それじゃあ、私がこの世界にとって不要な存在みたいじゃないか……
私が薄汚い檻の中で暮らすようになり、どれほどの月日が経っただろう。
ミシェルから手紙が届いた。
口では私を罵っていたが、心の底では私を案じていたのだろう。嬉々としながら、便箋を開く。
しかしそこに綴られていたのは、私を案じる言葉ではなく、穢らわしい呪いの言葉だった。
ルシマール商会は潰れたらしい。
私のことで高位貴族を敵に回しただけでなく、私の戸籍を偽造したことが明るみに出て、会長が逮捕されたのだという。
『あんたのせいよ! あんたが私の家をめちゃくちゃにしたのよ! あんたの帰りを待っているわ、セザール! あんたが出てきたら、絶対に殺してやる!!』
手紙の最後はそう締め括られていた。
どうしてミシェルは、全て私のせいにしているんだ。私をデセルバート家から連れ出した君にだって、非はあるはずなのに。
手紙と言えば、もう一通届いた。
かつて蹴落とした兄からだ。平民となって野垂れ死んだかと思っていたが、現在はリディアと夫婦となり、人工宝石の販売を行っているらしい。
その事実に目眩を起こしながらも、最後まで読み進める。
『十年前、お前はどうして逃げ出したんだ?』
そんな問いが綴られていた。
決まっている。平民となった兄と違い、私は様々な重圧に苦しめられていた。
だから生まれて初めて見付けた『愛』に光を見出し、新たな人生を歩もうと思ったんだ。
そうすれば、何もかもが上手くいくと信じていた。いや、実際そうだった。
だが、それは私の思い込みだったんだな。
愛は何も解決してくれなかった。
ありがとうございました。




