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愛は全てを解決しない  作者: 火野村志紀
13/17

13.崩壊寸前

「エルマ! あんたのせいよ!」


 鬼のような形相で娘の頬に平手打ちをしたので、私はぎょっと目を見開いた。床に崩れたエルマも赤くなった頬を押さえて、呆然としている。


「ど、どうしたんだ、ミシェル……」


 会長を説得しに行ってくれたんじゃないのか? 戻ってくるなり、エルマを呼びつけて暴力を振るうなんて……。


「あんたのせいでもあるのよ! この……バカ男!」

「バ、バカ男!? 私は君の夫だぞ!?」突然罵倒される謂れはない。大体、会長はどうしたんだ? 私を補佐に戻してくれるのか?」

「それどころじゃないわよ! あんた、何てことをしてくれたの!?」


 激しい剣幕で捲し立てられ、私は魚のように口をパクパクと開いた。

 様子がおかしい。いつものミシェルではない。もしかして、会長に何か吹き込まれたのか!?


「自分が何を仕出かしたのか、教えてあげるわ! どうせ自分で調べないでしょ!」


 失礼な前置きをして、ミシェルは語り始めた。

 私がやらかしたという愚行の数々を。


「なっ……」


 それを聞いて、私は言葉を失う。

 高位貴族がリディアと契約を結んでいる? その中に、クンツラー伯爵家も含まれていただと!?

 私はエルマに目をやった。が、向こうも私を拗ねたような表情で睨み付けている。


「私は悪くないもん。私、内緒にしてなさいって言われてないもんね」

「この……っ!」

「てゆーか、どうすんの!? パパのせいでフランシス様に嫌われちゃったのよ!? 最近遊びに行っても、すぐに追い返されちゃうの!」

「嫌われてるのは前からだ!」

「へ?」妻によく似た幼い顔が、不思議そうに目を丸くしている。

「お前、伯爵家で我が儘ばかり言っていたそうじゃないか! 手に負えないから、婚約を解消してくれと申し出があったくらいだ!」


 それを私たちが頭を下げて、どうにか回避したのだ。結婚して子息を婿養子として迎え入れれば、エルマが向こうの屋敷に行く機会も少なくなるから、と。


「ち、違うもん! 我が儘なんて言ってないもん!」

「人のせいにするな!」

「あああああっ! うるさいわねっ! あんたたち、ちょっと黙っててよ!」


 ミシェルの怒鳴り声が、室内に響き渡る。


「あんたたちが余計なことをしたせいで、商会は潰されるかもしれないの! そしたら、もう贅沢も出来なくなるの! 分かった!?」

「え……やだやだやだ! 貧乏になりたくない! お母さん、何とかしてよ!」懇願するエルマの目には、涙が浮かんでいた。

「無茶を言うんじゃないわよ!」


 金切り声ではねつけると、ミシェルは棚に飾られていたワインボトルを手に取った。


「おい、飲んでいる場合じゃ……」

「飲まないとやってらんないの!」


 瓶に直接口をつけて飲み始める妻を、私は呆然と見詰めていた。口元から零れたワインが、ドレスを赤く汚している。


 私の行いのせいで、ルシマール商会が滅びようとしている。

 その事実に頭を抱えていると、硬い表情をした執事が部屋にやって来た。



「コリューダ公爵から新たな書状が届きました。『アデラに謝罪するように。そうすれば、この件を水に流す』とのことです」


 何故コリューダ公爵がここまでしゃしゃり出るんだ?

 もしかしてリディアは公爵の愛人なのか?

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