11.十年前③(リディア視点)
ライネス様は、私が男爵家に嫁ぐ少し前にデセルバート家を追放された。
実父である先代男爵の怒りを買ったのだ。けれど使用人たちの話を聞く限り、彼に非があるようには思えない。
妻を病で亡くしていた先代は、その寂しさを埋めるように未婚の女性たちと関係を持っていた。貴族令嬢の時もあれば、平民の女性の時もあった。
そして彼女たちの機嫌取りに、ドレスやアクセサリーを買い与えていたのだ。男爵家が財政難になれば、徴収税を引き上げればいい。その程度にしか思っていなかった。
それを諫めたのがライネス様だった。民を何だと思っているのかと、怒りをぶつけたらしい。
「親に向かって何だ、その口の利き方は! お前に私の苦しみなど理解出来るか!」
先代は聞く耳を持たず、ライネス様を男爵家から追い出した。
兄がいなくなれば自分が家督を継ぐことになると考えたのか、セザール様は止めようとしなかった。それどころか、「兄は父を見下している」、「男爵家を私物化しようとしている」などと先代に吹き込んだという。
その甲斐あって先代が病死した後、セザール様は当主になれた。
それでも当然だが、ライネス様は使用人から慕われていた。なので時折、先代やセザール様の目を盗んで屋敷を訪れ、男爵家を再建する方法を考えていた。「不可能ならいっそ、爵位を返上した方が」そう提案したのも彼だった。
私とセレナとも、その時に顔を合わせた。派手な容姿のセザール様と違い、平凡な顔立ちの男性だったが、温厚で優しい人だった。
しかし仕事の関係で辺境の地へ行くことになり、それっきりだった。
「そうですか。弟が……」
事情を説明すると、ライネス様はどこか悟ったような表情で深い溜め息をついた。彼もこうなることは予想していたのだろう。
「ですが、まさかこのような形で再びお会いするとは思いませんでした」
「そういえば私が商家の生まれだと、お話ししていませんでしたわね」
二人で紅茶を飲んで笑い合う。こんな風に男性とリラックスして会話をするのは久しぶりだった。
ライネス様は職人職に就いていたが、生計が立てられなくなり、うちに就職したのだという。
「だけど今でも時間の合間を縫って、作品は作り続けています。はは。いつまでも自分のやりたいことをやり続けているなんて、父のことを悪く言えませんね」
「ちなみに何をお作りになっていますの?」
「笑わないでくださいますか?」「はい」私は即答する。
「……こちらです」
少し間を置いて、ライネス様が躊躇いがちに私にある物を見せる。
美しい輝きを放つダイヤモンド。いや、人の手で作られたダイヤモンドだった。




