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書籍発売中❀ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します  作者: 秘翠 ミツキ


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二十一話


 最近またエーファと食事をする様になった。彼女は日々目覚ましい成長を遂げていると実感する。昨夜、二ヶ月程前まで苦戦していた魚のムニエルも難なく骨を取り除き綺麗に食していた。もうテーブルマナーに感じてマンフレットが口を出す事は何もない。本来ならば喜ぶべき所だが、レクスのお陰だと思うと複雑だ。


『マンフレット様、おはようございます』


『マンフレット様、こんにちは』

 

『マンフレット様、お休みなさいませ』


 相変わらず会話らしい会話はないが、朝昼晩と彼女から挨拶されるのは悪い気はしない。大分慣れたのかマンフレットに対しても笑顔を向けてくる事もある……悪くない。

 ただテーブルマナーを会得した後も、レクスがお節介な事にエーファに他の事柄を指導している。つい一昨日も何時もの如くマンフレットが扉の隙間からその様子を窺い見ると彼女は実に愉しそうにレクスとダンスの練習をしていた。思い出すだけで腹立たしい。

 そんな事を考え苛々としながらマンフレットが廊下を歩いていると前方に白い塊が現れた。右往左往しながら廊下を徘徊している。


(一体何をしているんだ)


 猫は好かない。昔弟が欲しがり飼い出した猫に酷い目に遭わされてから苦手になった。未だに生家で飼われているが、小憎らしくて仕方がない。しかも弟は直ぐに飽きてしまい猫の世話を放り出し使用人に丸投げした。


 にゃぁ……。


 暫し物思いに更けている間に、何時の間にか白い塊がマンフレットの足元付近まで近付いていた。


「……」


 にゃあ~にゃぁ~にゃ~。


 マンフレットは見なかった事にして踵を返すが、余りにもにゃーにゃー煩いのでつい見てしまった。すると目が合った。不安気にしながらエメラルド色の大きな瞳で何かを訴えかけてくる。


「……エーファはどうした?」


 にゃぁ……。


「まさか、迷子じゃないだろうな」


 にゃぉ。


「知らん。迷子になるくらいなら主人の側を離れるな。自己責任だ」


 にゃ……。


 耳を垂れ下がらせ瞳がウルウルと揺れてまるで泣いている様に見える。瞬間エーファの事を思い出し大きな溜息を吐いた。


「ついて来い」


 にゃ!


 マンフレットがそう声を掛けると白い塊は垂れていた耳を真っ直ぐ立たせ急に元気を取り戻した。全く現金な奴だと鼻を鳴らす。


 適当な使用人を捕まえてエーファの居場所を聞き出すと、どうやら中庭に居るらしい。マンフレットは中庭へと足を向ける。後ろから白い塊がトコトコとくっ付いてくる様子に使用人から笑われた気がした。



「エメ! 何処に行ってたの?」


 にゃあ~‼︎


 中庭に着くと白い塊はマンフレットを追い越し一気に駆け出した。振り返った彼女の脚にしがみ付く。


「マンフレット様が連れて来て下さったんですか」

「……廊下で彷徨(うろつ)いていたソレが勝手に私の後を付いて来ただけだ」

「そうなんですね。エメ、マンフレット様にちゃんとお礼を言わないとダメよ」


 にゃ! にゃあ!


 エーファは白い塊を抱き上げるとマンフレットへと差し出した。すると白い塊は、まるで理解しているかの様にマンフレットへと鳴いた。


「それで、君は一体何をしているんだ」


 良く見ると彼女の全身は土塗れだ。なんなら顔まで土で汚れている。


「実は、ニンジン畑を作っていたんです」

「は? ニンジン畑、だと……」


 その言葉に恐る恐るエーファの背後へと視線を移す。すると中庭の一角が小さな畑へと変貌を遂げていた。


「まだ種を蒔いたばかりなので収穫は先ですが、これで何時でも新鮮なニンジンが食べれますよ」

「……」

「マンフレット様?」


 彼女が呼びかけてくるが返答が出来ない。気が遠くなる。気分が悪くなり……気が付いたら自室のベッドで横になっていた。


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