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ひとしきり泣いてしまうと、不思議と心が落ち着いた。

涙腺が壊れたみたいに、泣いたというのに。


涙には、いくつかの種類があるような気がする。

悪夢の後の涙は苦しくて、まぶたも腫れてしまうのに。

今日の涙は流れていくほど気持ちが軽くなり、すっきりとした。

ただ…。


「…のど渇いた。」


いつもだったら佐藤くんの台詞を、今日は私が口にした。

本当はこのまま佐藤くんの首に抱きついていたかったけど、抱きつかれている佐藤くんの体勢が少しキツそうだったから。


「ちょっと待っててね。」


泣き過ぎて少し熱を持った私の頬。

佐藤くんの体が離れる。

瞬間。

佐藤くんの唇が触れた。

ふわっと柔らかくて、少しだけ冷たい。


『あぁ。やっぱりこの人が好きだ。』


なんて。

思ってしまう自分が恥ずかしい。



ソファに座りなおし、部屋の中をみまわす。

やっぱりモデルルームみたい。

木製のダークブラウンのテレビ台、横にはお揃いのチェスト。

チェストの上には少しばかりの雑貨。

木製フレームのフォトスタンドには写真は入っていない。

オブジェと一緒に装飾品として置かれている。


「おまたせ〜。」


白木のトレイを持って佐藤くんが部屋に入ってきた。

トレイの上には氷の入ったグラスが2つ。

赤いキャップのペットボトルはいつものコーラ。

もうひとつのペットボトルは青いキャップ。

自販機でいつもコーラの横に並んでいる清涼飲料水。


「何で?」

「だって、コーラ飲めないでしょ?水だとカロリーないじゃん。これは風邪引いたときに飲むし、なんとなく体に優しそうだから。本当は、トマトジュースでも飲ませたいくらいなんだからね!」


そう言ってグラスに注いでくれた。

清涼飲料水。

なんて的確なネーミング。

一気に飲み干すと、体に吸収されていくのがなんとなくイメージできるような…。


「あ。なんで、トマトジュース?」

そんなの普段から飲まないんだけど。

「…貧血でしょ。さっき倒れてたのも。」


トマトって鉄分だっけ?もしかして吸血鬼のイメージ?


「のんちゃん。」

「何?」


「次からは玄関から来てね。」


あ。そういえば私、不法侵入…。


「通報されなくてよかったね。あんな所で倒れてるなんて、本当にびっくりしたよ!」

「…ごめんなさい…。」


確かに、あそこで警察呼ばれてたら…。

佐藤くんに迷惑かけるとこだった。


「もういいよ。それより、せっかく2人っきりになれたんだから…。」


「なに!?」


「この家の話をしようか…。」


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