24
秋風が吹いていた。
少し肌寒い。
足元の落ち葉がカサカサと乾いた音を立てた。
不思議と、私の足取りは軽かった。
もう2度と合うこともないと、決め付けていたのに。
踏みつけた落ち葉がクシャクシャと音を立てる。
私は小西さんに言われたとおり、佐藤くんのうちに連絡もせず向かっている。
アポなしなんて、携帯を持つようになってから初めてだと思う。
子供の頃は、携帯なんてなかったから家に行くまで会えるかどうかわからなかった。
その頃の気分だ。
お腹が出てなくてよかった。
お腹が目立っていたなら、佐藤くんの両親がいたら変に思うだろうから。
佐藤くんの家はいわゆる住宅地にある。
駅からバスに乗り、(いかにも新興住宅地にありそうな名前の)バス停で降りる。
そこからはなだらかな下り坂。
真ん中に車道。
両脇に並木道の歩道と住宅。
和風の一戸建てや、かわいらしい輸入住宅。
何故かローマ字の表札。
小さな門には見られることを意識した雑貨が飾ってあったり、小さな庭にはガーデニング。
『家は幸せですから』ってオーラが見えそう。
マイホームってかんじ。
記憶をたよりに佐藤くんの家を探す。
ここじゃ白い家なんて、目印にならない。
クシャクシャと落ち葉を踏みながら歩く。
「あ。」
佐藤の表札。
「違うよなぁ〜。」
玄関には三輪車。
赤くておしゃれで、輸入品っぽいかんじ。
「ちょっと、あなた。」
「え?」
振り返ると、黒髪の女の人がいた。
「うちに何か用かしら?」
きちんとした身なりでメガネをかけている。
…やっかいだ。
「いや、あの。友達の家を探してて…。」
「あなた、どちらのお宅を探してらっしゃるの?」
疑われてる??
良く見るとおばさん。が、疑わしい目でこちらを見ている。
「佐藤って表札があったから…。わたし佐藤さんの家を探してるんです。」
疑われるとやっかいなので正直に答えた。
「佐藤さんの家?」
おばさんの目が光った。
「もしかしてあの佐藤さん。困るのよ〜。うち苗字が一緒でしょ?全然関係ないのに。どこでもいる苗字だからホント、時々変な人と親戚だとか思われちゃって。」
「あの…。あの佐藤さんって?」
「あら、違うの?一人暮らしの佐藤さんでしょ?あそこの大学いってる。」
おばさんは私たちが通っている大学の方を指差した。
「私、大学の同級生なので詳しいことはわからないんですけど。」
おばさんはペラペラとしゃべり始めた。
聞きもしない事までペラペラと。
この佐藤さんの言う佐藤家の話は、かなりプライベートな事だった。
身勝手な噂話。
もう、気分が悪い。
何故この人はこうも人の家の話を知らない私にしゃべるのだろう。
絶対、楽しんでいる。
身なりはきれいにしてても、なんて下品な人間なんだろう。
胸元に、上品ぶったブランドのロゴが付いたニットを着ている。
下品な人間ほど上品ぶるのかしら。
「もう、結構です。」
おばさんの話を途中で遮り、歩き出す。
佐藤家はもう少し先らしい。
クシャクシャと音を立てて歩く。
わざと落ち葉を踏みつけながら。
『…姉さん。
キレイだったあなたも、こんな風に下品な人間の話の種にされていたんだよ。
…悲しい?
姉さん。死ななくてもよかったんじゃないの?
どうせわがままだったんだから、そのままわがままの生きてればよかったじゃない。
私、姉さんとあんまり思い出がないよ。
普通の姉妹ってもっと仲良かったりケンカするんじゃない?
本当はもっと姉さんと話がしたかったのに…。』
並木道。
立ち並ぶ同じような家。
夕暮れで翳る空。
「陽ちゃん。」
ほとんど呼んだ事のない姉の名前。
口にするとなんだか切ない。
佐藤くんに会いたい…。




