正しい国の作り方 オアソビ 3
お遊びです。そこんとこよろしく。
我が敬愛する、セイラン・クムヤ・ハクオウ様は、怒っている。
どこをどう見ても微笑みの貴公子然とした佇まいの彼だが、確実に怒っている。
なぜなら、右の眉が時折ぴくりと動くから。
ハビシャム・エルレインは特製のお茶を点てると、茶器を一揃えにして、主の元へやって来た。
本来ならば侍女の仕事。しかしもっぱらハビシャムの仕事になっていた。
主の考え事を妨げることは極力排除せねばならないから。
女など、欲を吐き出せればいいだけの存在だから。
ただ邪魔の一言に尽きる。
だが、今現在、主の心を占めるのは、かの一風変わった巫女姫で。一応性別上には女である。
妙なイキモノとの認識だが。
そして、その巫女姫はと言うと…水の国の下位神殿にこもり切って、象徴になりつつあった。
おいこら。と言いたい。
早く彼女をそこから引きずり出さなければ、彼女の望むところとは異なり、なし崩し的に、リシャール王との婚姻が待っているはずなのだ。
水の国の双璧はやる。
確実にやる。
姑息な手段も、得意な輩だ。
既成事実を作り上げて、華燭の典などすぐにこじつけてしまうだろう。
あの、どこか抜けている巫女姫があれよあれよと、花嫁に祭り上げられる姿が眼に浮かび、ハビシャムはソレを打ち消した。
いけない。そんなことにはさせない。
かの稀なる巫女姫は我が王にこそふさわしいのだ。
我が君の隣にこそ、可憐で、清楚な、かの少女は輝きを増すのだから。
「ハビシャム。チヒロは私の本気を誤解していたのだと、そういったのだ。身体に刻み込んだつもりだったのだが、あの子は本当に、眼が離せない子だね」
「御意」
「どうしたら、私の本気が分かってくれるのかな?身体に教え込むだけじゃ、足りないんだ。言葉重ねて、心重ねたつもりだったのだが、なかなか、手ごわい巫女姫だ」
「御意」
「そう、だね…。やはり閉じ込めてしまおうか」
そう言って微笑みを深める主は、私の目から見ても、美しく、気高く、壮麗な…ただ一人の王。
主の本気を引き出した巫女姫をうらやましく感じる反面、可愛そうに、と思うハビシャムだった。
なぜなら、
けして逃げられないから。
逃げるなどありえないから。
百獣の王に、標的として照準を合わせられたのだから。
だから、ハビシャムは思うのだ。
ああ、姫。
…ご愁傷様です。
もご。もごごご。
もがが。んんんーんぐー。
んぐー。もごごごー。もが。
暴れる娘(縄でぐーるぐる)を、さも愛しげに見た我が王は、娘を、俵担ぎにして(王…なんかもう、ソレ娘の扱いじゃナイデスヨ。獲物なんですか?我が君)ゆったりと王城へ入っていった。
ぷはあっ!と盛大に息をついて涙目で娘が見上げた先には、我が君。
娘に、ことさら優しげなほほ笑みを向けるも、静かに忍び寄るは、威圧感。
王。
脅してます!脅して如何なさるのです!
アイコンタクトも、切って捨てられた。
…笑顔で。
怒ってる。怒ってるな。これ以上もなく!
娘。成仏しておくれ。
怯える娘が助けを求める視線をよこすが、ハビシャムはそっと、目を逸らした。
ひ。
ひいいいいィィィィっっ!!!
声が。
木の国自慢の城内に響き渡った。
ああ、きっと。
娘の腹に新しい命が宿るまで、我が君はきっと、娘を寝台から下ろさないのだろうな。
まあ、いい。
我が君が幸せなら。
娘の幸せは、自ずと後から付いてくる。…ハズだ。
もちろん。
微力ながら、このハビシャム。
誠心誠意、奥方様にお尽くしいたしますぞ!
さ。
娘…いや、妃殿下のお好きなハチミツとめーぷるしろっぷ味だと言う、ギギの樹液を使って、城の料理人に腕を振るってもらわねば。
子を生す為にも、精のある美味しいものを。
妃殿下のために。
我が君の幸せのために。
セイラン様の一人称だったら、もっと黒くてタダレテマス。
ハビシャム、セイラン様命だからなー。ちいちゃんがどうなろうが、セイラン良ければすべて良し!




