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鬼灯町の百鬼夜行◆祭  作者: 宵宮祀花
【伍ノ幕】 オニアソビ

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なくした帰路

 夕暮れの景色。見覚えのない田舎道。遠くに森が見え、目の前には田園風景。看板が分かれ道に立っているが、風化して文字が読めない。道路はかろうじて舗装されているものの、ひび割れが修復される様子もなく放置されていて、全体的に廃村めいている。

 背後を振り返ればどこまでも続く田んぼ道。果ては見えず、遠くに山が見えるだけ。前方には、二手に分かれた道が見える。どちらも森に向かっており、道の細さが僅かに違うだけで程度の差があるようには思えない。


「……ここは……? それに、わたしどうしてこんなところに……」


 直前までの記憶を思い出そうと試みる。

 確か桐斗と共に交番に鞄を届け、そのあと家まで送ってもらって、玄関先で別れた。それからいつも通りに夜を過ごして、そのあと―――


『―――もういいかい』


 窓の外から、子供の声が聞こえた。

 時刻は午後九時を回っていた。幼い子供が遊ぶにはあまりに不自然すぎる時間帯だ。それなのに、どこかに隠れている誰かがいると確信しているかのように、もう一度声がした。同じテンポ、同じ音程、同じ声で、まるで機械のように正確に再生された。

 男とも女ともつかない、幼い子供の声だ。それが二度、三度と繰り返される。何度も何度も繰り返しているのに、焦りや不安といった感情が全く感じられない、機械じみた平坦な声で。


「なに……? 誰が……」


 怖くなって、思わず呟いたときだった。


『見、い、つ、け、た』


 背後から声がしたと思ったら、意識が暗転した。


(ああ、そうだ……それで気付いたらこんなところに……答えたつもりじゃなかったんだけど、声を出すだけでもだめなんだ……)


 思い出したところでどうしようもない。見知らぬ風景にひとり佇んでいて、どうしてこうなったのかもわからないのだから。鬼ごっこをしていなくても引き込まれるなんて予想もしていなかったため、なぜ目をつけられたのかが全くわからない。

 ただ、この場に留まり続けることに意味があるとも思えない。


「仕方ない……一先ずものがありそうなほうに行こう……」


 千鶴は不安と恐怖を抑え込むように胸元で手を握り締め、分かれ道のうち比較的道が整っているほうへ足を進めた。


 道を進んでいくあいだも人の気配はなく、水の入った田んぼが並んでいるわりに蛙の鳴き声や鳥の声などもしない。千鶴の足音だけが唯一音の発生源となっているせいか、いやに響いて聞こえる気がした。大型の獣が出てきても死ぬしかないので静かなことはありがたいといえばありがたいのだが、ここが千鶴の想像通りの場所であるなら、先に迷い込んでいるはずの人の気配すらないのはおかしいのだ。


「小屋……? というか、納屋、かな……」


 暫く進むと開けた場所に出た。小さな泉が右手側にあり、正面奥に小屋がある。人が住んでいるようには見えず、どちらかというと農具などがしまってある倉庫のようだ。扉の横には格子窓があり、千鶴の背丈でも背伸びをすればどうにか覗けそうだった。


(人はいなくても、なにか、手がかりがあれば……)


 壁際に近寄って、耳を澄ませてみる。相変わらず人の気配も物音もしない。

 思い切って窓枠に手をかけ、背伸びをして覗いてみた。


「あれは……」


 部屋の隅に、この風景の中で浮いているものを見つけ、千鶴は背伸びをやめて扉へと近付いた。そっと手をかけてみると、鍵の類はかかっていないようだ。慎重に扉を横に引きつつ、薄く開いたところから改めて慎重に覗いてみる。


「やっぱり、ここにあの人来たんだ……」


 引き戸を開け、体を中に滑り込ませてから、また慎重に閉じる。誰もいないとはいえいつ自分をここに引き込んだ元凶と遭遇するかわからないのだ。

 近付いてみると、それは影踏みをしようと話していたうちの一人、派手な装いの女子生徒が手首に巻いていたシュシュのチャームだった。鮮やかなピンクと紫の生地に金のチェーンが巻かれたそれにはいくつかハートやハイビスカスのチャームがついていた。彼女が延々話しているあいだ目の前で揺れていたため、記憶に焼き付いていたのだ。


「お花だけ……シュシュと、つけてた本人はどこだろう……?」


 辺りを見回してもそれらしいものは落ちていない。その代わり、自分のものではない足跡がここへ入ってくる向きのものと出て行く向きのものがあることに気付いた。その足跡を追って扉を開け、外の地面を見てみると、来た道を引き返す形でついている。


「こっちの道は小屋だけだったし、この先はだいぶ森が深くなってるし……あの人も、もう一つの道に行ったのかな」


 小屋には朽ちた農具と破れた布などのガラクタしかない。体を休めるような場所でもないため、千鶴は小屋の外へと踏みだした。


 ―――そこで、目が覚めた。


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