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第七十七話 羽化登仙の誓い

○6月16日日曜日午後1時、緑山ダンジョン6階層○


 6階層のスタート地点。

 心地いい風が吹き、目の前には緑豊かな草原地帯が広がっている。


「なあみんな、それじゃあ俺は一人で7階層のボスの手前までお膳立てに行ってくるから、みんなは昨日同様自由に活動しててくれ。」


 なんかこういうフィールド型ダンジョンだと、各自が分散して活動したほうが効率が良い気がするなぁ。

 それぞれスタイルというか目指す方向性が違うんだし、各々目的にあった場所で活動。

 その結果として昨日はみんなの成果も上々だったみたいだしな。

 よし、帰ったらみんなにこの提案をしてみよう。


「ちょっと賢斗君。行っちゃう前にスキル共有しておきましょ。

 今日はまだハイテンションタイムをやってないし。」


「あっ、そうだったっすね。」


 とスキル共有を済ませると・・・


「ああ、あとその辺の草むらにも魔物の反応があるから注意して。

 それと今日も小太郎は円ちゃんに任すから。」


「おっけ~。」


「はいはい。」


「承知しました。」


 にしても見通しも良くとても穏やか、探索し易い階層に思えるのだが・・・

 何であの巨木が見当たらないんだぁ?


 スッ


「じゃあ今回はみんな、どうしよっか?」


「私はまた転移するよぉ~。」


「私は今回、解析スキルの取得を目指してみようかと。

 聞けば私のスキルは敵のレベルの見極めが非常に重要との事ですから。」


「あら円、それは良いわね。

 取得できたらスリーサイズが分かるのかどうか教えて頂戴。

 円もこの間、私が「スリーサイズが見えるの?」って賢斗君に質問した時のあの態度を見たでしょ?

 あれは絶対黒よ。

 ここは動かぬ証拠を掴んでおかないとね。」


「うふっ、承知しました。でもかおるさんも御自身で取得してみては如何ですか?」


「あっ、それも良いわねぇ、解析スキルって結構鑑定士の間でも憧れらしいし。

 それに今度は逆に私がこっそり賢斗君のステータスを拝んじゃうなんてことも出来るしねぇ。」


「あっ、それは名案です、かおるさん。」


「でしょ。」


「あっ、じゃあ私もそれにするぅ~。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、中央高原○


 う~ん、ここがこのフロアで一番の高台なんだが・・・

 ありませんなぁ・・・巨木の巨の字も。


 しかしまあお誂え向きに、牛型の魔物の群れはあっちこっちに幾つかお見えになる。

 となれば、このフロアの全体把握も兼ねて、あいつ等相手にハイテンションタイムの消化と行きますか。


 ドキドキジェット、発動っ!


 少年は100mほど向こうに群れなすワイルドバッファローへと駆け出す。


シュタシュタシュタシュタ


 先ずは通常攻撃で様子を見るか・・・


ビリィィィ・・・

シュピーン、シュピーン、シュピーン、シュピーン・・・


 全ての個体を切り付けながら稲妻ダッシュで駆け抜けると、音速ダッシュで距離を取る。

 そしてその駆け抜けた後には、消失していく牛型の魔物達。


『ピロリン。スキル『小剣』を取得しました。』


 おっ、ビックリ・・・そういや今俺の武器、ショートソードだったな。

 短剣系の特技を使う機会も無かったから、特に意識してなかったけど。


 そして武器スキルの効果が無かったにもかかわらず、レベル8の7個体全てを一撃で屠れたのは、恐らく武器性能が上がったお蔭ってところか。

 ATKが4つも上がってたし、何か電撃の付加攻撃までされてたからな。


 まあそれはさておき、通常攻撃における耐久度の低下は・・・108/110、ふむふむ、意外と経済的。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、スタート地点付近○


「ファイアーストーム・アンリミテッドッ・トリプルッ!」


ボォファボォファボォファボォファ・・・・


 少女の手から大きな火嵐が巻き起こると、その火嵐はグルグルと移動し、周囲一帯の草むらを燃やし尽くした。


「終わったよぉ~。」


「ありがと、桜。助かったわ。」


 こうしておけば視界も利くし、飛び出して来た魔物の対処だけで済む。

 私の索敵でも敵の気配は感じているけれど、一々全部倒しに行ってたら切りが無さそうなのよねぇ。


テケテケテケテケ・・・


「かおるさ~ん、桜ぁ~、なんの魔物か分かりませんが、魔石を3つほど手に入れましたよ。

 さっそくこれを使って解析スキルの取得と行きましょう。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、中央高原○


 それじゃあ、お次はソードモデル行っときますか。


「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」


ビリビリビリィー・・・ブォ~ン


 俺は次の群れへと走り出す。


シュタシュタシュタシュタ


 そりゃっ!


 ブォンブォンブォンブォン・・・バチバチィィィー


 俺が駆け抜けてみれば・・・6体の牛型は消失を始めていた。


バチンッ


 ふむ・・・6回持ったな。

 これってつまり・・・ショートソードとなり、サンダーボールで補ってる部分が減って、消耗が少なくなったという解釈で良いのか?

 まあ変化点と言えばそれくらいしか思い浮かばないけど。


 んで、ショートソードの耐久度はっと・・・90/110。


 ふむ、18も減ったか。

 って事は一撃辺り3減少・・・一気に消耗が激しくなったな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、スタート地点付近○


 魔石を目の前に掲げ、それをひとしきり眺めていた3人の少女達。

 そして互いに視線を交わすとコクリと頷き、口々に言う。


「見えたわね。」


「見えました。」


「見えちゃってるぅ~。」


「「「体重までっ。」」」


 その事実に少女達は怒りをメラメラと滾らせていく。


「尻尾は掴んだわよ、賢斗君。」


「賢斗さんにはお仕置きが必要です。」


「お仕置きってなにするのぉ~?。」


 とその時。


キランッ


 金色の光が一人の少女の胸元から飛び立つ。


キィィィ―――ン


 少女達に急接近していた豹型の魔物。


バコ―――ン


 子猫のオーラハンドがその魔物を横殴りに吹き飛ばした。

 驚きの中、魔物の消滅現象を見つめる少女達。

 一方金色の光は何食わぬ顔で彼女等の前に下り立つ。


「ちょっと油断し過ぎだにゃ~。」


「よっ、良くやりました、小太郎。褒めてあげます。」


「ありがとねぇ~。」


「助かったわ、小太郎、大金星よ。」


 それにしても今のは危なかったわねぇ。

 突然円の胸が光り出したからビックリしちゃったけど、あれは小太郎の羽化登仙だったのね。

 あっ、そうそう、羽化登仙と言えば・・・うふっ。

 もしあれがばれちゃったら賢斗君に本気で嫌われちゃうわねぇ~。

 これは絶対秘密にしておかないと・・・

 って、何かしら?この人の事言えない感。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、中央高原○


 よしっ、最後はあそこの3体の群れにしとくか。


「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」


ビリビリビリィー・・・ブォ~ン


シュタシュタシュタシュタ


 紫電一閃っ!


ブォン、バチバチ


バチンッ


 ちっ、こっちは一撃で消滅するのは変わってねぇのか?


シュタシュタ


「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」


ビリビリビリィー・・・ブォ~ン


 もう一ちょっ。


ブォン、バチバチ


バチンッ


 やっぱ一撃で消えちまうか。


シュタシュタ


「サンダーボール・アンリミテッド・ソードモデルッ。」


ビリビリビリィー・・・ブォ~ン


 最後っ、紫電一閃っ!


ピカッ・・・・・・・・・バチッ・・・バチバチバチッ・・・


 おっ、発動したっ。


『ピロリン。スキル『雷剣』がレベル3になりました。』


バチンッ


 そんでもって耐久度が・・・30/110。

 げっ、一気に60も減ってる。


 ・・・原因の本命はこれだったみたいだな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、スタート地点付近○


 子猫に窮地を救って貰った少女達は、その後再び怒りを再燃させていた。


「何かねぇ~、言う時は言わないとダメってお姉ちゃんが言ってたぁ~。」


「その通りです、桜。かおるさんも黙ってないでちゃんと考えて下さい。」


「あっ、うっ、うん・・・ねっ、ねぇ、ちょっと落ち着いて聞いてくれる?2人とも。

 きっとこの件に関して、私達は彼に何か言う資格は無いかなぁ~なんて、私は思うんだけど・・・」


「なっ、何でですかっ!かおるさん。これは乙女の一大事なんですよっ。」


「ぶぅ~ぶぅ~。かおるちゃん何でぇ~。」


「うっ、うん。2人とも多分これを聞けば、直ぐ納得すると思うんだけど・・・」


「そんな事有り得ませんよ、かおるさん。試に仰ってみて下さい。」


「そぉ~だよぉ~。絶対納得なんてしないよぉ~。」


「羽化登仙の誓い。」


「あっ・・・」


「・・・ゾウさん。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、フィールドエンドの断崖○


 ハイテンションタイムを終えると、ようやくこのフィールドフロアの巨木の位置が掴めた。

 まさかこのスタート地点から最も遠いフィールドの端が断崖になっていたとは。


 フィールドエンドの断崖を見下ろすと、断崖の底から巨木が生え、まるでその姿を隠すためにこの断崖が出来ているかの様。


 よっと。


ガサガサァー


 俺は巨木の天辺に飛び移ると、そのまま下へと降りて行く。

 そしてほどなくその巨木の根元まで辿り着くと・・・


 あったあった・・・ふぅ、ようやく最下層への入り口発見だな。


 根元の洞に入ると、また似た様な螺旋階段、そこを軽快な足取りで下りて行った。


シュタシュタシュタシュタ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン7階層○


 最深7階層に下りると、まるで日が沈んだ直後の様な暗さ。

 天井を見れば高さを推し測ることも出来ず、脳内マップでもこのフロア全体の広さはちょっと窺い知れない程の巨大空間。


 見渡せば十数mにも及ぶ岩山があちこちにそそり立ち、岩肌は黒色、また隆起した断層部にはかつての堆積層が垣間見られ、赤褐色また青白い光を放つ。

 草木等全く生えておらず、どこか陰鬱な雰囲気に包まれた岩盤地帯。


 がしかし、探し物は直ぐに見つかる。


 それ程遠くない一際大きな岩山の頂上、そこにはこの空間で唯一、目の覚めるような緑豊かな巨木が一本。

 そしてそれを守るかのように、手前の3つの岩山の上に、大きな黒い影が三つ。


 ふっ、レベル13のカラス3羽がこのダンジョンのラスボスって訳ね。


スッ


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○緑山ダンジョン6階層、スタート地点付近○


 単独行動していた少年が、少女達の元に戻ってきた。


「お~い、みんなぁ~、7階層のボスの手前まで行って来たぞぉ~。」


 すると少女たちは慈愛に満ちた表情で彼を迎える。


「お帰りなさい、賢斗君。大変だったでしょう?」


「大変お疲れ様でした、賢斗さん。ささ、少しお休みになってください。」


「ここに寝っころがるぅ~?」


「いっ、いや大丈夫、そんなに疲れてないから。」


 何この怪しさ満点の優しい態度・・・これは新手の状態異常だろうか?


「あっ、そうだ、賢斗君。私達みんな、今回解析スキルの取得に成功したのよ。

 円の特技には、敵のレベル確認が必要不可欠になるでしょ?

 そのついでに私達も。」


ニコッ


 おおっ、そりゃ良いな。

 みんなが解析できれば、敵の見極めも可能。

 夫々の単独行動時の安全性がより向上するだろう。

 もしかしたら、みんなも俺同様、今後のパーティー活動の在るべき姿を考え、自発的に解析スキルを取ってくれたのかもしれない。

 ハハ、俺が提案するまでも無かったな・・・


 ってあれ・・・みんなが解析スキルを取得しただと?

 それってつまり、スリーサイズが見えることも完全にばれちゃってるって事だよな。


 ・・・ゴクリ。


「あっ、ああ、そう・・・なんだ。」


 う~ん、不味い。

 いやもう手遅れか。

 逃げ道など最早残されていない訳だし、ここは素直に謝っとこう。


「みんな黙っててゴメン・・・あっ、あのスリーサイズとかが分かるってのはさぁ・・・」


「うふっ、賢斗君はそんな些細な事気にしなくて良いのよぉ~。

 今まで君の解析に随分助けられてきたんだし、これからもよろしくね。」


 何、この予想外のエンジェルモード・・・とっても気持ち悪い。


「えっ、それって?」


「だからぁ、賢斗君はこれまで通り、私達のステータスを好きに解析して下さいな。

 その代り、私達も君のステータスを解析させて貰うけどね。」


「いやそれは全然構わないけど・・・あのぉ、怒ってないの?」


「ぜ~んぜん。

 そりゃあスリーサイズや体重を見られるのって女の子として恥ずかしい事だけど・・・何でも笑って許し合えるのが、ホントのパーティーメンバーってものよぉ、うんうん。」


 あっ、そう?パーティーメンバーって凄ぇな。


「そうです、賢斗さん。遠慮なく円の全てをご覧ください。」


 そしてお嬢様まで実に寛容。


「賢斗だったら好きにして良いよぉ~。」


 まあ先生に関しては、この対応は予想の範囲だが。


 俺からすればここは怒られて当然。

 むしろ土下座のお時間かと思っていたんだが・・・う~ん、分からん。


 何、この意味不明な優しい世界。

次回、第七十八話 一新される武器達。

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― 新着の感想 ―
[一言] よしよし、判断を間違えなかったようだな あの件を棚上げするような外道女だったら流石に・・・ね 何事にも許容の限度・限界ってものがあるって訳で
[一言] どうしても表示されてしまう解析のスリーサイズと 羽化登仙の誓いの件…むしろより罪が重いほうは…!
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