第二百四話 ウサギさんですっ♪
○嘘か真実か その5○
後日、クローバーの執務室には鑑定士中川の下を訪ねた高校生達の姿。
「これなんですけどぉ、クラスメイトの多田君が鑑定士の中川さんに全て任せるのが一番だって」
少女の差し出した赤い石を訝しげに見つめる中川。
あらやだ、本物?
「はい、そして賢斗っち隊長曰く、中川様は超美人の切れ者鑑定士で普段からとても尊敬していると、ビシッ!これにて任務完了であります」
「あらそう、任務ご苦労様♪」
にしても今世界中の探索者達が探し求めているお宝がまさかこんな・・・
「あのぉ、買い取ってくれる人は見つかるでしょうか?」
「そうねぇ、その前に一つ言っておくけど多分この赤い石、貴方達が期待するような高値では売れないわよ」
「えっ?それってどういう・・・」
「確かにこれは今世界を賑わせているユウゴウガッタインの本物に間違いない。
でもこの石のレア度は珍しいと言ってもそれなりに発見される程度の星4相当。
これが何を意味するかと言えばこのユウゴウガッタインというアイテムはごく最近誕生した新アイテムで今後はそれなりの頻度で発見されてゆくということ。
現時点での希少価値はそれなりにあるけれどその価値は日に日に下がってゆくのは容易に想像がつくの。
そして寧ろこっちの方が致命的なんだけどこの貴方達が持ち込んだユウゴウガッタインに関しては使用期限が残り3日でしかも赤系統のスライム種にしか使えない。
そもそも乗り物系アイテム所持者以外無用の長物であるこのアイテムにこんなニッチな使用条件まであったら・・・
まあはっきり言ってしまうと現段階でのこのアイテムの商品価値は投げ売り上等もいいところまで来てるのよ」
「ハァ~、賢斗っちの言った通りっしょ~」
意気消沈の若者達。
最大でも一週間で只の石ころになるとか、普通のダンジョンショップなら買い取り拒否も十分あり得るレベル。
世界中の探索者達が店頭で崩れ落ちる姿が目に浮かぶようだわ。
で、自分じゃどうにもなりそうにないから彼はこの問題を私に押し付けてきたと・・・
まっ、うちの看板探索者の顔を潰すわけにもいかないか。
「でもまあ今回は特別に何とかしてあげても良いわよ。
そうねぇ、売却ボーダーは200万円くらいでどうかしら」
「「「「「えっ、200万円っ!!!!!」」」」」
「おおっ、これが多田の言ってた中川マジックって奴か」
「はい、賢斗っち隊長に至ってはあんなこと言ってましたしね」
まっ、俺だったら500円でも買わねぇけどな。フハハハハハッ!
あなたねぇ・・・
「で、どうするの?」
「「「「「はい、よろしくお願いしますっ!!!!!」」」」」
かくして一つの嘘に端を発したユウゴウガッタインフィーバーもその鑑定内容が知れ渡ると呆気なく沈静化。
しかしその後は各国研究機関や大企業等からの入手依頼が度々探索者協会等に舞い込むように、オークションでの目玉とまではいかないがそれなりの需要が担保され始めてゆくのだった。
ちなみにこれ等の依頼は名目上ユウゴウガッタインの効能研究とされているのだがその実あの多田賢斗が見せた超火力の再現を目的としていることは明らか。
そう遠くない未来、核爆弾の保有合戦にも似た事態が訪れてしまうのではと不安も募るところだが、まあ恐らくそんなことにはならないだろう。
なぜならスラ太郎という存在は今や唯一無二と言えるほどの超希少個体、普通のスライムが融合合体したからといってメタモルフォーゼやビーム砲を撃てるようにといったことにはならない。
またたとえそれが再現できたとしても瀕死からの超再生中に半裸の規格外少年をその体内に取り込む超常現象はそう簡単に起こらないのだから。
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○新たなギルドスタッフ○
9月は早くも第二週。
『~中山銀二氏今月結婚!からの電撃引退か?~
「これもケジメって奴です。
とはいえ個人的な活動はこれからも、要は今後基本的に外からの依頼は受けられないって話です(中山銀二氏)」』
探索者業界では中山銀二と斎藤雅の結婚のニュース。
またソードダンスとガンマニアのパーティー合併とその話題には事欠かない。
『~ソードダンスとガンマニア、パーティー合併でAランク昇格か?~
「情けない話ですがこうでもしねぇとすぐ置いてかれちまうんすよ、あのクソ生意気な後輩に(ソードダンスリーダー服部高貴)」
「まだ事務所同士の話し合いは終わってませんけど日本の聖地で活動を続けるにはこれが最善でした(ガンマニアリーダー樋口敏樹)」』
そんな中でも一際注目を集めているのがナイスキャッチの国際SSランク及び多田賢斗の個人国際Sランク昇格のビッグニュース。
ギルド内には昇格祝いの花々が飾られ、夏以降もその勢いの良さを感じさせている。
とはいえ夏休みが終われば落ち着くと予想していた来客数も未だ衰えず、この好調ぶりは他方で深刻なスタッフ不足を引き起こす。
アルバイトで急場を凌いでいた状況に見切りをつけこの度新たなギルドスタッフの採用に踏み切ったようである。
「今後も順次増員は考えているけれどとりあえず今日からはこの三人が一緒に働いてもらう我々の仲間になります。
じゃあ右から順番に紹介していくわね」
新人さんを入れるとは聞いてたが、まさかこんなところで再会するとは。
「一人目は一児の母、28歳、三杉あゆみさん。
三杉さんは調理師免許を持っているので主に喫茶コーナーのキッチンで頑張ってもらう予定です」
「どうぞ皆さん、これから宜しくお願いします。ニコッ」
パチパチパチパチ
この見覚えある女の人は少し前ギルドに来てたガキんちょのお母さんだ。
俺はてっきりこういう近所の若奥様達がパートで来てくれるだけの話かと思っていたんだが・・・
「二人目は皆も知ってると思うけど探索者アイドルの海上愛梨さん。
これまではお母様が社長を務める個人事務所で活動していたのだけれど諸事情でその事務所を畳むことに。
この度我がギルドクローバーに移籍してくれることになりました。
といっても探索者アイドルとしてだけでなく時間の空いた時には売店コーナーのお手伝いとか、まあ折角だし海上さんには他にも色々やってもらおうかと考えています」
「接客は初心者ですが精一杯頑張らせてもらいます」
パチパチパチパチ
そりゃ現役バリバリの探索者アイドルがネギ背負って来たらボス的には大歓迎だわな。
しかしどんな事情かあるにせよ普通嫌っとる男の居るギルドにわざわざ移籍してくるか?
とまあ色々不安も尽きないわけだが地味子ちゃんに関しちゃとりあえず様子見。
なんつっても今回の目玉はこの次だからな。
「続いての三人目はう~ん、えっとぉ・・・ウサギさんですっ♪」
これは珍しい、あのボスが盛大にキャピっとる。
(どうだスラ坊、当たりか?)
(はい、マスタァを校門までおんぶしてくれたウサギさんにそっくりです)
「キャラクターネームは後々決めるとしてこのウサギさんには試験的にうちのマスコットキャラクターとしてしばらく頑張ってもらうつもりです」
投げキッスで愛想を振り撒くウサギさん。
パチパチパチパチ
っておいおいこれはイカン、中の人には一切触れずにウサギさん紹介が終わっちまったぞ。
「ボス、意地悪しないで中の人も紹介してください。
同じギルドの仲間になるんだし、こういう時は中の人も紹介してくれるのが普通でしょ」
「確かに普通はそうかもしれないけれどこれは別に意地悪じゃないのよ、多田さん。
こういった着ぐるみキャラを扱う場合、中の人の情報はともすればキャラクターイメージの崩壊に繋がってしまう。
ギルド内であっても中の人を知る人間は極力少なくというのは貴方も理解できるでしょ。
ついうっかりというのは誰にでもあることだし誰を信用するしないの問題でもなく中の人を今ここで全員に紹介しないのは間違いを生まない為の環境づくりなのだと考えてください」
まあその方針自体に異を唱えるつもりはない、だがこちらにも退くに退けない事情というものが。
「いやでもですよ、ボス。
僕はこの間このウサギさんに危ないところを助けてもらったんです。
着ぐるみのままの命の恩人にお礼を言うというのも如何なものかなと」
「あらそんなことが、でも多田さんが助けられた時もこの着ぐるみのウサギさんだったんでしょ。
であればこのままお礼を言ってもいいじゃない、そこまで中の人にこだわる理由はないはずよ。
ほらウサギさん、この男の子が貴女にとっても感謝してるんだって」
ウサギさんはまあ♪のリアクション。
パチパチパチ
ダメだ、やっぱうちのボスと舌戦とか無謀が過ぎる。
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○幻のSランクダンジョン○
北緯30度43分17秒、東経128度04分00秒。
鹿児島県坊ノ岬沖230kmの海底にダンジョンが発見されたのは今から20数年前のこと。
「えっ、あの攻略不可能と云われる坊ノ岬沖ダンジョンの再調査ですか?」
隊員達の育成レベルも低く、所有する乗り物系アイテムもまだ今ほど充実していなかった時代。
ダイビングの訓練を受けた隊員達が調査に向かうも海中では強力な海棲魔物の大群、海上では幽霊船の大船団。
こんなムリゲーを三度繰り返したところで調査は続行不可能と判断、以降度々再調査の話は上がるものの現在までお蔵入り状態となっていた。
「ああ、先の一件大きな被害は回避できたが武蔵まで投入した我々の戦力不足もまた浮き彫りになったからな」
というより武蔵の存在を秘匿したまま運用できたことに味を占めたってところか。
「あそこのダンジョンに必ずや眠ると囁かれるかつて世界最大と云われた超弩級戦艦。
こいつを見つけることができれば我々の戦力は何処の国とも渡り合えるところまで跳ね上がる」
「ですが隊長、あそこは富士より危険、公表はまず無理ですが我が国で唯一の幻のSランクダンジョンとまで言われてるんですよ」
「なぁ~に、別に最終ターゲットを討伐しに行くわけじゃない。
目的はあくまで乗り物系オブジェクトの存在確認、勢い余ってキーアイテムまで発見できりゃあ万々歳ってところだよ」
実際武蔵に乗ってりゃ海棲の魔物なんざ相手にもならんだろう、まっ、幽霊船の方はちと厄介かもしれんがな。
ってことで仕方ねぇ、今回もあの野郎の手を借りるか。
「トゥルルル、おう銀二か、俺だ。
今回はお前の探索者魂に火をつけるとびっきり危険な指名依頼の話を持ってきてやったぞ。
内容はダンジョン調査の同行、場所は坊ノ岬沖、どうだ、ここまで言えばお前ならピンと来るだろ」
「あ~鉄っちゃんかぁ、結婚式の時はおおきに。
でも新婚さんにそないな危険な話持ってくるんは少し常識っちゅうもんを疑うで。
なぁあんたぁ、この話断るけど別にええよな?」
「あっ、いやみやちゃん、それはっ・・・うっ、うん」
ククッ、当分銀二の奴は使い物にならんか。
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○名画シリーズNO.3○
そんなこんなで学校生活も落ち着き、放課後30分ほどのダンジョン活動とそれ以外は概ね拠点部屋でのんびり、そんなナイスキャッチの日常もまた戻って来ていた。
テーブルに置かれた茜持参のたい焼きを口に運ぶ少年、またその傍らでは小さい少女が背伸びして壁に絵を掛けようとしていたり。
「どれ貸してみろ、手伝ってやる。
ガタガタッ、ふむ、何というか今回のはかなりの力作だな」
桜のヘタウマ絵日記も立派な額縁に入れると実は凄い絵みたいに見えてくる不思議。
「だって光ちゃんがさぁ、すっごい褒めてくるからさぁ」
まっ、小田桜が国際SSランク昇格記念に描いた絵となれば中身がどうあれ高値にはなりそうだしな。
「で、そんな桜画伯に一つ質問なんだが、この口から火を吹く世紀末魔王みたいな奴は俺じゃないよな?」
「えっ、あっ・・・そんなことあるわけないじゃんっ!」
口から火を吹く大怪人は咄嗟に嘘が口をついて出るほどの仕上がり。
「これはねぇ・・・そうそう、喜びのおっちょこだいまじん」
それ今思いついただろ、つか微塵も誤魔化せてねぇぞ。
「あらあらぁ、凄い迫力の怪獣さんですぅ。
何だか桜さんの情熱が伝わってきますよぉ」
確かにこいつが普段俺をどんな目で見とるのかよく伝わって来る。
「うんうん、普通に描けばホントは相当上手いんじゃないの?桜って。
ほら、あの天才のピカソみたいに」
彼女は意味深な笑みをひとつ。ニヤッ
おい、バレたかみたいな顔はやめとけ。
ブルブルブル・・・ん、電話か。
「ピッ、はい、こちらおっちょこ大魔神」
「なんだそれは、流行ってんのか?
まあいい、とりあえずお前のスマホ画面の右上に緑の点が表示されてないか確認してみてくれ。
それがあると盗聴されてる可能性がある」
へぇ、そうなんだ。
「いえ、大丈夫みたいっす」
「そうか、何しろ今現在お前さんとこのギルドに連盟のウサギが潜りこんじまってるからな」
連盟のウサギ?
「ソフィア・ホワイト20歳、まだ学生のはずだが連盟の諜報部員、ちなみにあのケビィン・ホワイトの妹だ。
お前の身辺警護で来てるみたいだが、これから話す極秘案件がもし彼女の耳にでも入ったら非常にマズい。
その辺り、お前も心して聞いてくれ」
やっぱりか、俺が無意識に鼻血を出すとかそん所そこ等の綺麗な女性じゃないとは思っていたがまさかあのケビィンさんと同じ遺伝子があの中に入っているとは。
これは益々興味が・・・っとイカンイカン。
「で大黒隊長、極秘案件って何すか?」
お前な、もっと興味を持ったらどうだ。
次回、第二百五話 純白のバニーガール。




