第百九十三話 切り札
○南硫黄島作戦 その3○
よっこいせっと、ガッタン、こりゃまた派手にぶっ壊れたもんだな。
ったく、やっぱあいつを呼ぶと碌なことにならん。
ドロドロに溶け落ちた山肌がその凄まじい威力を物語る。
惹きつけた8体の内2体は消滅、3体が瀕死、残り3体が難を逃れていた。
とはいえだ、今回はいい仕事だったぜ銀二。
大破したブロークンレイディをカプセルに戻し大黒は空歩で上空に展開するクレイジーバットへ駆け上がっていく。
「隊長ぉ、御無事でしたか!
あれ?中山氏は・・・」
「んあぁ?そんなことより何ボサッとしてやがる。
今すぐインビジブル迷彩を展開し瀕死になった対象に集中砲火を浴びせるんだ!」
「はっ、これより攻撃を開始します」
あのクラスは回復も早い。
このチャンスを逃したら後悔必至だぜ。
ドドドドドドドドドォー!
開かれたハッチから魔法士達による魔法爆撃が開始された。
しかし直ぐ様無傷の巨大カマキリが羽を広げ飛行態勢に入った。
ちっ、いい反応してやがる。
窓から外へ飛び出すと・・・
くるくるくるぅ~バコ―――ン
回転しながら軽々と振り回された2tハンマーは浮上する巨大カマキリの頭部を捉えそのまま地上に叩きつけた。
「そう簡単にはやらせねぇよ」
大黒が3体の超進化個体を惹きつける中、瀕死個体は次々と殲滅されてゆく。
よしっ、超進化個体は残り3体・・・
まっ、ここまで削っときゃ上出来か。
ファーストアタックはここで終了し、クレイジーバットは上空待機に入った。
キャッ、やっぱり隊長が一番ステキ♡うんうん。
「あの木下班長、お楽しみ中恐縮ですがこちらも大変なことになってます」
なによもう、チラッ・・・スッ
笑みの消えた彼女は緊急脱出ボタンに手を伸ばす。パカッ、どちゅ~ん
座席は一瞬で遥か上空へ、胸元から取り出した口紅弾にキスをしライフルを構える。
風速3m、距離3124m・・・
私からは逃げられないわよ。バキュ――ン
紅い目印を打ち込まれた魔物は再び海中へと姿を消していった。
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○切り札 その1○
「ツーツー、おう、どうした夕子、何かあったのか?」
「はい、先程例の怪物が再出現、エキサイトエッグの解析によれば対象の名はゲコドン、レベル62の超進化個体と判明しました。
発信機の打ち込みにも成功したのでこれより追跡を開始して宜しいですか?」
レベル62だと?
いや生息環境の違いを考えればそれも当然だな。
「ああ任せる、そのデータはこっちにも送っておいてくれ。
だがいいか、絶対に手は出すんじゃねぇぞ」
あらやだ。
「そいつはもう人の手でどうこうできるレベルを超えている」
「はっ、了解しましたぁ。ガチャ
聞いたわね皆ぁ、さぁ楽しいカロリー消費の時間よぉ♪」
「「「「「「イエス、グリコーゲンっ!」」」」」」
さぁ~て、どうしたもんかな。
DDSFも専守防衛の許す範囲で兵器に属する乗り物系アイテムを配備可能、がしかし実際に配備されているのは非武装の乗り物系アイテムのみとされている。
その理由として真っ先に思い浮かぶのは随所にオーバーテクノロジーを滲ませる乗り物系アイテムがその専守防衛とやらにそぐわないといったところだが・・・
公式見解を見てみると未だかつてこの国では兵器に属する乗り物系アイテムの発見自体がないらしい。
まあその希少性を考えればそれなりに納得もできる話だが一説にはダンジョン産のアイテムはその土地土地の歴史や文化が反映されているとも。
戦車に戦闘機、その他数多の兵器製造の歴史を持つこの国を思えば些か疑問の余地も感じてしまう。
パラパラパラ・・・
海上に浮かぶ水鳥が北に向かって飛び立ってゆく。
フッ、あの方角は・・・
「ミッシェルさん、我々はあの白いアヒルを追いましょう」
「えっ、でも島にはまだ・・・」
「気にする必要はありません。
どうやら我々の監視対象はあの先にありそうですから」
今度こそこの国の切り札が拝めますかね。
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○切り札 その2○
控室のテレビに映っているのは準決勝に向けたバトルフィールド抽選会の模様。
気の抜けた表情を浮かべぼんやり眺める主人公だったが・・・
『さて使用されるバトルフィールドも決まったところで赤羽さんの予想をじっくり伺ってみましょうか。
まず第一試合の多田九条戦についてはどのように?』
『そうですねぇ、まず純粋な力関係として格上かつ種族的にも優れたジャイアントマンモスが圧倒的有利、正直スライムがマンモスを倒すビジョンは全く想像できませんでした。
しかしフィールドがジャイアントマンモスの苦手とする沼地フィールドに決まったことは多田組に一筋の光明が差したと言えるでしょう。
別にステータス的なマイナス要素はありませんが点在する底なし沼は宙に浮けないジャイアントマンモスにとってハマれば致命的。
つまり底なし沼に落とすだけで多田組には勝利が転がり込むというわけです』
・・・確かにフィールド運には恵まれたな。
『とはいえあのスライムは先の試合で切り札であるメイルストロムを使ってましたがあの威力ではそれすらもかなり難しいでしょう。
そこで私が勝負を分けると考えているのがテイマー同士の力量。
結論としては古い友人でもある九条の力量を信じていますがあの少年が本当に不可能を可能とする稀代の策士であるならばこの程度の難局は簡単に乗り切ってしまう可能性も十分だと思っています』
不可能を可能とする稀代の策士とはまた随分と・・・エヘヘ
でもスラ坊の切り札は海魔法じゃないんだなぁ、これが。
まっ、ブリリアント魔力砲を使ったところで一発勝負の大博打になりそうだけど。
『次に森林フィールドに決まった北村市村戦についてはどうですか?』
『そっちの対戦についてはフィールド的な問題は特にありません。
力関係に関してはレベル、種族共に鵺の方がかなり優勢といったところでしょうか。
しかしこの試合は実に難解、アブノーマルバタフライの状態異常と耐性無効化のコンボは鵺の耐性獲得能力を見事に無力化していますからね。
耐性無効化に対する耐性をも鵺が獲得してしまう可能性も否定はできませんが、仮にそうなったとしても完全耐性でなければそれすら意味を成さないと思います。
正直昨日までの私なら市村組が勝利すると予想していたことでしょう。
ですが注目すべきは今日になって見せ始めた鵺の飛行能力。
これが何を意味するかと言えば雲の上では雨に打たれることもない、これと同じことがアブノーマルバタフライの鱗粉にも言えると・・・』
ふむふむ、流石に現役Aランクトップは目の付け所が鋭いですな。
(お~い、賢斗ぉ~。
次の試合は沼地フィールドだってさぁ、大じょぶ~?)
う~ん、大丈夫じゃなかった奴に心配されても困るんだが。
(別に問題ない、つかむしろフィールド的にはこっちが有利とか解説の人も言ってただろ)
(そっかぁ、じゃあ次も楽勝だねぇ~)
いやだからといってそう簡単に勝てないとも解説の人は言っていたぞ。
あっ、そだ・・・
(そういや桜ぁ、あの降参ボタンってついつい押したくなるよなぁ?)
(あっ、うん、あったり前じゃ~ん。
気が付いたら降参ボタン押しちゃってたよぉ~。アハハ)
こうも簡単にゲロっちまうとは愛い奴め。
とはいえうちの先生はもっとこう・・・いやあの可愛さにしてこのチョロさ。
こんな奇跡のコラボレーションに文句を言ったら罰が当たるか、うん。
『・・・番組の途中ですがここで臨時ニュースをお伝えします』
おや、何事?
『20年程前のダンジョン爆破処理でバウンダリィブレイクを起こしていた南硫黄島ですがその最新情報が入りました。
まずはこちらの映像をご覧ください。
ピキン、ドッゴォォォォォォ――――――――ン
これは本日正午過ぎDDSFが行った南硫黄島作戦の模様です。
ダンジョン外に出たレベル50を超える超進化個体を討伐するため放たれた大規模爆破攻撃ですが・・・
これにより巻き込まれたSランク探索者の中山銀二氏が現在行方不明との情報が入っております。
尚南硫黄島沖には謎の巨大生物の姿も確認されており・・・』
行方不明っていやいや、あんな大爆発絶対死んじゃってるでしょ。
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○切り札 その3○
「んあぁ、憲法改正?
いったい何年先の話をしてるんですか?蒲生さん。
資料だったらさっきそっちにも送ったでしょ」
「レベル62の超進化個体が時速120ノットで本土に向い北上中、午後5時頃には相模湾沖に到達か。
しかしカエルの行動範囲は極めて狭く帰巣本能だって持っている。
途中で島に引き返す可能性もまだ十分あるのではないか?」
何を悠長な・・・
「そりゃオタマジャクシの変態中ってな姿をしてますが、全身鱗に覆われた恐竜サイズの超進化個体を普通のカエルと同列に考えてどうするんですか。
それにたとえ奴が途中で引き返すにしろ迎撃準備は必要です」
ここで即決してくれねぇとこっちの準備が間に合わねぇぞ。
「いやそう簡単に言わないでくれ、既に報道や他国の目も光っている中でアレの存在を晒すわけには・・・」
「だったら海ん中だけで仕留めてやりますよ。
浮上しなけりゃ幾らでも言い逃れはできるんじゃないですか」
「・・・ふむ、そうか、そうしてくれるとありがたい」
「今のは武蔵の使用許可と受け取っていいんですか?」
「ああ、総理には私から話を通しておこう」
ガチャ、ったく折角の切り札も使うタイミングを逃してちゃ意味ねぇだろうが。
「聞いての通りだ今泉、俺はこれから内海班と合流する。
後のことは任せたぞ」
「えっ、いやちょっと待って下さい隊長。
我々だけであの超進化個体3体を?」
「なぁ~に心配するな。
もうすぐあの野郎も帰ってくるはずだ」
部下に手を上げ足早に格納庫へ向かう大黒。
大破していたブロークンレイディを出現させれば機体はほぼ修復されていた。
「チューンアップシュウリョウマデアト30ビョウ・・・3、2、1、コンプリート。
タイネツキョウドガ3%ジョウショウシマシタ」
相変わらずのコツコツ星人だな、こいつは。
フッ、だが、それがいい。
ハッチが開くとブロークンレイディはエンジン全開で飛び立ってゆく。
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○切り札 その4○
遠い孤島の大事件を余所にギガントドーナツでは準決勝第一試合の開始直前。
まああの中山さんなら九死一生みたいなスキルを持ってる可能性も十分だが・・・
何にせよ生前の約束って奴はキッチリ守っとかんと後々かなり気分が悪い。
つっても気持ちが前向きになったところで今更どうこうできる状況でも・・・
「なあスラ坊、お前ってまだ俺の知らないとっておきの技とかないの?」
ブリリアント魔力砲とは言わないまでも、あのジャイアントマンモスのバランスを崩せるくらいの技でもあれば・・・
(えっ、チラッ、チラッ、ありますよ)
うそっ!?
ニョキニョキ、スラ太郎は少し照れ臭そうに両手両足を生やすと・・・
スタスタスタスタピタッ、スタスタスタスタピタッ
(どうですかマスタァ♪)
随所に決めポーズを入れながら賢斗の腕伝いに肩、そして頭上へと愛らしい小走りを披露した。
あっ、うん、そういうのじゃない。
なんてことをやっていると無情にも試合開始の合図が鳴り響く。
プッ、プッ、プッ、パァ―ン
ズドーン、ズドーン!
『ああっとこれは試合開始からジャイアントマンモスの長距離砲ウォーターキャノンが炸裂だぁ!
直撃こそしていませんがその衝撃でブリリアントアクアマリンスライムが右へ左へ吹き飛んでおります』
おいおい、わかっちゃいたが真面にやったら勝負になんねぇぞ。
『九条らしい手堅い作戦ですね。
今回は地盤の確かな位置に陣取り固定砲台の様な立ち回りをするつもりでしょう』
『そしてぇ、あっという間にブリリアントアクアマリンスライムのHPゲージが半分近くまで削られているぞぉ』
ダメだ、無理かもしれんがもうこの距離からブリリアント魔力砲を・・・
『流石の稀代の策士も万策は尽きてたようですね。
あのスライムの本当の怖さはその後ろに彼が控えていることだと私は考えていたのですが』
なっ・・・いやそうか。
ったく、俺としたことが迂闊にもほどがある。
『確かにもう勝負は見えたかもしれませんね』
まだスラ坊の切り札は使いたくないって?
『まだ序盤ではありますが何時降参しても不思議ではない状況と・・・』
だったら俺のを使えばいいだけだ。
次回、第百九十四話 メタモルフォーゼ。




