第百六十五話 国際探索者連盟
○本日の活動報告 その2○
引き続き拠点部屋では本日の活動報告が行われている。
「・・・とまあ清川って実はフィールド型ダンジョンだったらしくてその3階層のフィールドエリアをコイツのレべリングがてら少し見て周ったとこで今日は引き上げてきました。
まあもっと探索を進めても良かったですけど、そこはほら清川は俺達が共同所有するホームダンジョン。
この話を聞けば皆も一緒に探索したくなるかなって」
「おお~、清川すごぉ~い♪」
ふっ、まあこれはこれまでの清川に対する認識を覆すほどの大事件だからな。
「そういったフィールドフロアが1、2階層にだって在るかもしれませんね♪」
うむ、その可能性は大いにある。
そして4階層以降が存在する可能性だってまだ十分に残されているのだ。
「珍しく良い判断だったわよ、賢斗君。
清川のEランク評価もこれで爆上がり、まさに買った土地の近くに駅建設計画が浮上しちゃったみたいな話よね♪」
目が¥になってんぞ、貧乏人。
でもホント良い買い物したなぁ。
あのフィールドフロアの存在が知られていれば5億円程度の落札額で購入するのは先ず無理だっただろうし、協会の管轄ダンジョンになっていた可能性すらある。
賢斗の報告にしばし歓喜の表情で盛り上がる面々であった。
「ところで先輩達の方はどうなりましたか?」
「あっ、うん、それなんだけど・・・というわけで攻略の方は5階層止まり。
悪いけど清川探索に乗り出す前に明日は皆で西平安名岬ダンジョンの攻略にしましょ。
魔物も強くなって来てるしドリリンガーがあった方が助かるのよ」
・・・まっ、そういうことなら清川の探索は後回しでいいか。
もう俺達以外の人間があそこには入れないことだし。
「それはそうと富士ダンジョンでゴールデンイーグルはゲットできたんすか?」
「それがテイムには成功したんですけど中々眼鏡に叶う個体が見つからなかったんですよね?かおるさん」
「う、うん、あれは性格の不一致という奴よ」
なんかこの人、負のオーラが漂ってんな。
「っていうか茜、そのさっきから肩に乗ってる白い烏はアンタのテイムモンスター?」
「はい、神様から頂いちゃいましたぁ」
「ふ~ん、良かったわね。
その子なら大人しそうだしこの部屋に出していても気にならない。
といってもそのレベルじゃテイマーズバトルにはあまり期待出来なそうだけど」
うむ、ところがどっこい・・・ボワァ~ン
(お初にお目にかかります、御婦人方。
我は神より茜様のボディガードを仰せつかった烏天狗。
以後お見知りおきを)
えっ、何よ、この私が理想とする紳士な魔物・・・
「おい、烏天狗、俺の時と随分態度が違うじゃねぇか」
(ふっ、貴様は茜様にキスをしようとした要注意人物・・・)
「アーアーアー、いい、いい、いい、それ以上言うなっ!俺が悪かった」
「烏天狗さん、ちょっと。」
かおるは小さく来い来い手招き。
ちっ、聞かれたか・・・
かおるはしばし烏天狗とコソコソ話。
「っとにしょうがないわねぇ、賢斗君は。
キスなんてお付き合を始めてから3か月くらいの様子見期間を経てそれでもまだ大好きだった場合にまあ強引に迫られちゃったら仕方ないかなって感じでするものなのよ?」
・・・随分具体的且つ険しいプランをお持ちだな、おい。
そんな妄想抱くのは勝手だがそれを他人に押し付けるんじゃない。
「まあ兎も角、私も茜と賢斗君を二人っきりにしたのはちょっと失敗したかなぁって思ってたけど、烏天狗さんがいれば今後も安心ね」
(かおる様は実に話の分かる御仁ですな。ハッハッハ)
なんかテイム者以上に意気投合してんぞ、この二人・・・
「あっ、かおるお姉さまぁ、もしよかったらこの天狗さんお譲りしちゃいますぅ。
なんかちょっと私的にはお邪魔虫感ビンビンですしぃ」
おっ、それいいねぇ、厄介者は纏めておいた方が何かと好都合。
「ふ~ん、アンタ意外といいとこあるわねぇ。
それは私からも是非お願いしたいところだけど妙な考えは捨てた方がいいわよ、茜。
烏天狗さんのテイムは神様の特別仕様、貴女の傍を離れるような指示を拒否できる上にテイム状態が解除されるのは死んだ時だけみたいだから」
「ええ~、それはあんまりですぅ」
・・・流石は神様、抜かりねぇな。
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○国際探索者連盟○
8月3日土曜日午前8時30分。
朝のギルド活動から帰還し拠店部屋に居た面々のところへニコニコ顔の水島が入室してきた。ガチャリ
「みなさぁ~ん、先程お伝えした国際探索者連盟から届いた国際探索者証を持ってきましたよぉ♪」
国際探索者連盟とは加盟する世界193か国の探索者協会を統括するSランク探索者を対象とした国際機関。
そこが発行する国際探索者証は加盟国共通の国際ライセンスであり、探索料を支払えば他国のダンジョンにも入ることができる。
まあこの国においては一般に外国の探索者は日本のダンジョンには入れないという認識が広まっていたりもするが、厳密にはこの国際ライセンスを持つSランク探索者に関してはその限りではないのである。
ほう、これが。
水島が四人に配ったのは登録案内書及び光沢のある赤褐色のカード、その左上にはランクを示す★印が一つ。
「皆さんはまだシングルSなのでカッパーのカードですね。
ランクが上がればシルバー、ゴールドとカードの色も変わっていくみたいですよ」
国際探索者連盟のランク付けはシングルSからクインティプルSまでの5段階。
そのランクを上げる方法としては連盟が指定しているダンジョンの攻略や国際探索者連盟に持ち込まれた国単位での依頼を達成する等の世界貢献による。
「光ちゃん、外国のダンジョンに入るには幾ら掛かるのぉ~?」
「それは探索期間やメンバー数、そのダンジョンのある国によっても変わるので一概には言えませんねぇ。
まず前提として国際探索者連盟側に年間登録料500万円を支払っておく必要があります。
そしてそれとは別に資源保全の名目で各国が設定した日当たりのダンジョン資源保全料がメンバー人数分掛かりますから。
う~ん、例えば外国のSランクさんが一人でこの日本のダンジョンに入る時のダンジョン資源保全料は1日500万円、1週間で3500万円って感じですよ」
って事は俺達のパーティーを想定すると1週間で1億5千500万円。
これに年間登録料の500万円。
「うわっ、たっかぁ~」
まっ、年間登録料はぼったくり感丸出しだし金額だけ聞くとそう感じるわな。
がしかし俺達にしたって富士ダンジョンでは1週間程で5億円以上を稼ぎ出している。
対象が実力あるSランク探索者であるなら相応の設定なのかもしれない、うんうん。
賢斗は妙に納得しているが・・・
「まあこれについて日本は特にダンジョン資源保全料は高過ぎるとか諸外国に文句を言われたりもしているらしいですからね」
資源豊かなダンジョンを保有する国のダンジョン資源保全料は高く設定される傾向にある。
その一方で今現在全世界のSランク探索者は凡そ300名存在しているが如何にSランクと云えどもその全員がお宝獲得能力に秀でた者達ばかりというわけではない。
実際のところこのバカ高い探索料はかなりのネックで彼等がダンジョン資源保全料の高い外国のダンジョンを訪れる機会というのはかなり稀なこととなっている。
「ねぇ、光さん、そんなに探索料がお高いんじゃあんまりこの国際ライセンスに意味はなくないですか?」
「そんな事ありませんよぉ。
中にはダンジョン資源保全料を格安設定している国もありますし、皆さんには外国のジョブ取り扱いダンジョンの攻略って目的もあるじゃないですか」
確かにこうして海外ダンジョンへ行けるようになったからにはその内ベネズエラのマラカイボダンジョンやネパールのサガルマタダンジョンに海外遠征したい。
がしかしそこが資源的に乏しいダンジョンであればかなりの大赤字を覚悟する必要がありそうだな、う~む。
「それにこの国際ライセンスの一番の目玉は諸外国のダンジョンに入れる事より国際探索者連盟直轄ダンジョンにフリーパスで入れるって事ですからね」
「その国際探索者連盟直轄ダンジョンってなんですか?」
「ああそれは例えばあの有名な浮遊島ダンジョンです。
あそこは一応何処の国にも属さない国際探索者連盟直轄ダンジョンって事になってますから」
あっ、そっか、浮遊島ダンジョンにはいつか絶対行くっ!
「他にも公海上にある無人島のダンジョンや海底ダンジョン、北極や南極のダンジョンなんかもそうですよ」
へぇ、北極と南極にもダンジョンあんのか。
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○西平安名岬ダンジョン攻略 その3○
海外のダンジョンに夢を馳せる賢斗達であったが今しばらくは国内ダンジョンに専念。
向かった先は攻略途中の西平安名岬ダンジョン6階層である。
「うわぁ~、風強いねぇ~」
「でしょう、ここを飛んで移動できるとかきっと賢斗君くらいのものよ」
ふっ、分かってるじゃないですか。
フライと風圧耐性をカンストしたこの私ならば台風が来てたって真っ直ぐ飛んでみせますよ。ニヤリ
とか言いつつも先ずはドリリンガーで7階層へ。
そして辿り着いた7階層では階層隔壁突破ブーストがまた使えるまで時間が掛かるので賢斗が一人ゴール地点へ飛んでいった。
「じゃあ賢斗さんが戻るまではかおるさんのテイムモンスター探しですね」
「うん、悪いけど皆つき合ってね」
30分程して賢斗が戻って来ると・・・
「お待たせ、いや~この分なら8階層も俺が飛んでった方が早そうだわ。
ってあれ?それが先輩のテイムモンスターっすか?
随分懐いてるみたいですけど」
かおるの体に身を寄せるその魔物は顔だけが白く長い丁髷が1本。
「そうですよ、賢斗にゃん。
5体目にしてようやくかおるさんがテイムを成功させたんですにゃん」
「へぇ、流石っすね、レベル25の魔物をテイムするなんて」
・・・また妙な魔物をテイムしたもんだな。
まっ、面白いからいいけど。ぷっ
「やったねぇ~、かおるちゃん。
羽があるからこのバッタさんもきっと飛べるよぉ~」
と誉めそやす面々だったが・・・
(はぁ、はぁ、よいではないかぁ、よいではないかぁ、スリスリ)
「うっ、うん・・・ゴメン、やっぱり無理」
だったら何でテイムしたんだよ。
一同はテイムしたフーリッシュロードグラスホッパーをその場に放置し8階層へと向かった。
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○西平安名岬ダンジョン攻略 その4○
8階層ではまたドリリンガーに乗って階層間移動。
「にしても先輩、何で無理なんすか?
レベル25のテイムモンスターなんてかなり貴重ですよ?」
あんなおもろい魔物滅多にいやしないだろうに。
「だからそれは性格の不一致だって言ってるでしょ。
私は清廉潔白な天使の様な魔物を求めているの」
そんな魔物居るわけ・・・まっ、スラ坊は素直でいい子だし、魔物によってある程度性格の違いがあるのは認めるが。
何にせよ、もうこれ以降はかおるのテイム可能レベルを超えた魔物しか出現しないだろう。
そんな予測と共に賢斗達はこの西平安名岬ダンジョン攻略に専念することになった。
9階層でのパラシュート降下の際には強風を物ともせず飛来したレベル28のゲールフィザントに襲われ、地上に落下したドリリンガーは故障。
24時間の自動メンテナンスプログラムが始まり、その後はドリリンガーが使えなくなっている。
また下り立った地上に於いてはレベル30のジャイアントブラックヤンバルンの群れと遭遇し、激戦を繰り広げる一幕も。
そんなこんなで午後4時、ようやく賢斗達は10階層のラスボスポイントに辿り着いた。
「あれがここのラスボスだねぇ~」
20m程離れた草むらから様子を窺う賢斗達。
高さ2mの草原から飛び出すほどの漆黒の馬体は強靭な力強さに満ち、強風に揺れるその鬣は凛々しさを感じさせていた。
レベル38かぁ、またここへ来て一気にレベルが上がったな。
流石にこんなの相手にしてらんねぇぞ。
レベル47の八岐大蛇を倒している賢斗達であるが、それは猫女王様ありきのお話。
それ無しでの討伐実績となるとレベル43のティラノジェネラルが次点で挙がるが、それもフィールド条件を利用したボルケーノアタックが旨いこと嵌った結果に過ぎない。
純粋な戦力で賢斗達が討伐可能な魔物のレベルを考えるとまあかなり無理して勝利した富士ダンジョン15階層の氷の門番、レベル33のジャイアントアイスマンモス辺りと考えるのが妥当である。
「あんな強敵じゃあもう今月の猫女王様降臨期間に改めて出直すべきだな」
「まあ仕方ないわね」
早く風弓の天女をゲットしたいかおるであるが流石にこの強敵を正攻法で倒す程の危険を犯すわけにもいかない。
賢斗の言葉に素直に了承の意を表する彼女だったが・・・
ヒヒィ~ン、響き渡る巨漢馬の嘶き。
パカラッ、パカラッ・・・ギガントアイアンホースは仲間を呼び寄せ周囲からの蹄の音が次第に大きくなってきていた。
ヤバい、気付かれてる。
脳内マップを確認した賢斗は指示を出す。
「皆、緊急退避だ。
拠点部屋に帰るぞっ!」
「ちょっと待って、賢斗君。
私、あの子にしたいんだけど」
えっ?クルリッ
丈長の雑草を薙ぎ倒しながら迫りくる鋼色の馬達の中、かおるは空をプカプカ飛んで来る翼の生えた白い馬を指差していた。
次回、第百六十六話 西平安名岬の一角天馬。




