第百五十八話 神秘の湯
○神秘の湯 その1○
ツアー2日目、神秘の湯捜索に乗り出した賢斗達。
しかし強運を持つ桜であれば簡単にという賢斗の目算は見事に外れ午前中彼女が那須ダンジョン各階層で方角ステッキチェックを行ったが何の成果も得られなかった。
まあ考えて見りゃ先生の強運を持ってしても宝箱の復活時間が変わったりって事までは起こらないからなぁ。
意気消沈している桜に声を掛ける賢斗。
「まあ元気出せって、桜。
午後になったらクールタイムも終わるしハイテンションタイムで探してやっから。」
如何に超感覚ドキドキとはいえ端から出現していないものを探し当てるなんて芸当は恐らく不可能。
賢斗の言葉が気休め程度のものだと桜の方も分かっていた。
「うっ、うん、でも賢斗ぉ、あんまり無理しなくって良いよぉ~。
もう半分くらい諦めてるしぃ~、プカプカ~」
「いいえ、桜、賢斗さんならきっと何とかしてくれる筈です。
ねぇ?賢斗さん。」
傷が浅い内に諦めて貰った方が得策な気もするが・・・
「おっ、おう、大船に乗ったつもりで居ろって。」
何時も元気なコイツにこんな顔されたら是が非でも何とかしてやりたいって思っちまうだろうが。
(ちょっと待ちなさいよ、賢斗君。
そんな事したら私との混浴の時にドキドキジェットが使えなくなるじゃない。)
ったく、この人はこの俺の優しさに水を差すんじゃないっつの。
それに混浴するだけの話の何処にドキドキジェットを使う必要があんだよっ!
(先輩、もういい加減言っときますけど先輩の狙いが俺にボインミサイルなんつぅとんでもおっぱい系スキルを取得させる事だってのはとうの昔に気付いてますから。)
(なっ、何を言っているのかなぁ~賢斗君はぁ。
かおるちゃん分かんなぁ~い、アハハ~)
う~ん、このバカタレの望みは何故か全力で阻止したくなるな。
かくして神秘の湯の捜索は昼食後に仕切り直し、彼等はダンジョンを一旦後にする。
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○神秘の湯 その2○
宿に戻ってみると受付でチェックアウトしている服部達と樋口達の姿。
「あれ、もう帰っちまうのか?
お前等も昨日ここに来たって話だっただろ?」
「それはそうなんだけど、こんなところで油を売ってる訳にも行かなくなったし。
まあ何にせよ多田君には感謝してるよ。
富士ダンジョンへ行く前に君に会えて良かった。」
「うちも今回は姉さん方の要件が予定より早く終わったからな。
とんぼ返りで明日から富士ダンジョンって訳だ。
まっ、Sランク様は精々このリゾートをゆっくり楽しんでてくれ。」
ふ~ん、折角来たのに勿体ない。
「ちなみに踊り子シスターズさん達の用件って何だったんだ?」
「そりゃあのお二人がここに来る目的と言えば・・・コソコソ、神秘の湯に決まってんだろ。」
服部は少し離れて立つ彼女達に聞こえない様賢斗に耳打ちする。
そういや澪お姉さまの若さの秘訣はここの神秘の湯って話だったな。
って待てよ、だったらこいつ等はこの旅行中に神秘の湯を見つけたって事になるんだが・・・
「あのぉ、服部さん、できれば神秘の湯が何処に出現してるか教えて下さいませんか?」
「ったく、お願いする時だけ殊勝な態度に出られてもこっちは気分が悪いだけだぞ。
とはいえお前にゃ今回随分な借りが出来ちまってる。
俺的に教えてやりたいのは山々なんだが、流石にうちの姉さん方のトップシークレットを話してやる訳にもいかねぇだろ。」
まっ、そりゃそうか。
逆にそんな大事な情報を簡単に聞き出そうとした俺の方が・・・
「うふっ、別に教えてあげても良いわよ、高貴君。
その子達には私達も前回のマジコンで少し借りがあるし。
と言っても聞いたところでどうにかなるとも思えないけどね。」
おっ、お久し振りです、澪お姉さま。
「えっ、聞こえてたんすか?澪さん。」
「当たり前でしょ、高貴君は地声が人一倍大きいのだからコソコソ話してたら注目集めるだけよ。
という訳でその坊やにはこの私が直接教えてあ・げ・る、うふっ。」
えっ、澪お姉さまが直々に?
彼女は両手で口元を囲うとそれを賢斗の耳元に近づける。
おおっ、何この頭が痺れて来る様な良い匂い。
妖艶な笑みを浮かべると先ずは挨拶代わりに吐息をふぅ~。
ぞくぞくぅ、いや~ん。
説明を受けている最中、少年の身体は終始クネクネしていた。
「それじゃあまた何処かで会えたら良いわね、賢ちゃん。」
「はっ、はいぃ~♪フリフリ」
はぁはぁ・・・耳打ちされただけでここまでの幸福感を与えてくるとは・・・
澪お姉さまなら年の差なんてまるで気にならん。
美魔女ばんざぁ~、ギュウ、痛てて・・・
「ひょっと、ひぇんはい、何すんひゅんひゅかっ。」
「あっ、ごっめぇ~ん、その顔見てたらちょっと気分が悪くなったから。」
何だ?その横暴な理由は?
それが通用すると思ってるならアンタその内お縄になるぞ。
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○神秘の湯 その3○
昼食は宿泊費には含まれておらず桜達の女子部屋からルームサービス。
食後女性陣が雑談に花を咲かせる中、賢斗もその部屋に居座っていた。
「私の通っていた小学校のプールには幽霊さんが結構居たんですぅ。
当時は私もまだそういうのに免疫が無くって毎回水泳の授業はお休みさせて貰っていましたぁ。」
「茜ちゃん、幽霊ってホントに居るのぉ~?」
だよなぁ~。
この世界ダンジョンでゴースト系や精霊系の様にその霊体を可視出来る魔物が出現する事は知られている。
がそれはあくまでダンジョン内に限った話で外の世界で幽霊やお化けの類が見える等と言い出せば普通の人間からしたら俄かには信じがたいお話である。
まっ、それはそれとして、どうすっかなぁ。
澪お姉さまの話によれば神秘の湯は世間でランダム出現型温泉等と言われているがそれは間違いだと言う。
あの温泉は常に存在しているがその場所が隔絶された異空間である為直接それを探そうとしても見つける事は出来ないらしい。
確かに隔絶された異空間にあるなら階層毎に方角ステッキを使って反応しなかったのも頷ける。
ではどうやってそこへ行くのか?
という話になるのだがその唯一の手段となるのはダンジョン内でランダム出現する転移魔法陣トラップ。
この魔方陣トラップは神秘の湯へ行く際には必ず経由する必要があり、一度行った事がある者が往還石等を使用しても転移は出来ないそうである。
またこの魔方陣トラップが起動する際に濃霧を発生させる事から神秘の湯体験者は自分が転移させられた事実に気付けないケースが多く、それがランダム出現型温泉等と勘違いされている理由らしい。
往還石とかでもそこへ転移出来ないとなると空間魔法の転移も多分ダメだろうな。
となればその転移魔方陣トラップを見つける事が出来れば神秘の湯への道は開かれるという話になるだろう。
がこちらもこちらでかなり厄介なお話。
彼女の経験上出現頻度自体は日に2~3回と結構なものなのだが毎回変わる魔方陣のサイズは30cm未満の時が殆どでその出現時間も1分程と極端に短い。
床に限らず壁面や天井、岩陰等と様々な個所に出現するそれを広いダンジョン内から探し出すのは普通に考えれば不可能と言って良かった。
パッと見分からないとか言ってたし、確かにこの情報を教えて貰ったところでって話だわな。
にしても澪お姉さま達はどうやってこの転移魔方陣トラップを探し当ててるんだ?
こんなの未来予知的スキルでもなきゃ無理な話だろうに・・・まっ、そこは当然企業秘密ってとこだろうけど。
「いいえ、かおるお姉さま、幽霊も精霊も霊体である事には変わりありません。
私の目にはそのブローチにしがみ付いてる女の子もしっかり見えてるんですよ。」
えっ、ホント?
「そっ、そんなの嘘よ、口では何とでも言えるもの。」
まっ、確かに。
「あっ、でも私も以前お爺様のお葬式の時に一度だけ火の玉を見た事がありますよ。」
「円まで何茜の作り話に乗っちゃってんのよ。」
「分かりました、そういうお考えなら今からかおるお姉さまを占って差し上げます。
私の霊感占いを聞けばお姉さまも少しは霊感の存在を信じてくれる筈ですから。」
「はいはい、好きにして頂戴。
どうせ当たりっこないんだし。」
茜は奉神演舞を取り出すとシャ~ン、シャ~ン
「では、かしこみかしこみぃむむむむむぅ~・・・出ました。」
おっ、意外とアッサリ。
「今かおるお姉さまはお悩みを抱えておられるのですね。」
「なっ、何よ、別に私に悩みなんて無いわよ。」
「そうですかぁ?
とても恥ずかしい名前のスキルを取得してしまったと占いに出てますけど。」
おおっ、茜ちゃんの霊感は本物だっ!
って待てよ、これひょっとすると・・・
「ざっ、残念ね、そっ、そんなの取得した覚えなんかないわよ。タラリ」
いやもう諦めたらどうっすか?
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○神秘の湯 その4○
午後3時、茜を連れダンジョン入りした賢斗達は彼女の霊感占いを頼りに6階層のとある通路に居た。
にしてもこの時間この場所に転移魔方陣が現れるって話だけど・・・
「茜ちゃん、ホントにこの場所に神秘の湯への魔法陣転移トラップが出現するの?」
「はい、勇者さまぁ、もう間もなくだと思いますよぉ。
と言っても先程は宿の方でやりましたから多少大雑把だったかも、正確な場所と時間となるともう一度ここで占ってみた方が良いかもしれません。」
「あっ、そう、じゃ、もう一回頼める?」
「はい、では参ります、シャ~ン、シャ~ン、かしこみかしこみぃむむむむむぅ~・・・あっ、来ます。」
へっ、来ますって?
プシュ~、うわっ、急に周りが真っ白に、スゥ~、えっ、嘘・・・
霧が晴れると目の前には湯面が輝く温泉が姿を現していた。
「茜ちゃん、ここが神秘の湯なのぉ~?」
「そうだと思いますよぉ。
あの温泉からはかなりの霊力を感じますし周囲に沢山の下級精霊が遊んでますから。」
そんなのまで見えてんのかよ。
まっ、それは兎も角今は・・・
「皆早く温泉に飛び込め。
ここの滞在時間は短い時だと1分もないらしいからな。」
「わかったぁ~、バッシャ~ン」
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○神秘の湯 その4○
気付けば賢斗達は元居た6階層の通路上。
ポタッポタッ、その濡れた着衣が先程まで確かに神秘の湯に浸かっていたという事を物語っていた。
「あっ、あにきぃ、大変だにゃっ!ガクガク」
「ん、どうした?小太郎。」
こんなに怯えやがって、別にこの近くに魔物なんて居ないだろうに。
「あれを見るにゃっ!ブルブル・・・」
小太郎は野生の本能でそれを感じ取っていた。
とても清々しい気分です。
こんな事は生まれて初めて・・・
円は静かに目を閉じた。
「はぁ~、せいやっ!ドゴォ~ン」
虚弱体質が完治した彼女のステータスパラメータは本来あるべき数値へと上昇を遂げていた。
「まあ2割の力ならこの程度でしょうか。」
ほう、円ちゃんにはそういう効能が現れたか、マジで凄ぇな、神秘の湯。
とはいえ俺自身には特に変わったところが見当たらんのだが・・・う~む、俺の場合も若さの維持的効能なのかな?
まっ、それはそれで構わんが。
「おっ、桜の方もどうやら上手く行ったみたいじゃねぇか。」
「えっ、ホントぉ~?」
「おう、何かオレンジ色の精霊がその杖の魔石ん中で飛び跳ねて喜んでるのが見えるぞ。」
「やったぁ~♪」
まっ、桜自身への効能の方は身長が1cm伸びただけみたいだけどな。
「ちょっと賢斗君まで可笑しな事言い出すつもり?」
あっ、そういや確かに・・・
「いやでも先輩のブローチの中の女の子がご機嫌にラジオ体操してるのも見えますし。
神秘の湯の力で霊感でも上がっちゃったんですかね?俺。」
「その通りです勇者さまぁ、それは私同様勇者さまも先程の神秘の湯で霊力がかなり上昇した事が原因なんですぅ。
霊力が上がれば精霊どころか外の世界の幽霊だってしっかり見えちゃうんですよぉ。」
そなの?まっ、外の世界の幽霊は見たくもないが。
「もしかして茜ちゃんは人の霊力って奴も分かるの?」
「はい、霊力の強い弱い程度の事は感じ取れますよぉ。
以前から勇者さまの霊力はかなりのモノでしたけど、ここまで伸び代があった事にはビックリです。
ちなみにかおるお姉さまからは霊力がまるで感じられませんよぉ。
あっ、これ言っちゃダメな奴だった、反省反省、きゃっ。」
ふっ、まっ、先輩の場合は何故かCHA値がかなり上がっちゃって・・・
なっ、ダッ、ダメだ、ククッ、死ぬ・・・
人により神秘の湯には所持スキルをパワーアップさせる効果まであるとかないとか。
解析をした賢斗が目にしたモノは・・・
・・・クッ、ククッ、ボインミサイルオメガだってよ。プルプル
次回、第百五十九話 ボインミサイル一直線。




