第百四十七話 人魚岩
○今後の御予定 その2○
午後0時20分、拠点部屋ではランチタイム中の賢斗達に中川がプリントを配っていた。
「夕方からの戦略会議までにナイスキャッチの今後のスケジュールをある程度纏めておきたいの。
皆の顔も揃ってる事だしちょっと協力して頂戴。」
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~今現在ナイスキャッチに入っているお仕事情報~
★白山ダンジョン支部 サイン&握手会 報酬 20万円
緑山ダンジョン支部 サイン&握手会 報酬 20万円
富士ダンジョン支部 サイン&握手会 報酬 20万円
日の丸デパート トークショ- 報酬25万円
福島競馬場 トークショー 報酬30万円
★探索者新聞 取材 報酬5万円
★探索者マガジン 雑誌取材 報酬10万円
★月刊それゆけ探索者 雑誌取材 報酬12万円
週刊パパラッチ グラビア撮影 報酬50万円
★探索者チャンネル「桃香の部屋」 ゲスト出演 報酬30万円
★にゃんにゃんランド イメージキャラクター依頼 初月報酬80万円
★ドリンクカムカム スポンサード契約依頼 年間契約報酬1000万円
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「これが今現在貴方達に入っているお仕事依頼。」
へぇ、あれからまだ2日しか経っていないのにもうこんなに。
「無理強いをするつもりは無いけどこれまでお世話になっていたり今後の事を考えて★印の依頼に関しては是非お願い。
皆も期末テストは終わってる事だしあと少しで夏休み、この程度なら大丈夫よね?」
「中川さん、このイメージキャラクター依頼とスポンサード契約依頼ってどんなことするんですか?」
「にゃんにゃんランドさんのお仕事のメインはあそこの経営する猫カフェで2時間くらい店員として働いて貰らう事かしらね。
その他事前に店内に飾る実物大ボードやメニュー、チラシに載せる写真の撮影何かも含まれるわ。
まあ拘束時間は長くなっちゃうでしょうけどその分Dランクの貴方達としては結構な報酬額って訳。」
猫カフェで働くって・・・ああいうとこに男の店員なんて居るのか?
まっ、俺は多分皿洗いか何かだろうけど。
「ドリンクカムカムさんに関してはお仕事というよりスポンサー契約。
これを簡単に言えば貴方達の知名度やイメージに対して向こう側が無償で出資してくれるって事。
一応名目上今後貴方達の活動には各所でドリンクカムカムさんをアピールするって義務が生じるけどこんなの仕事の内に入らないわ。
そして今後更に良好な関係を築いていければコラボ商品の発売やCMなんかで更に実入りの良いお仕事も頂けるかもしれない。
こんなお話断ったら罰が当たってしまうわよ。」
おおっ、ドリンクカムカムさんと言えばあのカフェラッチョの発売メーカーさん。
言われなくとも快く引き受けますとも、うんうん。
「そして貴方達に今しておいて欲しいのはこの★印以外の中から他にやっても良いと思うモノを選んでおいて貰う事。
まあ無ければ無いで仕方ないけど。」
「じゃあグラビア撮影だねぇ~。
南の島でバカンスできるかもよぉ~。」
「ちょっとっ、桜、何言ってるのっ。
グラビア撮影って言ったら水着とか着なきゃイケないじゃないっ!」
「でもかおるさん、そちらを受けると賢子ちゃんのハイレグ姿が見られるかもしれませんよ?」
「はっ!円貴女、天才よっ!」
「ちょっと待てぇ~いっ!
誰がそんなもん着るんだよっ!
そもそもナイスキャッチに男が一人居る事くらい先方も依頼する時ちゃんと聞かされてるっつのっ!
ねぇ、ボス?」
ってあれ?
つい先程まで傍に立っていた中川の姿はもう既にそこには無かった。
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○リトルマーメード その3○
午後に入って北山崎5階層に戻った賢斗達は早速リトルマーメイドの所在ポイントへと急行した。
そして海中にダイブした彼等が見た物は高さ数十メートルはありそうな巨大な岩山。
ぼんやりと浮かぶそのシルエットは何処となく岩場に腰を下ろす人魚を思わせる。
ふ~む、随分ふくよかな人魚さんだな。
方角ステッキでお宝ポイントを割り出したと言っても多少の誤差は考慮すべき。
然も怪しげな岩山が数十メートル先にあっては賢斗達がそこへと向かうのも当然であった。
一方その岩山付近には魔物の反応が多数存在、賢斗達もこれには既に気付いていた。
そしてその岩山にあと20mといった距離まで近づくとソードフィッシュなるレベル17の魔物が襲って来た。
うわっ、北山崎にしちゃかなりレベルが高いぞ。
キーン、キーン、キーン、スカッ、なっ、くそっ!
長刀の様なその体はまるで見えない剣士が襲って来ている様な動きを見せる。
賢斗も剣を抜いて応戦しているが、水中ではその実力の半分も発揮できずにいた。
ドンッ、ドンッ、ドンッ、むぅ~、全然当たんなぁ~い。
桜も新調した魔法銃の初お披露目とばかりに応戦するが、ロックオンが使えない上に敵の命中し辛いスリムなボディに四苦八苦。
ヒュンヒュンヒュン、ちょっと相性が悪過ぎるわ。
かおるも桜同様敵の形状と素早い動きに翻弄され彼女のボーガンがそのポテンシャルを発揮する事は無かった。
ちっ、格下だってのに、水中戦だとここまで。
とはいえこの状況を物ともせず孤軍奮闘を見せる少女が一人。
水中でも私のキャットクイーンシステムは無敵ですにゃん。
彼女の遠隔雑魚処理能力はここでも如何なくその力を発揮、大量に襲って来ていた魔物の群れを見る見るうちに殲滅して行った。
ふぅ~、そういやあの時も円ちゃんに救われたんだったな。
賢斗は先の富士ダンジョンでの白ナマズ戦を思い出していた。
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○リトルマーメード その4○
ようやく人魚岩に到着した賢斗達は早速海面付近の頭部からオブジェクトを捜索して行く。
するとものの数分で早くも吉報が届く。
(お宝はっけぇ~ん。)
桜の元へ行ってみればそこは丁度人魚の口の辺り、深く抉られた空洞の中には銅製の宝箱が一つ置いてあった。
何だ、潜水艇のオブジェクトじゃなかったのか。
何時もの様にその宝箱の開封を分身さん1号にお願いしてみると・・・バクンッ!
あっ、分身さんっ!
瞬間空洞の下部がせり上がり、まるで口を閉ざす様にその空洞は無くなってしまった。
(お宝見つけたけど出られないって言ってるよぉ~。)
おおっ、生きていたか、となるとこれは監禁系の罠。
転移で1号を救出しお宝を確認してみればそれはコルク栓のされた小瓶で飴玉が10個程入っている。
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『人魚ののど飴』
説明 :舐めると美しい歌声になる。魅了効果有り。
状態 :良好。
価値 :★★
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へぇ、まあ中々使えそうなアイテム。
つってもうちにはセクシーボイスな先輩が居るしそこまで手元に置いとく必要も無いけど。
にしても何だろうなぁ。
富士ダンジョンで見つけたお宝達があまりに凄かったから、もうこの程度のお宝を見つけても今一つ感動出来ないというか・・・ふむ、やっぱ皆さんも微妙な顔しとる。
特にはしゃぐ様子も無く四人は調査を再開した。
人魚の首の辺りまで行くと浸食により急激に細く括れその周囲にはカールの掛かったロングヘアが海中通路を形成、髪を撫でる指先と相まってかなり複雑化した造形を見せている。
(何かスキューバダイビングの名所みたいな場所ね。
ここが普通の海だったらきっとお魚さん達の遊園地だろうし。)
(確かに見ていて飽きが来ないし何かワクワクしますね。)
更に調査は下方へと進み今度は胸部辺りに差し掛かる。
するとそこには大きなこぶのような出っ張りが2つあり、岩肌には色とりどりの珊瑚で覆い尽くされている。
ふっ、まるで人魚がビキニでも着てるみたいだな。
更にくびれを感じさせないウエストラインを通過し下へ潜っていくと・・・
にしてもオブジェクトは何処なんだ?
ワカメの群生地帯が見えた。
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○リトルマーメード その5○
ともあれこの人魚岩の下の方は魚の様な下半身を折り曲げ横に投げ出した造形となっている。
っとに何だったんだ?さっきのは。
人魚に股間なんて無いだろっ・・・無いよね?
何てことを考えつつ賢斗が横に伸びた人魚岩の上まで辿り着くとまたもや複数の反応が接近して来た。
今度のは結構デカいな。
レベル18のトルネードジュゴンが5体。
キリモミ回転で攻撃してくるが・・・
(円ちゃん、お願い。)
(はい、お任せ下さい、賢斗にゃん)
これも猫人化した円の手に掛かればあっという間の出来事であった。
しかしコレ俺達が富士ダンジョンへ行く前に挑んでいたら結構不味かったかもな。
円ちゃんもここまでレベルが上がって無かったし。
そんな円の活躍と共にその後も調査を進めて行く賢斗達。
しかしもう既にこの人魚岩は調べ尽くしたという段になっても潜水艇のオブジェクトは何処にも見当たらなかった。
腕組みして考え込む賢斗の元へ三人も集まって来る。
(賢斗ぉ~、何処にも無いよぉ~。)
(やっぱりここじゃなかったのかしら。)
(そろそろ戻って3時のおやつにしませんか?賢斗さん。)
まあこの岩山に見切りを付けるのも良いが、最後にアレで調べておくか。
賢斗はドキドキジェットを発動した。
おや、なるほど、そりゃ幾ら周辺から探したって見つからない訳だ。
(桜、人魚岩のお尻の部分だ。
そこに魔法銃を撃ってみてくれ。)
(人魚岩のお尻って言われたってわかんないよぉ~。)
(あ~ほら、全体を眺めてみるとこの岩山って何か人魚が岩場に腰かけているみたいに見えるだろぉ?)
(お~ホントだぁ~。
言われてみればそんな気がしてきたぁ~。)
(なら場所は分かっただろっ。
早くお尻に強烈な奴をぶち込んでやってくれ。)
(えっ、あっ、うん、何かすっごいやっちゃイケない気分だけど逆に頑張ってみるぅ~。)
(おうっ、頼んだっ。)
流石は先生。
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○リトルマーメード その6○
ボカァ~ン、ガラガラガラ・・・
桜が魔法銃を放つと岩肌が崩れ岩山内部へと繋がる直径3m程の円形通路が口を開けた。
(ねぇ、賢斗君、もしかしてリトルマーメイドのオブジェクトはあの先って事かしら?)
賢斗が頷きを返すと四人はその通路に向けて泳いで行く。
通路内に入ってみれば凹凸も無く滑らかな岩肌。
そこを10数メートル泳ぎ切ると20m四方の大きな空間が広がった。
四隅には割と大きな人魚の石像。
その4体の視線の先がクロスする場所は砂地の床が不自然に盛り上がっている。
あそこだな、ウォーターボールっ。
賢斗がそこの近くに水魔法を放つと砂は巻き上げられ横倒しとなった白い船体の一部が顔を覗かせた。
喜々としてそこへ近づく四人。
丸い小窓からは暗くなっている中の様子も少しは窺え座席の位置取りだけ取ればドリリンガーと変わらない。
彼等は早速転移で船内へと乗り込んだ。
「くっさぁ~い。」
「そうねぇ、ずっと居たら気分が悪くなりそう。」
「はい、こんなところでは緑茶を飲む気にもなれません。」
・・・まあ緑茶はどうでも良いとして。
「ああ、その辺はもうしばらくの辛抱だ。
操舵輪を嵌め込んでやれば自浄システムが作動する筈だからな。」
そう言って操縦席に座る賢斗は早速サイドボックスから取説を取り出しパラパラ、他の面々もいつものポジションに着席していた。
といっても横倒し状態で結構な傾斜角、まるでくの字に寝ているかの様な体勢である。
「賢斗君、早くして。
この中は水中じゃないんだからこの体勢は結構キツイわ。」
「いやもうちょっと待って下さい。
最低限の部分はこいつを読んでおかないとだし、俺だってこの体勢はキツイんですよ。」
とそんなこんなで15分程、いよいよ賢斗が操舵輪を嵌め込む。
「じゃあ皆、いよいよ操舵輪を嵌め込むぞぉ。
結構感動するから期待してくれ。」
賢斗は三人の注目が集まる中、リトルマーメードの操舵輪を目前の突起に嵌め込んだ。パチッ
・・・あれ?
しかし特に劇的な変化は起こらず静かに時間は過ぎて行く。
「どうなってんのぉ~?賢斗ぉ~。」
「ねぇ賢斗君、人をあれだけ煽っておいてこれは無いんじゃないかしら。」
「大変です、賢斗さん。
緑茶スイッチが何処にも見当たりませんよっ。」
確かにこれは可笑しい。
胸躍る動力音と共にと灯り出す計器類の感動は一体何処に?
・・・おっ。
賢斗はそこで前面の魔力メーターだけが静かに点滅しているのに気付いた。
なるほど、Eを指し示してこの状態って事はつまり現状魔力がカラッケツって事か。
にしてもドリリンガーの時は最初から魔力は満タンだったんだが、う~ん、サービス悪いな。
そして再び取説に目をやって行くと・・・
えっ、嘘・・・
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運動エネルギー動力魔力変換システム
この小型潜水艇リトルマーメイドは座席の足元にあるペダルを回す事で動力魔力が供給されます。
※生命維持システム優先の為魔力メーターが10%を切ると他のシステムがシャットダウンされますのでご注意下さい。
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魔力供給ってある程度は自動じゃないの?
水晶玉ユニットも見当たらないし、何かとっても疲れる仕様に感じるんだが。
この10分後、窮屈な体勢で悪臭に耐えつつ必死に足元のペダルを回す四人の姿があった。
次回、第百四十八話 リトルマーメード、浮上。




