第百三十三話 発進、ドリリンガー
○ゴミ虫○
既に後半を迎えたマジコン本戦。
ドリリンガーの操縦桿を入手した賢斗達は残り時間の先ず最初に円のエボリューションにより巨大ワームの巣の魔物及び14階層のアイスゴーレム5体の討伐。
ドリリンガーと金の宝箱を手に入れた後は適当にハイテンションタイム中の雷鳴剣アタックによりリスポーンした巨大ワーム達の討伐を続けて行くといった形に話は纏まっていた。
がその行動開始を前にしてお着替えと小太郎回収を済ます為一旦拠点部屋に立ち寄った一同。
一足先に着替えが終わった賢斗は少女達の戻りを待っていた。
さぁ~て、後はあの巨大ワームの巣と湖上のアイスゴーレムを猫女王様に討伐して頂くだけ。
多少レベル的には物足り無さが残るものの、ドリリンガーに加え金の宝箱まで手に入ってしまうこのプランで無事お茶を濁す作戦も見事に成功。
いや~、下層探索もこれ以上進める必要が無くなったし、良かった良かった。
ガチャリ
「あら、やっぱり居たわね、多田さん。ニコニコ
ちょっと聞きたい事があったんだけど、乗り物系のオブジェクトを見つけたってホント?」
「あっ、はい、実はそうなんですよ、ボス。
そしてついさっきゴソゴソ・・・そのキーアイテムがこれです。
苦労してやっと手に入れましたよ。」
えっ、嘘、もう?
やっ、やっぱりまるで常識が通じないわね、この子達。
「これであのドリリンガーの所有者は俺達って事になりましたし、あとは10階層に行ってあいつを動かしてやるだけです。」
「でもまさか本当にあの富士ダンジョンで新たな乗り物系アイテムを手に入れてしまうなんて。
これはとんでもない大偉業よ。」
「そっ、そっすかねぇ~、アハハ~」
でもそういう事なら・・・
「まあそれはそれとして最終的なマジコンの順位はどの位になりそうかしら?
本戦時間も半分以上経過して、中間順位じゃ最下位だったって聞いたけど。」
「ああはい、そっちはこれからある程度纏まった魔石が少しは手に入る予定ですし最下位は何とか回避してみせますから。」
「あら、多田さんはもう私からのご褒美は忘れてしまったのかしら?」
えっ?あっ、巨乳揉み放題っ!
「それともこんなオバサンのご褒美じゃまるでやる気が出ないって事かしら?」
「いえいえ、決してそんな事はっ!
ボスは十分魅力的な女性ですし27歳独身美女なんて余裕で許容範囲と言うか寧ろどストライク。
小娘共とは一味違う大人の魅力、仕事も出来る聡明な貴女に僕は一生養って頂く事を何時も夢見ておる次第ですよぉ。ニヤリ」
「うふっ、そう、だったらそっちの結果も期待しちゃって良いのね?
まあ100年も経つ日本の聖地で乗り物系アイテムを手に入れちゃうくらいだし、中間順位の結果も貴方達にとっては丁度良いハンデみたいなものよね。」
えっ?
「いやいや、そうは言ってもですねぇ、ボス。
ご褒美のハードルが高過ぎなんですって。
今の俺達がこれからマジコン10位以内を目指すのは流石に無理ですし、せめて目標を下げて頂きませんと。」
「あらそう、ならまあ確かに残り時間も少ない事だしクリア条件を中間順位以上って事にして上げる。
その代りご褒美の中身も半分になっちゃうけど。」
えっ、ご褒美が半分?
いや、つまりは片乳揉み放題という事か・・・うんうん、それでも十分魅力的ではないか。
「そしてもしこの下げた条件すらクリアできない場合は・・・」
・・・場合は?
「とても大偉業を成し遂げたパーティーが最善を尽くした結果とは思えないし、私の中で多田さんは口先だけで女性のプライドを傷つけるゴミ虫以下の扱いになっちゃうわね。」
えっ、何それ怖い。
「まあでも私は万が一にも多田さんがそんな最低最悪なゴミ虫じゃないと信じてるし、残り時間精一杯ここから応援させて貰うわ。ニコリッ」
ガチャリ
う~む、どうやら俺は明日からゴミ虫になってしまうらしい。
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○後半戦に向けてのミーティング○
着替えを終えた少女達が戻って来ると、彼女達の頭の中はもうドリリンガーの入手で一杯の御様子。
「それじゃあ早速ドリリンガーを手に入れに行きましょうか。
円、頼んだわよ。」
「はい、ようやく私の晴れの舞台がやってまいりました。」
「おお~、ドリリンガーだぁ~。」
「あっ、いや、皆、ちょっと待って欲しいんだけど。
やっぱりさぁ、マジコンの順位を上げる為にはもう少し猫女王様の御降臨は後回しにした方が良いかなぁなんて。」
「え~、順位なんてどうでも良いって言ったじゃ~ん。」
はい、言ってましたね、確かに。
「そうです、賢斗さん。
円はもう我慢の限界ですよ?」
・・・分かります。
「うんうん、急にマジコンの順位を気にし出すなんて怪しさしか無いんだけど。」
ですよねぇ、でもこのままだと俺がゴミ虫になるんです。
「いや、実はさっき皆が着替えに行ってた間にボスから結構なプレッシャーを掛けられまして。
残った時間で半分以上の順位を目指せって。」
「ふ~ん、そういう事ぉ。
まあボスからのオーダーなら無碍にする訳にも行かないもんねぇ。
でも実際この時間から25位以内ってかなり厳しいんじゃない?
周りは皆私達とは本気度がまるで違うって感じだし、普通に倒せる魔物が居る階層に行ってもお邪魔虫にされるだけだと思うわよ。」
お邪魔虫の方がまだマシですよ、先輩。
とはいえそれも含めてもう作戦は練ってある。
「ええ、ですから俺達が現状の最下位からの巻き返しを図れる可能性を考えると方法というか課題が2つ。
一つはさっき俺が言った猫女王様の御降臨を先に延ばして討伐可能限界レベルの強敵を大量撃破する事。
これには課題として、15階層のボス討伐が必須事項になります。」
まっ、大量撃破なんて言っても高レベルになった魔物は総じて大型化する傾向が強い。
シャドーボクシングの効果範囲が10m圏内って考えると転移で飛び回ったとしても討伐数はそれ程稼げないだろう。
「そして二つ目は10階層の巨大ワームを通常の実力で撃破する事。
これが出来れば先輩が言う現状のブッキング問題は起こりませんし、それなりに高ランクの魔石が手に入ります。」
この2つをクリア出来ない事には25位圏内に浮上する可能性すら無いだろう。
「まあ本気で上位を目指すなら妥当かもねぇ。
それに円のエボリューションが使える今なら15階層の階層ボスに挑んだとしてもいざという時の保険は確保出来てるって事だし。」
「はい、ある意味今は俺達にとって格上挑戦への絶好の機会でもありますからね。」
「あ~、それで賢斗はドリリンガーを後回しにするとか言ったのかぁ~。」
「そういう事なら私も異存はありませんよ、賢斗さん。
つまりは円に最高の舞台をご用意して下さるという事ですし。」
と大まかなプランが決まると具体的に細かなプランを煮詰めて行く。
そしてその内容は賢斗の下層探索には風向き対策要員として桜が同行。
残りのメンバーはその間常時10階層の巨大ワーム討伐を行っていく。
そしてその最初の巨大ワーム討伐については、桜が溶かした雪原地形が既に回復している事を見越し全員で向かう事に決まったのだった。
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○巨大ワーム討伐○
10階層の巨大ワームが居るポイントに移動すると予想した通りその地形は既に回復済み。
再び桜がファイアーボールマキシマムを放ち、その雪を溶かした。
そしてその後は小太郎が穴の開いた土地を駆け回り、巨大ワーム達を誘き出す。
ゴゴゴゴゴゴ・・・
すると次々と姿を現し始める魔物達。
そして上空で待機していたかおるは誘き出された魔物の急所を狙い澄ました雷鳴剣アタックにより討伐していく。
しかし新調した魔鉄鋼矢は3本、3体撃破したところで彼女は直ぐ矢の回収に向かった。
あ~ん、魔鉄鋼の矢でもダメかぁ。
ってあれ、一本だけギリギリ耐久度が残ってる。
うふっ、これならリペアで何とか出来そうだわ。
その後リフレクトエクスペリエンスで修復するとその耐久度が増した魔鉄鋼矢は次の使用でも見事に生き残って見せた。
うんうん、この調子ならもう雷鳴剣アタック用の矢を新調する必要はないかも。
回収するのが一々面倒だけど、その辺はまあご愛嬌って事で。
とまずまずの成果に喜んでいるとハイテンションタイムが終了。
今回のかおるの討伐個体数はまたもや4体止まりとなった。
一方雷鳴剣アタックが使えない桜と円と小太郎はタッグを組んで巨大ワームに立ち向かう。
まずは桜が半分程度に威力を押さえたファイアーボールマキシマムを放つと魔物は炎に包まれた。
するともがき苦しむ魔物に対し円と小太郎が追撃。
桜も火の杖による通常攻撃を加え程無く1体の巨大ワーム討伐が終わった。
しかしMP消費の激しいファイアーボールマキシマムは一度の戦闘でそう多用出来るものではない。
桜の今後の活動も考慮し、3人の討伐個体数はこの1体のみで終了を迎えた。
残る賢斗は愛剣を掲げ雷を呼んだところまではこれまでと同じだったが、その愛剣を魔物に投げようとはしなかった。
ピカッ、ゴロゴロゴロォ
ぐはぁ、くっ、収まれぇっ!
落雷の衝撃と感電ダメージを受けてしまうも、何とかその電力を愛剣に吸収させる事に成功した。
よしっ、これなら・・・
回復魔法を掛けると巨大ワームの頭上に転移、その脳天目掛け剣を突き立てる。
ガチンッ
その切っ先は僅かに堅い甲殻に穴を開けた程度でしかなかったが・・・
喰らえっ、これが本当の雷鳴剣アタックだっ!
バリバリバリバリィィィ
強烈な電力が魔物の頭部を直撃すると巨大ワームは地に伏しその姿を魔石へと変えて行く。
ふむ、放出量を半分程にしてみたが、これならもっと少な目でも良かったっぽいな。
と修正を加えつつその後も討伐を継続。
ふむ、一回の落雷充電で5体はイケそうか。
ってあれ、巨大ワームがもう居ないんですけど。
見れば地上に出現している巨大ワームは全て討伐。
賢斗の討伐個体数はこの時点で7となっていた。
「ねぇ、賢斗君。
これってもしかして今地下の魔物の巣は蛻の殻なんじゃない?」
あっ、確かに皆の討伐個体数を合計すれば10を超えてる。
蛻の殻とまでは行かないまでもかなり少なくなっているかもしれない。
そしてもしそんな状況であるならば、猫女王様の御降臨して頂く事なくドリリンガーが手に入れる事が出来る。
「そっすねぇ・・・ニヤリ」
賢斗が地上の穴に頭を突っ込むと下の巣穴の状況を確認すれば・・・
おっ、5体か。
これなら俺の雷鳴剣をフル充電しておけば何とかなりそうだな。
「よし、皆、予定変更だ。
もう今ここでドリリンガーを手に入れちまおう。」
「うんうん、そうこなくっちゃ。」
「やったぁ~、ドリリンガー。」
「流石は賢斗さん、良いご判断です。」
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○発進、ドリリンガー その1○
巨大ワームの巣穴に転移すると魔物は5体と索敵通り。
賢斗は程無くその5体の魔物を殲滅し終えた。
そしてその巣穴の中央に突きだしたドリル型のオブジェクトに近づく。
「ねぇ、賢斗君、これに乗り込むのって結構大変そうに見えるんだけど。」
半分以上埋もれてるドリリンガーを初めて見たかおるはそんな感想を漏らす。
「いやまあ、その辺は御安心を。
俺が先ずこいつに乗り込んでこの埋もれた状態から動かしてみますんで。」
「え~どうやってぇ~?」
「まあ、良いから良いから。」
賢斗は幽体離脱で地中に潜るとドリリンガーの中へと入った。
おっ、5人乗りみたいだな。
あちこち錆びてるしあまり快適そうには見えないがこれなら皆一緒に乗れそうだ。
本体に戻った賢斗は再びドリリンガーの操縦席に転移で乗り込む。
うわっ、鼻曲りそ。
するとしけった金属の腐食臭が彼を襲う。
よしっ、ここだな。
左腕を鼻に押し付けながらドリリンガーの操縦桿を取り出すと賢斗はそれを操縦席の手前に突き出している部位に嵌め込んだ。
ドォリュゥーン、パカッ、パカッ、パカパカパカパカ・・・
するとまるで息を吹き返したかの様な動力音。
前面にあるモニター、計器類が次々と点灯して行く。
おおっ、何か凄ぇカッコイイ♪
気付けば車内は腐食等無かった様にその輝きを取り戻し空気も正常化されていった。
そんな光景を目の当たりにし目を輝かせる賢斗だったが・・・
っとイケないイケない、早く皆にもこの感動をお届けしなければ。
よし、これだな。
彼は右足部分にあるアクセルと思しきペダルを踏み込む。
「ゴーッ!ドリリンガーッ♪」
ゴガガガガガガガガガガ、バタンッ
巣穴内に響き渡るキャタピラ音。
「おお~、カッコイイィ~♪」
ついに地下探索車両ドリリンガーがその全貌を現した。
「あら、こんなに大きかったのね。」
まるで戦車を思わせる車体の上部には大きなドリルユニットを搭載。
「何か感動を覚えます。」
分厚い装甲の側面には鼻先がドリルになったグラサンモグラの絵がニカッと笑っていた。
次回、第百三十四話 モグリンガーと階層隔壁突破ブースト。




