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第百十一話 ユニークトレジャー

○7月10日水曜日午後5時 北山崎ダンジョン2階層○


 岩山の中腹に出来た小さな空洞。

 その狭い穴の中、縮こまって宝箱を取り囲む4人。


「久しぶりの銀の宝箱だな。」


「前回は火魔法のスキルスクロールだったし、今回はジョブスクロールが出て来ちゃったりなんかして。」


「うんうん、まっ、そんなの出たら直ぐ売っちまうけどな。

 今なら高値で買い取ってくれるだろうし。」


「そうですにゃん、Nランクのジョブスクロールなんて別に惜しくありませんにゃん。」


「それじゃあそろそろ行ってみますか、先生。」


「おまかせあれぇ~。」


「あっ、ちょっと待って桜。

 この宝箱、罠は大丈夫かしら?」


 おっとそうだった。

 ホント宝箱見つけるとついつい浮かれて忘れちまうんだよなぁ。


「あっ、そうだったぁ~。

 みんなちょっとここから出てってぇ~。」


 ん、何するつもりだ?


 桜を一人残し狭い空洞から出た一同はその穴を少しは離れた空中から見守る。


「ぶんし~ん。」


 あっ、なるほど。

 その手があったか・・・桜の奴め、中々賢いやり方を思いつくじゃないか。


 空洞から出て来た桜は仲間の元へと合流。

 そこから分身体に指示を出す。


「もういいよぉ~、1号ぉ~。その宝箱開けちゃってぇ~。」


「ほ~い。」


ギィィィ、カパッ


 宝箱を開けた瞬間、壁から飛び出た3本の槍に貫かれた桜の分身体は光の粒となって消滅していく。


「危なかったわねぇ、あのままあの狭い穴の中に居たら皆只じゃ済まなかったわよ。」


 確かにダンジョンランクも上がって罠の危険度も上がってる。

 今後は罠チェックを忘れないようにしないと、洒落にならなそうだな。


「そうですねぇ、かおるさんのお蔭で助かりましたにゃん。」


「じゃあ早く皆でお宝を確認しよぉ~♪」


 っとそうだった。

 分身体さんの尊い犠牲の元無事開封された宝箱。

 有り難くその中身を確認させて貰わねば。


 空洞に向かう一同は我先にと宝箱の中を覗き込む。


「なにこれぇ~?」


 桜が手にしたのは直径50cmくらいの木製の輪っか。

 その中心からは放射状に6つの掴みが輪っかの外まで飛び出ている。


「船の舵の様に見えますにゃん。」


「そうねぇ、立派な船の操舵輪って感じね。

 結構高級感はあるけど・・・あっ、ひょっとしてこれマジックアイテムかしら。」


 少女達がお宝に目を奪われる中、銀の宝箱は役目を終えたかの様に光の粒となって消滅して行く。


 あれ・・・どうなってんだ?

 宝箱が消えてったぞ。

 う~ん、宝箱ってのは開封後次の復活時間までそのままその場に残ってるってのが俺のこれまでの認識なんだが・・・


「ほら賢斗ぉ~、賢斗が解析係だよぉ~。早く解析してぇ~。」


 っと、今はお宝が先か。


「おう、任せろ・・・えっとそれは『リトルマーメイドの操舵輪』っていうアイテムらしいぞ。

 説明には小型潜水艇の舵としか表示されてないし、特別な効果は無いみたいだな。」


「なぁ~んだ、残念。マジックアイテムじゃなかったかぁ。

 じゃあこれってインテリアとして飾っておく様なアイテムなのかしら。

 こういうのって良く映画で海軍司令室に飾ってあったりするでしょ?」


「まあそんな感じですね。

 でもこんなインテリアくらいしか使い道が無いアイテム、誰か欲しかったりするか?

 これって木製だし、売ってもたかが知れてそうだけど。」


 少女達は揃って首を左右に振る。


 となれば、安かろうが買取に回すとするか。


「もっと凄いのが出ると思ってたんだけどなぁ~。」


 ふっ、まっ、先生がしょ気るのも分かるが、俺に言わせりゃこれが普通。

 銀の宝箱にだってハズレはあるだろ。

 とはいえここは宝箱のハズレを引かせたら右に出る者なし。

 この賢斗さんが優しく慰めてやりますか。

 気持ちは痛い程分かるしぃ♪


「贅沢言うなって、桜。

 俺なんかいっつも石ころばっかだったぞっ。

 それに比べりゃこれだって十分凄いお宝だろぉ?」


「あっ、そっかぁ~。」


ニパッ


 うんうん。


「賢斗が開けたらきっとまた石ころだったもんねぇ~♪」


 いや幾ら俺でも銀の宝箱から石ころなんて出す自信はねぇよっ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○7月11日木曜日 お昼休み 教室内○


 もぉ~、こんなものを新発売されては買わない訳にはいかないだろぉ?

 突き抜ける芳醇な香りとまろやかさ、カフェラッチョ・ゴールド、お値段なんと350円。

 ・・・贅の極みだな、うん。


チュ~


 おおっ、これはっ!


 感激に浸る賢斗に二人の男子生徒が近づく。


「よぉ、賢斗っちぃ~、俺はこの度とんでもないお宝をゲットしてしまったっしょー。」


「ああそうだな早くそいつを見せて多田の度肝を抜いてやれ、モリショー。」


 ん、何だ?お宝って。


「ああ合点承知、こいつを見て恐れおののけ、賢斗っちぃ、どぉ~んっ!」


 モリショーは一枚の色紙をカフェラッチョ・ゴールドをちゅ~ちゅ~している友人に見せつけた。


「誰のサインだ?これ。」


「へへ~ん、これは今や大人気探索者アイドル三角桃香様の直筆サイン。

 探索者マガジンの景品に応募したら見事に当たってしまったっしょー。」


「こいつはネットオークションなら3万円以上にはなるお宝だぞ。

 どうだ?恐れ入ったか我がライバル。」


 いやそれモリショーが当てたんだろ。


「ああそれ昨日の綺麗な姉ちゃんのサインか。

 確かに実際に見たらそこ等の女子が同じ人間か疑うレベルの可愛い生き物だったな、あれは。」


「三角様を生き物呼ばわりするのは止めろっ。

 ってちょっと待て・・・今貴様、実際に見たとか言わなかったか?

 三角桃香様にっ!」


 ったくさっきから様付してるけど、何時からこいつ等三角信者になったんだ?


「ああ、昨日うちの店に偶々来てたからな。

 でもだからと言ってもう来ることも無いだろうから、お前等はうちの店に来るんじゃねぇぞ。」


「これはもうクローバーに通い詰めるしかないっしょー。」


「だから来るなっつの。

 ダンジョンショップとはいえ、お前等の様な駆出しの底辺が買える様な品物は置いてねぇしな。」


 とそこへ。


「ねえ、多田君。そこ等の女子って何処の誰を指しているのか詳しく説明して貰ってもいいかな?」


ギョッ


「これはこれは委員長様、そんな顔してると可愛い顔が台無しですよ。

 そこ等の女子とは三角桃香という探索者アイドルの可愛さを形容する為に極一般的なイメージを用いただけで、決してうちのクラスの女子をどうこう言っている訳ではありません。

 で、いつからそこに?」


「なぁ~んだ良かった。疑っちゃってごめんね、多田君。」


 いえいえ・・・通用したのか?今の。


「お詫びと言っちゃなんだけど、明日多田君のマジコン出場クラス激励会を開催してあげるわ。」


 えっ、何それ?やっぱり怒ってんじゃねぇか。


「いっ、いやそんなの良いって良いって。

 どうせ大した活躍も出来ないで終わるんだから、あんまり大袈裟にしないでくれ。」


「ふ~んそう、じゃあ今のは聞かなかった事にしておいて。」


 おおっ、セーフ。


「やっぱり多田君にはサプライズ形式の方があってるみたいだし。」


 ・・・じゃないらしい。

 よしっ、明日は学校休もう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後4時 クローバー拠点部屋○


 拠点部屋にいち早く駆け付けていた桜は水島と何やら言い争っている。


「光ちゃん、それも私が買うから賢斗に絶対言っちゃダメだよぉ~。」


「なるほどぉ、これは所謂乙女の純情ってやつですかねぇ。

 そういう事なら分かりました、じゃあ今後エアホイッスルが入荷しても多田さんには内緒にしておきます。

 いやぁ~、小田さんも青春真っ盛り、アツいアツい~♪。」


「もぉ~何べん言ったら分かるのぉ~?

 だから私がエアホイッスル係なんだってばぁ~、光ちゃん。」


「はいはい、そういう事にしておきましょうかぁ。」


ガチャリ


「うぃ~っす。」


「あら、多田さん。良いところに。」


「がるるるぅぅぅ~!」


「ひえぇ怖い怖い、これはまた随分可愛い狼さんに睨まれちゃってますぅ。」


 何やってんだ?こいつ等。


ガチャリ


「お早うございます、皆さん。」


「おまたせ~。」


 おっ、皆来たな。

 それじゃあ早速スキル共有を済ませて・・・っとその前に。


「あっ、そうだ、水島さん。

 これなんですけど査定して貰っていいですか?

 リトルマーメイドの操舵輪っていうアイテム名なんですけど。」


 賢斗は昨日手に入れたアイテムを出して見せる。


「はぁ~、これは珍しい・・・というか見た事無い品ですねぇ。

 ちょっとパソコンお借りします。」


カチカチカチ・・・


「あ~やっぱりデータベースにもありません。

 多田さん、これ一体何処で?」


「えっ、いつもみんなで行く北山崎の2階層にあった銀の宝箱ですけど。」


「へぇ~、北山崎ですかぁ。」


「いや見た目は木製のなんてこと無いインテリアアイテムかも知れませんが、結構見つけるの苦労したんすよぉ。

 岩山の高さ20m程の岩肌を破壊して現れた空洞の中なんつーパーフェクトマッピングが無けりゃ先ず見つけられない様な場所にありましたし。

 おまけに殺す気満々の罠まで仕掛けられてたんですよ。なっ、なっ、桜。」


 ここは少しでもアピールして買取額を上げて貰わねば。


「あっ、うん。そ~だよぉ~。

 それでこのアイテムを取ったら、宝箱も消えちゃったんだぁ~。」


 うんうん、あそこのお宝今朝確認したらもう反応無かったし、きっとあの宝箱は1回こっきりのお宝ポイントだったんだろう・・・まっ、宝箱にこんな出現パターンがあるなんて初めて知ったが。


「えっ、その話ホントですか?

 だったらそれってユニークトレジャーですよ。」


 へっ、何そのユニークトレジャーって?


「ユニークトレジャーってなぁ~にぃ~?光ちゃん。」


「まあ大体は調査段階で発見されたりするものなので一般の若い探索者の方は御存知ない方が多いかも知れませんが、ダンジョン出現の初期段階ではこういったユニークトレジャーが発見される事が多いらしいです。

 そしてそのユニークトレジャーの特徴と言えば宝を手にすると宝箱が消えちゃう事。

 正に今小田さんが言ったそのものズバリです。」


 なるほど、こういう出現パターンの宝箱をユニークトレジャーというのか。


「そしてそこに入っていたこのリトルマーメイドの操舵輪はユニークアイテムという事になりますね。」


 ほう、ユニークアイテムとな?

 何やら凄そうな響きだが、もしかしてもしかする?


「それで水島さん。

 肝心のこのリトルマーメイドの操舵輪、ユニークアイテムだそうですけど見た目以上に価値があったりするんですか?」


 大した効果も無い木製のお飾りにとんでもない買取額が付いちゃう事を期待。


「それについてはまだ何とも言えない感じです。

 ユニークアイテムっていうのは単に1点もののアイテムの総称ですし、このアイテムが唯一無二である事は間違いありません。

 でもだからと言って価値があるかどうかは別問題。

 誰も欲しがらなければ、価値は無いのと同然ですから。」


 やっぱそんなオチか・・・誰がこんな飾り物の船の舵を欲しがるかって話だわな。

 とはいえ折角のお宝なんだし、2、3万円くらいで買い取ってくれたりしない?


「じゃあまだ何とも言えないってどういう意味ですか?水島さん。」


「ああ、それは可能性のお話ですよ。

 イギリスの空飛ぶ豪華客船スカイエターナル、アメリカ空軍のスカイシップエンタープライズ号。

 多田さんも知ってますよね?」


「ええまあ日本に寄港する時は大ニュースになったりしますし。」


「じゃあその2つの船の発見エピソードは御存知ですか?」


「あれって確か最初はダンジョンの海フロアで座礁した船のオブジェクトだと思われてたんですよね。」


「その通り。そしてそのオブジェクトを起動するには、あるキーアイテムが必要だった。」


「えっ、それってもしかして・・・」


「ええ、そのキーアイテムはそこのダンジョンで発見された操舵輪型のアイテムだったらしいですよ。」


 水島はそこまで言うと意味有り気な笑みを浮かべた。


「とはいえこれはあくまで可能性のお話です。

 普通にガラクタのケースも往々にしてありますし。

 でもさっきも少し話しましたが、新たなダンジョンが出現すると通常まず最初に国選探索者による一斉調査が行われます。

 そしてユニークトレジャーは大体その段階で発見されますし、乗り物系のオブジェクトが発見されていたならその調査はより念入りに行われるでしょう。

 そういった事情も踏まえた上で考えても、北山崎って管轄外になる程の立地の悪さ、海が大部分を占めるフロア構成、海上から確認出来ないオブジェクトが未発見のままなんて事も大いにあり得るんじゃないかと。」


 普通は国有化されちまう乗り物系のダンジョンアイテム。

 そんな物がもし手に入ったら一体幾らの値が付く事やら・・・いやぁ、何だかやる気が出て来ちゃいましたよぉ♪


「そうっすねっ!こうなったらあそこの海中虱潰しにさがしてみようぜ。

 水島さん、エアホイッスルってまだ入荷しないんすか?」


 小型潜水艇の操舵輪だし、きっと北山崎の海中のどっかに在る筈。


「あっ、それはそのぉ・・・」


「けっ、賢斗のエアホイッスルはいつでも私が貸してあげるからだいじょぶだよぉ~。」


「おっ、そうか?でも毎回借りるってのもいい加減悪ぃだろぉ?」


「ううん、全然だいじょぶぅだいじょぶぅ~。私2つ持ってるしぃ~。」


 えっ、何故2つも?

次回、第百十二話 水中装備の御用命。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー、ユニークトレジャーとは面白いですねぇ 位置的にもルートからずれていて、かつ岩山の上まで登ってから壁抜きですし、この環境で先に次の階層への入り口が見つかっていればそこまで探さないでしょ…
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