第十話 リーダーとしての自覚
○只今念話のテスト中○
4月12日金曜日、昼休みの教室内。
賢斗は昨日かおるに貰った探索者マガジンを眺めながら菓子パンとコーヒー牛乳で昼食を取っていた。
パラパラパラ
『今週のスキルの活用術 ~潜伏スキルと忍び足スキルであなたも忍者に~』
ほほう、潜伏スキルと忍び足スキルを併用すると潜伏しながら移動が可能になるのか・・・フムフム。
中々良い情報載ってるな、これ。
来週号から購読するとしよう・・・金があったら。
(やっほ~。)
ん、桜?
唐突に少女の声が彼の頭に響いた。
(どうしたんだ?桜。)
(只今念話のテスト中~。)
(そっか。でも桜の学校、うちの学校から10Kmくらい離れてたよな?)
(そうだよぉ~、これならスマホの代わりになっちゃうねぇ~。)
(ああ、まっ、充電しなくて良い分通話に限ればこっちの方がよっぽど便利だけどな。)
(そうだねぇ~。)
(あっ、そうだ、話は変わるけど桜は自分の武器をどうするんだ?)
(武器ぃ?)
(明日は土曜日だしダンジョンの奥まで探索に行く予定だろぉ?
そん時武器の一つも持って無かったら流石に不味いだろ。)
(あっ、そっかぁ~。じゃあ今から考えてみるぅ~。)
おいおい。
(あっ、賢斗ぉ~。円ちゃん来ちゃったから念話切るねぇ~。)
円ちゃん?・・・まあ桜の学校のお友達ってとこか。
(おう。またな。)
とその念話が終わるや否や。
(賢斗君。聞こえる?)
今度は先輩ですか。
(はい、聞こえてますよ。)
(えっとねぇ、昨日君のクラスの男子が二人、古谷君のところに入部希望で来たんだって。)
へぇ~、誰だろ?
俺の他にもこのクラスに探索者資格取得者がいたのかな?
(へぇ~、名前は分かります?)
(森君と高橋君って言ってたかなぁ。)
な~んだ、モリショーか。
でもあいつって探索者資格持ってなかった様な・・・
(二人とも資格もないのにやって来てて、入部希望の理由を聞いたらどうやら私目当てだったらしいの。
それで古谷君怒っちゃって直ぐ追い返したらしいのよ。)
ほら、やっぱり。
(だから私はまた君の教室にお邪魔しなくちゃいけなくなっちゃったぁ♪)
(どうしてそうなるんですか?意味が分かりません。)
(だって私の美貌が原因なのよ。責任取って御挨拶に伺わなきゃいけないでしょ?ウフ♡)
アーハイハイ。
(まあそれは別に好きにしたら良いんじゃないですか。
でもうちの教室来ても俺を巻き込まないで下さいね。)
(嫌よ。それじゃ楽しくないじゃない。)
(それ、俺を弄りに来るだけですよね。)
(はっ!、ここに天才がいるわ。)
(もし来たら、その二人に先輩は感度ビンビンだって教えちゃいますから。)
(ふっ、ふ~ん、そんな事したら賢斗君の方も困るんじゃないかなぁ~、ふふ。)
(死なばもろともです。)
(・・・そ、そう、いい覚悟ね。
仕方ないから念話で我慢してあげる。)
(初めからそうして下さい。)
(じゃあまた暇だったら念話するねぇ~。)
(用事がある時だけにして下さいよっ!)
ったく、俺を暇つぶしの道具にするのは勘弁してくれ。
にしても・・・高橋って誰?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○少女達の視力強化スキルの取得○
午後4時、白山ダンジョン協会支部のフードコーナーに集まった三人。
そこでかおるが今回は賢斗が持つ視覚強化を自分も習熟取得したいと言い出し、それに桜も乗っかった。
明日のダンジョン奥への探索を控え、薄暗いダンジョン内の視界を劇的に改善してくれるこのスキルを二人が欲しがるのも当然であった。
そしてそんな二人からの要求を賢斗も快よく承諾。
その場で視覚強化の習熟方法から魔素を感知して習熟効率を上げるといった内容まで彼女達に細かくレクチャーしてやるのだった。
教えてやったは良いが、あの状態の二人に果たして・・・ムフ
ほどなく大岩ポイントまでやって来た三人。
そこでパーティー活動としては三度目となるハイテンションタイムが始まった。
賢斗の存在を意識し、始めは声を出さない様精一杯務める少女達。
しかしハイテンションタイムという超高感度の世界はその未開発な身体の敏感さをあざ笑うかの様に彼女達の心の余裕を奪っていく。
「ふぅ~、ふぅ~、あっ、あぅ、あふぅ~、ふぅ~。」
「うっ、うぅ~、あっ、いやっ、はぁはぁ~。」
チラッ、チラッ
うほ~、待ってましたぁ、ご褒美タイムっ!
吐息まじりに虚ろな目。
切なげな表情は濃密な色気を漂わせ少年の目を釘付けにした。
じ~~~~
この二人のこんな姿を毎日拝めるなんて・・・ゴクリ
俺幸せ過ぎて死ぬんじゃねぇか?
いや~、眼福眼福ぅ~♪
そして二人の様子からすればとてもスキルの習熟をしている様には見えなかったのだが・・・
「やったぁ~、良く見えるぅ~。」
「そうねぇ、昼間と変わらない明るさだし。」
終わってみれば見事に視力強化スキルを取得していたのであった。
3分って早ぇなぁ。
まっ、こうなっては仕方ない、頭を切り替えるか。
賢斗は盛大なニヤケ面をキリリと引き締め彼女達に質問する。
「先輩はハイテンションタイムになった状態で魔物と戦ったり出来そうですか?」
スキルの習熟方法といってもそれは今回取得した視覚強化の様に意識やイメージの反復で取得出来るものばかりではない。
ダッシュスキルの様に実際に走ったりまた武器系スキルなら戦闘を行うといった行動を伴うものも多いだろう。
そんな考えから今後の展望として戦闘時にハイテンションタイムを発動する必要性を賢斗は感じていた。
「えっ、嘘っ、あの状態で?
いや、そっ、それはちょっと厳しいかもしれないわねぇ~。アハハ~。」
あ~やっぱり。
にしてもこの様子だとまだ俺にあんな姿を見せてくれている自覚はなさそうだなぁ。
必死に誤魔化そうとしてるし。
下手に声を出さない様努力していたのが仇となりこの時のかおるの自己認識はまだほんの少し声が漏れてしまったかな程度のものである。
とはいえ今の幸せを永遠にと願う俺としては殊更この点に言及する訳にも行くまい、うんうん。
「桜はどうだ?」
「絶対無理ぃ~。」
そっすか。
こいつは素直というか、何も考えてないというか。
まっ、何にせよ、この二人には戦闘中のハイテンションタイムは無理そうだな。
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○紺野かおるの初期ステータス○
今回のハイテンションタイムも賢斗は入口から大岩までの通路間で済ませていた。
そしてその内容もまた解析スキルのレべリングを継続。
その結果彼の解析スキルは今日この時点でレベル8にまでアップし、その解析情報量は最早以前見たステータス鑑定書以上のものとなっていた。
「あと皆、俺の解析スキルがさっきレベル8になったんだけど、良かったら二人のステータスも解析してやろうか?」
ステータス情報を教えて貰い彼女達の得意不得意を把握するのもまたパーティーリーダーとして大事な務め。
「ステータスパラメータは勿論スキルの詳細解析だって出来るぞ。」
いや~、我ながらリーダーとしての自覚に目覚めちゃいましたかぁ。
決してこの二人のスリーサイズを確認したいなんていう疾しい気持ちからでは御座いませんぞぉ♪ホントホント。
「えっ、ホントにぃ~?やってやってぇ~。」
「へぇ~、それなら私もお願いするわ。」
良かった・・・プライバシー的な事を気にして断られるかもって思ったけど。
でもまあ皆にとっても無料でステータス鑑定出来るというのは魅力的だよな、ムフ
「じゃあ最初は先輩からってことで。」
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名前:紺野かおる 17歳(158cm 49kg B84 W58 H82)
種族:人間
レベル:3(12%)
HP 11/11
SM 8/8
MP 6/6
STR : 10
VIT : 8
INT : 9
MND : 14
AGI : 9
DEX : 12
LUK : 8
CHA : 21
【スキル】
『キッスシェアリングLV4(5%)』
『弓術LV3(46%)』
『索敵LV2(23%)』
『念話LV5(8%)』
『リペアLV1(2%)』
『感度ビンビンLV1(0%)』
『視力強化LV1(0%)』
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ほう~お見事、数値的にも流石のプロポーションですなぁ。
って言うか先輩はCHA値も凄ぇな。
うちの教室に来ただけでクラスメイトが二人も釣れてしまう訳だ。
まっ、それはそれとして当然スリーサイズ情報については伏せてお伝えせねばなるまい、うんうん。
「先輩、・・・てな感じですよ。」
「ねぇ、賢斗君、SMってスタミナ値の事?
それにそのパーセンテージってどんな意味があるの?
鑑定証にはそんな情報無かったと思うんだけど。」
「ああ、SMはスタミナ値であってると思います。
そういや俺の鑑定証にもこの項目は無かったですね。
あとパーセンテージは現在の経験度や習熟度だと考えて下さい。」
「ふ~ん、何か解析スキルの方が随分優秀みたいねぇ。」
確かにあの鑑定書の内容が鑑定スキルで分かる情報のすべてだとするなら解析スキルは正にその上位互換って感じだよな。
「あっ、あとスキルの詳細解析も出来るんで希望があればやりますけど?」
「あらそう、じゃあキッスシェアリングを解析してみてくれる?」
「了解。」
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『キッスシェアリングLV4』
種類 :アクティブ
効果 :キスすることで、共有する効果。スキルシェアリング使用可。
【特技】
『スキルシェアリング』
種類 :アクティブ
効果 :相手の右手の甲にキスすることで、互いのスキルを1つづつ共有する。効果時間スキルレベル×3分。クールタイム6時間。
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へぇ~、クールタイムは6時間だったのかぁ、結構長いんだな。
でもまあ朝夕のハイテンションタイムに合わせて使う分には支障が無い訳だし特に問題無いか。
「先輩、・・・てな感じですよ。」
「あらそう、効果時間ってスキル×3分で伸びていく形だったのね。
確認して良かったわ。」
「他にもまだ解析したいスキルはありますか?」
「えっ、あっ、うん。
後のスキルは別に気にならないから今はこれで十分よ。」
かおるはすまし顔で賢斗に応える。
「またまたぁ♪先輩昨日新しいスキルを取得したじゃないですかぁ。
聞いた事無いスキルでしたしアレも一応確認しておいた方が良いんじゃないですかぁ?」
・・・ぷっ。
「・・・っ!そっ、そうね。
別に気にならないけど、一応は確認しておこうかしら。」
OKでましたぁ~♪
それでは行ってみましょう~♪
恥ずかしいやつカモォ~ン!
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『感度ビンビンLV1』
種類 :アクティブ
効果 :五感の内4つを遮断し、1つの感覚を向上する。感度2倍。
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えっ・・・何これつまんない。
なんか普通に良いスキルだし・・・くそっ。
「先輩、不本意ですが・・・・・な感じですよ。」
「えっ、不本意?ふっ、普通に良い効果よね、これ。ねっ、ねっ。」
先輩、顔近いです。
「ソーデスネ。」
「あ~、良かったぁ~。」
ちっ・・・仕留め損ねたか。
「あとは良いですか?」
「ええホントにもう大丈夫よ、ありがと賢斗君。」
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○小田桜の初期ステータス○
「次は桜だな。じゃあ今から解析するぞぉ。」
「ほ~い。」
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名前:小田桜 16歳(152cm 42kg B78 W54 H80)
種族:人間
レベル:1(0%)
HP 7/7
SM 5/5
MP 1/1
STR : 3
VIT : 4
INT : 6
MND : 3
AGI : 3
DEX : 5
LUK : 42
CHA : 8
【スキル】
『ラッキードロップLV4(10%)』
『念話LV2(14%)』
『限界突破LV1(0%)』
『視力強化LV1(0%)』
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フムフム・・・桜さんも小柄な割に中々のプロポーション。
ってか、なにこのLUK値・・・あり得なくない?
レベル3の先輩と比べても明らか異常な数値だし。
「桜、・・・てな感じだぞ。」
「おお~、そっかぁ~。」
「なぁ桜、ちなみに聞くがこのLUK値は初めっからか?」
「えっ、う~ん。どうだったかなぁ~。
スキル取得講座の時は27くらいだった気がするぅ~。」
なっ、初期値で27だとっ!
いや待て・・・初期値もそうだが身体レベルが上がっていないのに、既にLUK値が15も上昇している。
こんな異常現象の原因なんてもうアレしか思いつかんだろ。
「桜、お前のラッキードロップなんだが俺の解析で確認させて貰っても良いか?」
「えへへ~、別に良いよぉ~。」
「おう、悪ぃな。」
さて、一体どんなスキル効果だってんだ?
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『ラッキードロップLV4』
種類 :パッシブ
効果 :LUK値上昇補正+35、ドロップ率上昇+30%、レアアイテム率上昇+20%。特技『幸運感知』。
【特技】
『幸運感知』
種類 :パッシブ
効果 :幸運を感知することが出来る。
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・・・何この飛んでも効果、鑑定士が驚いたっつーのも無理はない。
う~む、確かにこれなら色々納得だな。
「一応言っとくと今の桜のラッキードロップの効果内容は、・・・・・な感じだったぞ。」
「おお~、凄っごく詳しいねぇ~。
鑑定して貰った時は上昇(小)ってだけで、そんな数字は言われなかったよぉ~。」
「そうなのか?」
やっぱ解析スキルの方が何かと優秀みたいだな。
「そうだね~。」
にしても、想像以上にぶっ壊れ性能だったななぁ、ラッキードロップ。
「ちなみに桜は他に解析してほしいスキルはあるか?」
「じゃあね~限界突破をお願ぁ~い。」
あっ、そうそう、そっちにもかなり興味をそそられていたんだった。
「おっけぇ。」
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『限界突破LV1』
種類 :アクティブ
効果 :全ステータス2倍。効果時間スキルレベル×10秒。クールタイム60分。
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おおっ、流石勇者シリーズと言われるだけの事はある。
何か効果内容もかなりカッコイイし。
にしてもどうやったら、こんなの取得出来んだよ。
「桜、・・・てな感じだったぞ。」
「やったぁ~、超かっこいいぃ~♪」
「アハハ、そうだな。そのうち桜は勇者になっちまうかもな。」
「そっかなぁ~♪エヘヘ~。」
ふぅ~、ようやく2人の解析が終わったか。
にしても色々と見応え十分だったなぁ。
これからもリーダーとしてこの二人の発育を・・・もとい成長を温かく見守って行くとしよう、うん。
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○多田賢斗の初期ステータス○
ついでだし俺のも見とくか。
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名前:多田賢斗 16歳(168cm 56㎏ C88 W78 H86)
種族:人間
レベル:1(75%)
HP 8/8
SM 6/6
MP 1/1
STR : 5
VIT : 4
INT : 8
MND : 9
AGI : 7
DEX : 5
LUK : 3
CHA : 5
【スキル】
『ドキドキ星人LV10(-%)』
『ダッシュLV10(-%)』
『パーフェクトマッピングLV6(72%)』
『潜伏LV6(56%)』
『視覚強化LV5(36%)』
『解析LV8(8%)』
『聴覚強化LV4(20%)』
『念話LV2(24%)』
『ウィークポイントLV1(0%)』
~~~~~~~~~~~~~~
あ~そういやウィークポイントはまだ解析してなかったな。
それっ。
~~~~~~~~~~~~~~
『ウィークポイントLV1』
種類 :アクティブ
効果 :相手の弱点を看破する能力。看破対象は自己レベル+スキルレベル以下まで。
~~~~~~~~~~~~~~
ふ~ん。まあ予想通りか。
とはいえスキルレベルが上がれば、自分より高レベルの相手に対しても使えそうだな。
ちょっと桜に使ってみるか・・・
賢斗が『ウィークポイント』を発動すると、桜の頭部と左胸が赤くなって見える。
なるほどねぇ・・・弱点が赤く表示されるだけみたいだなぁ、これは。
魔法の弱属性とかもってちょっと期待してたけど・・・まっ、そんなの分かっても魔法を使えない俺に意味ねぇか。
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○魔法使いの夢○
大岩ポイントでの活動を終えた三人はダンジョン出口に向かって歩き出した。
「そういや桜、使う武器は決めたのか?
まだ持ってないみたいだけど。」
賢斗は昼間の念話を思い出し桜に訊ねた。
「あっ、うん、魔法使いスタイルが一番好きだから杖を買おっかなぁ~って。
でも魔法も使えない内から杖を買っちゃうのも変だよねぇ~。
やっぱり最初はレンタル武器でいこっかなぁ~。」
こいつは魔法のスキルスクロールの値段を知ってんのか?
一高校生がおいそれと買える代物ではないんだが。
つってもそれを夢見るのは本人の勝手、俺がとやかく言う問題じゃないか。
とはいえそうなるとしばらくというかこれからずっとこいつはレンタル武器でやっていく事になる気がする。
「それなら俺の棍棒使ってみるか?
これなら無料だし。」
「えっ、いいのぉ~?」
「ああ、こんなので良ければ全然構わないって。
俺は先輩から貰ったこの短剣を使うつもりだし、予備として持ってるだけだから。」
「やったぁ~♪
じゃあ最初は賢斗の棍棒でいってみるぅ~。」
「おう。」
次回、第十一話 空気を凍らせる火魔法。




