二十四☆【前編(上)】泰斗の精神……柚葉最後の日……。
泰斗の精神……。
「誰だか知らんがお前の好きなようにはさせはしない……俺の精神はいつまで維持できるのか……もしも全てを失ったとしても守りたいものがある。今だからわかる……」
黒い影に再度精神を支配される前に、泰斗は記憶を全て取り戻していた。泰斗は弱った心につけ込まれ、黒い影に幾つかの魔術を唱えさせられ、やがて肉体を対価として奪われていたことを知る。奇跡的に肉体と精神が繋がっているこの現状に気付き、黒い影に精神を奪われることを恐れながらその時に備える泰斗。
「俺はこの世界にはもう存在する筈のない者。このまま自ら命を絶ってしまえば俺の存在した記憶は黒い影に操作され消されてしまうだろう。リーシャが柚葉達に術を掛ける可能性もある……償いを込め全ての想いを込めて……あいつらに魔術の防壁を唱える……今の俺の対価でどの程度の防壁が作れるのかは不明だが、出来ることは他にはない……」
そうして泰斗が魔術の防壁を柚葉、コウ、なゆりの三人に唱えた。そして泰斗の存在した意識が対価として奪われた。その後に黒い影は泰斗の意識が残した記憶全てを操作しこの世界から消した筈だった。だが泰斗が唱えたオーラのような防壁が三人を護り、柚葉、コウ、なゆりだけには泰斗の記憶が残り続けた……その防壁も泰斗消滅とともに金色に光りを放ちながら消滅した……。
柚葉最後の日……。
急なコウの呼び出しがグループSNSに入った。「今日はとにかくえんじぇるに集合な!」とのことで、柚葉は出掛ける支度をする為にシャワーを浴びていた。
「この世界との最後の日にえんじぇるってのも悪くないわね。でもホントに色々あったな……最後の日……か。なんか実感湧かないな……」
今までに考えたことも無かった……
最後の日は何をするべきなのだろう……
好きな物をいっぱい食べる。好きなことをする。好きなところに行く。
好きな……人と一緒に過ごす……あ……。
……これは……このまま考えてたらダメなやつだ……。
……きっと……何ももうしたくないって人もいるのかな……。
……あ……
……そっか……
……わかった……
『……何をやっても……ダメなんだ……』
幾つもの想い出が柚葉に襲い掛かる。昨晩は一睡も眠れなかった柚葉。
……やめてよ……
……ちょっと!静かにして!……
……いや、ちがう……
……うるさいのは……
『……わたしの心だ……』
……そうだ……
……何かで紛らわさないと……きっとダメだ。
……何かって何よ……
……ダメだ……
『……自分のココロは……自分では……ごまかせない……』
……わかってる……
……わかったわよ……
……手立てがない……
……解決策もない……
……孤独……恐怖を感じる……
……怖い……怖い……怖い……こわい……。
……ああ……。
『……ダメだ……』
……うるさいシャワーの騒音が今は丁度いい……
……泣き声も誰にも聞こえない……届かない……。
シャワーを浴びたまま壁に両手を突き、顔を伏せる。勝手に流れ出る涙。その涙が誰にも気付かれることなく排水口へ吸い込まれて行く。
……あ……やばい……
……そんなに泣いちゃダメだ……
……瞼が腫れると皆にバレてしまう……
……ほら……いつもみたいに明るく笑わなきゃ……
……あぁ……
……ダメだ……
『……もう……とめられないや……』
……痛い……痛い……
……向かい合わないように逃げてきたこの気持ちが痛い……
……コウを好きなこの気持ちが行き場を失くして痛い……
……人の優しさに触れ生まれた私の願いが痛い……。
『ママ……わたしの場所……見つけたんだけどな……』
……これから違う世界に行って……幾つもの辛い時間を何度も何度も乗り越えて……そして眠れない夜を一体、何度乗り越えれば……この気持ちを……終えられなかった愛情の悲鳴のような痛みを……
『ゼロにできるのだろう……』
その頃のコウ達……。
えんじぇるの一室で、サプライズで柚葉の誕生会の飾り付けをする為、早めに集まっていたコウとなゆりと楓と邦正。ちぃや美羽ママも今日は店内で稼働の日だ。マスターもいつも通り店番をしている。
柚葉からなゆりだけに連絡が来た。「ごめん。少し遅れちゃいそう」そのメッセージを見たなゆりがずっと躊躇っていたが、みんなのいないところへコウだけを呼び出した。
「あの……桐宮くんに言ってなかったことがあるんだけど……」
「ん?どうした?」
なゆりが視線を逸らしていて、心中で葛藤しているようだった……その葛藤に打ち勝ったなゆりの視線がコウを捉えた。
「……しおんもう居なくなっちゃうの!」
「ん?……柊?柚葉が居なくなるわけ……」
コウはなゆりが冗談を言う子じゃないのを誰よりも分かっていた。何故か否定しようとしている自分を自分で遮り考えた。
『……そうか……おれがそれを信じたくないだけだ……』




