二十二☆【前編(下)】犬なの?クマなの?……忘れないよ……。
ラモルの気持ち……。
「やった!絶対だよ。僕もしおんのことを絶対に護る!」
「ふふ。頼りにしてるわ。ありがと」
ラモルを抱えたまま珈琲を淹れる柚葉がラモルの分を小さなカップに注ぐ。目を閉じゆっくりと鼻で呼吸をして珈琲の香りを堪能している。
「どう?いい香りでしょ?」
「本当だ!いい香り!」
「このコーヒー豆はオーガニック栽培だから美味しいのよ。はい。あんたの分。ブラックでいいの?」
「しおんと一緒のがいい」
「ふふ。じゃあブラックね。スイーツと一緒に味わうと最高なの。それがわたしの最近のお気に入りなひとときよ」
「ふーん。しおんはいろんなこと知ってるね」
柚葉がリビングの扉を開けスイーツを探しているとラモルはとても楽しそうに柚葉の真似をし、両手でカップを持ち、ふうふうしてカップに口を付け、動物の飲み方ではなく人がする飲み方でゆっくりと珈琲をすすった。
「んわー!なにこれ!にがぃ〜」
ラモルの喚く声が部屋中に響いた。
「ぷっ、あんた普通に飲めるのかと思ったらコーヒー飲んだことなかったの?」
「うん。でもしおんが飲もうとしてたから飲みたくなった」
「もう……」
そう言って柚葉は何か思い立ったのか歩き出し、冷蔵庫の中からミルクを持って来た。
「あんたはこれ」
「それなら飲めるかな?ミルクって書いてあるね」
「あんた不思議に字は読めるのよね。わたしがあんたの飲めるものをわかる訳ないでしょ。飲んでみて」
少しづつ優しい口調に変わっていく柚葉。ラモルがカップに口をつけ今度は恐る恐るミルクを口にする。
「あ!これうみゃい」
「ふふふ。それはよかったわね。ってあんたは何をしにここに来たのよ?」
「それはこっちが聞きたいよ」
「あらそう……あんた幼少期の子供レベルの知能はあるようだけど。そこについては何か知ってるの?」
「生まれてから大体七年くらいだからじゃない?」
「……そう……。あんたに色々と聞いても余計ややこしくなることはわかったわ。じゃあそろそろ行く支度をするわよ」
「ん?どこに?」
「学校よ。わたしは高校生なの。部屋にずーと篭っているわけにはいかないの」
「やった!僕も行っていいの?」
「当たり前でしょ?ずっと一緒に居るって言ったじゃない」
「やった!しおん大好きっ!」
「フフッ。あんたって普通の人にも見えてしまったり、喋ってるの聞こえちゃうの?」
「うーん……。わかんない!」
「わからないかぁ。それもそうよね。なら先ずはコウやなゆりで試すしかないわね。まあでもあんたが黙ってればぬいぐるみに見えるでしょ。一緒に居れるようにちゃんといい子にしてなさい。外でみんなのいる所で勝手に喋ったり動いたら絶対にダメよ!」
「うん!わかった」
「ふふっ。いい子ね」
柚葉は世間にラモルのことが知れたら大騒ぎになることを恐れラモルに言い聞かせた。柚葉は聞き分けの良いラモルがいつの間にかたまらなく可愛く思えていた。
先ずは柚葉はなゆりにメールをし、「相談があるの」と伝え、二人の通学路の重なる通り道は学校付近しかないので「なるべく早めに登校をして少し話したい」と、伝えた。なゆりは柚葉の急な誘いにも対応できるくらいに朝はいつも余裕を持っていて、「大丈夫。問題ないよ。しおんは何分に着く?」と、返事が来た。
無難な時間設定をして予定通り柚葉はなゆりと合流した。
「なゆり〜!ありがと!ちょっと人目につかなそうな所で話したいんだけどいい?」
「うん。しおん急にどうしたの?相談って?あ!バッグのそのぬいぐるみどうしたの?可愛い〜!」
「なゆりだから言えるんだけど。これやっぱりぬいぐるみに見える?」
「何その言い方!……違うの??」
「うん。喋ったり歩いたりする……かも?」
「えぇ!動物?あ。動物でも喋らないかぁ」
なゆりは驚いているが楽しそうに興味津々にラモルを見つめている。柚葉はラモルに手作りのハーネスを付け、バッグにラモルが楽な姿勢で居れるように吊るしていた。四つの脚がブラーんとなっていた。
「普通はそうよね。だからややっこしいのよね」
「あ。そう言えば今日の相談って何なの?」
「それがこの子のことなんだけど。このぬいぐるみが喋ったり歩いたりするの。なゆりにもそう見えるのか、聞こえるのか知りたいの」
困りながらもなゆりがしおんに答える。
「私、嬉しい!」
「え?何がよ?」
なゆりの予想外の返しに驚きの柚葉。
「しおんが私を頼ってくれたから」
「ちょっと、ばか!やめてよ。信用できる人が本当にあなたしかいなかったのよ」
「ちょっと待って。くう〜〜!今はこの嬉しさを堪能したい〜!」
「なんかあんたキャラ変わってない?今日はなんか。オヤジね!」
「オヤジはやめて!」
なゆりは落ち着きを取り戻そうと、全身で深呼吸をし始めた。
「はぁ……やっと落ち着いた。あれ?私はどうすればいいの?」




